葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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ただイチャイチャしてるだけ。


前-12

 

「へー、やっぱり大変な感じだった?」

 

「多少は慣れてるけど……やっぱどーしてもなー」

 

「アタシの家でも同じことやったら……お父さん怒りそうだなぁ」

 

足を椅子から垂らし、動かす練習のようにじたばたと上下。

それを見上げる形で眺めつつ、片肘を立てて見守りつつ。

けれど立ち位置が悪いからか、足の奥が見えそうになって軽く突かれる。

 

「見るな」

 

「ならそんなはしたない真似するんじゃねーよ」

 

「天理の前じゃずっとしてたんだし、嫌だね」

 

何だその理不尽な言葉。

はぁ、と溜息を漏らしながら。

招かれた銀の部屋――――少しだけ飾り付けが増えていた部屋で一人口籠る。

 

 

そのちゃん達と出向いた実家帰り。

蔵の中を探索し終え、帰った時には既に夕食の時間さえもとうに過ぎた時間帯。

 

恐らくは、その時間調整自体もそのちゃんが泊まる事を半ば願って……だとは思うが。

ある意味当然のように、そんな遅い時間にも関わらず帰宅することを選び。

そして見せつけるように、片腕を取られての歩き難い形で帰宅することと相成った。

 

今はそんな帰宅を終え、銀と約束した一日の早朝。

ただ、外に出ることは余り望まず……家の中、とのご注文。

中々面倒な注文だな、とは思いつつも。

昔とは真逆な光景に、昔の俺が今を見れば驚いて顎でも外すんじゃないかと思う位。

 

外で遊ぶことを大いに好み、けれど実家での弟の事を楽しげに語っていた彼女。

その面影は残るものの……現在では『面影』しかないと言う意味合いでもあり。

成長と捉えるべきか、変化と捉えるべきかは人それぞれだろうが。

俺個人としては……少しだけ悲しさも覚えている。

 

「ん~?」

 

「なんだよ」

 

「いんや、また変なこと考えてそうだなぁと思ったけどさ」

 

気付けば、いつものように眺める視線。

 

嘗ては外で、立ちながら。

今では中で、座りつつ。

 

そんな差異はあるけれど。

半ば強制的に認められたように、距離を取るように言われていた相手と同棲しているけれど。

変わってしまった部分と、変わらなかった部分の差異だけは確かに護っていきたい。

 

「今の感じだとアタシのこと考えてくれてたんだろ?」

 

「だったら何だよ」

 

「なら良いかなー、とか思っちゃったりするわけですよ」

 

このこのぉ、とか言いながら蹴るんじゃない。

もしこの場に美森ちゃんでもいれば思いっきり叱られてるとこだぞ。

 

「だからそういうことするんじゃねーっての。

 特にスカート姿でするのどうかと思うぞ」

 

「えー」

 

「えーじゃなくてだな、見せたいのか見せたくないのかどっちなんだよオメー」

 

目線が向いてしまうかどうか、で言えば無言を貫く。

 

それだけ彼女が魅力的に成長した証拠、と言ってしまえばそれまでだが。

出来れば、そう。

()()()()()()()()()()()()()、という分類に近いのが銀だからこそ敢えて苦言を呈する。

 

「……ん、まぁこれ以上苛めるのはやめるとして」

 

少しばかり照れた表情を浮かべながら、顔を逸らし。

目線を合わせないような態度を取っている。

普段だったらこのまま流さないでもないが、流石に今の言葉は見逃せん。

 

「自覚してやってるって言ったか?」

 

「千景さんの教えだけど?」

 

何教えてるんだせんちゃん。

いや、俺が絶対悩むっつーか悪い感情を持つから教えただろ。

幾つか浮かぶ彼女への罵倒の中で、現実世界の時間は待っちゃくれない。

 

「まあ、そうやって反応してくれるだけ良いものとしておこう!」

 

「何処から目線なんだその言葉」

 

「いやほら、クラスメイトとかだって須美やら園子の方にばっかり目が行くし。

 天理も何となくだけどそっちの方ばっかり見てる気がするし?」

 

あー。

 

「無い無い。 クラスメイトは知らねーけど俺は其処までじゃない」

 

確かに男子ばっかりの馬鹿会話でたまに名前が挙がらないでもないけど。

基本は銀の面倒見てるか友奈とイチャイチャしてるかそのちゃんを叱ってるか。

そうでもなければ席に座って本読んでるか、俺に()()してくるか。

 

基本的に男子に関わる余裕がないから……だよな、多分。

外見で惚れて芽がないことを理解して勝手に失恋する、みたいなのがいるとか聞いた。

 

「うっそだー」

 

「目が向いてない、ってことはないぞ? そりゃ分かるだろ」

 

「あー…………まぁ、うん」

 

何だその曖昧な回答。

俺が思うより向いてる?

え、もしそうならもっと注意する必要あるんだけど。

 

「分からないなら分からないって言えよ……いや分かってる気がするけど。

 全員均等に相手するようにしてるから、だからな?」

 

「分からないわけないじゃん。

 ただ、言うのがちょっと辛かっただけですー」

 

「そんな事言われてもなぁ」

 

足をぶらぶら。

以前……怪我をした当初に比べれば大分動くようになった手足。

指がめり込んでいた、肉が存在しなかっただろう場所は今は引き攣れ程度で収まって。

けれど、その柔肌に痕が残っていること自体は変わらない。

 

「で、この後どーする?」

 

「どうしよっかなー、とは思ったんだけどさ。

 天理、今日は何言っても良いのか?」

 

「内容に拠る」

 

え、何その前置き。

今までの流れからして少し怖いんだけど。

そんな身構えをすれば、笑みとともに要望を呟く。

 

「だったらさー。

 アタシ、料理したいから後ろから見ててくんない?」

 

「……あー、料理?」

 

いつもしていること。

彼女達がそう言って希望する時は、後ろか横で見守る事にしているわけだが。

今更改めて――――と思わないでもなかったけれど。

 

「手料理、ちゃんと作るから食べてほしいなー……って言ったらバカにする?」

 

「しねーし出来ねーよ」

 

少しだけもじもじとした、本気で照れている時特有の動きを見せて。

そんな事を言われたのだったら……頷く他ない。

 

「楽しみにしてる」

 

「……うん」

 

……と言っても、手を課さないといけない部分はあるけれど。

 

彼女の手料理、という特別なもの。

何度食べても……うん、間違いなく美味しいだろうから。

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