葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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咳が酷すぎて昨日寝込んでました。


前-13

 

片手だけで器用に、もう片手を補助程度に。

既に半年以上を過ごしているからか、身体の使い方が上手いからなのか。

恐らくその何方もを上手く利用しつつ。

出来上がったのは、多少不揃いの家庭料理……肉野菜炒め。

 

それでも、きちんと火は通っていて味もしっかりとしている。

ご飯に合わせるには丁度いいとは思うが……何というか。

普段銀が作る味よりもほんの僅かに違う気がして、首を傾げ。

顔と目の前の料理とを何度も見直している光景を見て、笑っていた。

 

もう一人の同棲者……同居者、どっちなのだろう。

まぁ、互いに彼氏彼女と認めているのだし同棲としておく女性。

 

せんちゃんは朝から用事、と言い残して珍しく外へと出ていた。

ただ……その時に銀と何かやり取りをしていて。

何かを伝えたそうに俺にも目線を向けていたから、気を使ってと予想が付く。

 

今度は銀が気を使う番、という事になるんだろうか――――なんて。

食事を終えた後特有の満腹感に包まれながら。

少しだけ奇妙な眠気に微睡みながらに考え込む。

 

流石に、()()()()()()()()

 

『ほぼ寝ていない、と正直に言えばどうだ?』

 

『言えるかよ、楽しみにしてる相手に』

 

楽しんでいる相手の前で欠伸をする事程傷つける事も無い。

多分、銀ならそんな俺を気遣ってくれるとは思うのだが。

そうして欲しい訳ではなく……何というか、俺が後回しにしただけのモノ。

 

(明後日以降の為の事前準備、幾らか遅れてたからなぁ……)

 

基本的な結界、それに伴う運足の技術。

祝詞、そして其処から派生する神々の知識。

俺が主に習ったその二つと、個人的な趣味の派生から始まった形代作り。

 

それらは……()()()()()取り掛かろうと思えばいつでも行えること。

 

どうしても一部作業に時間帯の指定が挟まり、それで時間を取られる事もあったが、

それこそそれに専念するのだったら一日だって行える趣味と実益を兼ねたモノ。

 

それに対し、今回必要となる、神樹サマ――――と言うよりは造反神サマ。

彼の身許を起点として侵入する関係上、事前に用意しなければならなかった繋がり。

その準備は明確に『昼』とも『夜』とも定まらない、『あわい』の時間が必要らしい。

 

そう告げたのは、先程誂いの言葉を投げたワカ。

直接の面識は薄くとも、天の神という枠組みに属する以上。

互いのことは最低限に見知っているし、其処から推測できる内容くらいは理解していたらしく。

 

故に、其処に通じる為の形を作成していた訳だが……時間帯が難しいのは言うまでもない。

単純に『あわい』と一言で呼んでも一日に二度。

それも夏と冬で変わる長さがあり、極端な話をすれば……それを過ぎてしまえば()()()()()()

 

『夜ならまだ良いが、日が出ている間は決して触るな』。

それが俺へと伝えた伝言の一つだったので……どうしても朝早く起きる必要性が出てくる。

特に昨日は本来やる筈だった夕方分をすっぽ抜かした感じだったので。

眠い目を擦りながら内職に勤しんだ結果が今の状態。

 

「天理ー?」

 

「おう?」

 

椅子に座りながら、若干うつらうつらとしていれば。

テーブルの上の皿を一つに纏めていた銀が、訝しみながらに問い掛けてくる。

見えないだろう足元、腿を自分で抓って強制覚醒。

 

「なに、寝不足?」

 

「寝付きが悪かったんだよ」

 

そういうことにしておく。

 

楽しみで寝付けなかった、と言う側面がない…………とは言い切れないし。

何より、俺の提案で向かう場所にも関わらず準備が終わっていない事とか。

毎朝毎晩することがあると言っても、彼女達が優先されるのは変わらないので。

 

……完成した段階から少しずつ()()が抜けていく、というのが無ければなぁ。

もっと早くから始めていたのだけど。

 

「ふ~~~ん……」

 

「何だその目……」

 

じーっと。

或いはジトーっと。

私は疑っています、という感情を隠すこと無く見つめる視線。

背中に冷や汗が流れた気がして、目線を少しだけ逸らそうとし。

 

「天理?」

 

「はい」

 

重み、湿気、感情。

三点セットが乗った名前を呼ぶ一言だけで姿勢を正してしまう。

まるで……そう、彼女の親友である美森ちゃんのお怒りの時を彷彿とさせるモノ。

 

「もう一度聞くけど、眠気は?」

 

「酷いですマム」

 

「誰がマムだ誰が、須美が聞いたら矯正されるぞ」

 

半ば反射的に状況、状態を説明。

全面的に降参。

無理に歯向かえば、現在の機嫌よりも更に急落下するだろうし。

同時に俺の生命という問題も発生しかねないので。

 

はぁ、と露骨に溜息を漏らしてみせる銀。

どきどきしながらどんな無理難題を言いつけてくるのか、警戒していれば。

 

「ん」

 

一度立ち上がり。

動きを見守っていれば、ゆっくりと移動したのは長続きのソファー。

その端へと座り、膝を一度叩く。

 

「ん?」

 

「分かれよ」

 

「せめて言葉でもう少し説明してくれない?」

 

わかったような、わからないような。

そんな意味を込めて首を傾げれば、頬を染めてもう一度膝を叩く。

そして手招き――――そうされれば、流石に分かって。

ふらふらと近付き、彼女の隣に座り込む。

 

「いや、それでいいのか? 銀は」

 

「まー……他にしたいことがないわけでもないけどさー」

 

口の奥で浮かんだ欠伸。

口内で噛み殺しながら問い掛ければ、少しだけ目線を持ち上げたあと。

 

「こういうゆっくりとした時間、最近無かったし。

 他の皆にはしてるだろう事、アタシがやってもいいだろ?」

 

「あー…………」

 

じゃあ、お邪魔します。

うん。

 

そんな、互いにおどおどとした会話をして。

膝の上を枕代わりに横になれば――――それだけで瞼が重くなる。

どれだけ疲れていたんだよ、と自分に問いたくなるほどの速さ。

 

それでも。

 

「……おやすみ」

 

「……ああ、おやすみ」

 

そんな言葉と。

柔らかい笑みに。

そのまま、飲み込まれていった。

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