葦原天理は巫覡である 作:氷桜
一日開いてしまったけど更新更新。
駅前から歩いて暫く。
そのちゃんの自宅へと踏み入れた俺達は、其処で二人と別れ。
御両親が待つ居間と、彼女の部屋へとそれぞれの道を進んだ。
御両親への挨拶。
そのちゃんの現状。
当然のように聞かれる其れ等を、ある意味では正しく。
ある意味では若干誤魔化しながらに回答していく。
『無理をしていないか』
『体調は大丈夫か』
『変な所は無いか』
『葦原くんとは仲良くやれているのか』
聞かれることの大半は、彼女の体調について。
嘗てはその身を差し出し戦っていたことを知るからこそ。
(……多分、銀の事もあってだろうな)
そんな光景を、何処か冷めた目で見てしまっている自分がいる。
純粋に心配する親。
その中に俺の名前が混じるのは――――まぁ、想定できる範疇で。
笑顔で、その奥底に気恥ずかしさを混ぜながらの対話の中で。
言質を避けようとしているのはそのちゃんも同じ。
嘗て提言されるだけされ、結局闇へと消えたという婚約話。
その存在を俺達は知るからこそ、再び掘り返されないようにしている側面はある。
恐らく、隣に座る少女が避けようとしているのは両親から持ち出されるそんな内容で。
俺が恐れる事……いや、
前例で言えば、嘗ての消された勇者……せんちゃんの家庭事情。
現例で言えば、俺の面倒を見ていた保護者……伯父夫婦の面倒の見方。
其れ等が限定的な例であることは分かってる。
寧ろ現在の神世紀としては、どんな表現の仕方かは分からないけれど。
それでも、と考えてしまうのは――――多分、まだ若いからなのだろうけれど。
『これからも園子と仲良くしてくれ』
『勿論です』
本来、名家の名を継ぐ以上は。
会話、動作の一つ一つに意味を持たせるべきなのかもしれないけれど。
……そんな取り繕いをして、二人に見抜かれない筈もなく。
故に出来る限り自然体に、二人で並んでいて当然という。
幼い頃だから……中学生を幼い、と定義するのかは親次第だが……許される名分を利用する。
或いは、そんな俺達の関係を望んでいるのかもしれないけれど。
或いは、俺が婿として輿入れでも望んでいるのかもしれないけれど。
笑顔の仮面を被り続け、居間を退出し。
そのちゃんの部屋へと向かう途中で。
唐突に――――それこそ、何の理由も特に無く。
歩幅を合わせ、隣り合うことを望む少女へと指を絡めた。
「……ぇ~?」
きょとん、とした顔。
少なくとも平常時では自分でもしようとしない行為。
こんな場所で見咎められれば、という理性が確かに押し止める行動。
にも関わらず、そんなことをしてしまったのは。
多分……自分と彼女の差を改めて今日見てしまったから、なのかもしれない。
「……ごめんね」
「ううん……私が呼んだんだもん」
「何でか、すっごい疲れた気がするんだ」
それが何故、なのか。
気付いていた上で追求しないでくれる優しさが彼女にも在り。
そして彼女もまた、自身と俺との差を幾らかでも改めて認識したように思う。
「蔵の探索、私達だけでやろっか?」
「いや、俺もやるよ。 ……男手が必要になる部分は絶対あるだろうし」
「力だけなら負けてない気もするんだけどなぁ」
だが、お互いにその事を口にはしない。
今あるのは、家の在り方を放り捨てた上での勇者と巫覡として噛み合った二人。
そうして、心を通わせた二人――――そう、思っていたかったから。
「それでも、だよ。
少しくらい俺にも自慢させてくれないかなぁ」
「言ったね~?」
「そりゃ言うって」
軽口。
雑談。
部屋へと向かう足はほんの少し鈍りながら。
けれど、その先でも待たせている相手はいるのだから。
「じゃあ重いの、全部てんくんに任せちゃうよ?」
「流石に抱えられないのは無理って言いたいなぁ……」
「あはは、早速折れてる」
それでも、その手を離したのは扉の手前、その折れ口まで。
障子越しの灯りでさえも見られないように、その直前まで。
……何故か、互いに妙に惜しみながら。
(……そのちゃんの家でのこととかは、何でか焦ってたのにな)
その経験があるから今なのかもしれない、と。
頭を振りながらに考えを振り払い。
これくらい慣れなければ、と新たに浮かぶ欲望へと鍵を掛ける。
一つ叶えば更に次。
その次へと。
次から次へと浮かぶ欲望と、その願い。
それらが実際に叶うのはいつになるのか。
或いは――――永久に叶うことはないのか。
それさえも、今の俺達にははっきりとしないながらに。
一度、二度。
軽いノックを挟み、嘗ての……彼女が出ていった時そのままにされた部屋の中。
何処か居心地を悪そうにする二人へ、遅れた謝罪と動けるかの声掛けをした。
無論返った答えは『直ぐにでも』で。
……動き出す中。
そのちゃんと目線が一瞬だけ重なり。
二人だけで、小さく微笑んだ。