葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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前-15

 

聞かれたことは、そのちゃんの時と同じようなこと。

ただ違ったのは、その態度……と言うよりは心配度合いか。

 

ある意味で自分の娘であることよりも、世界自体を重視する乃木家。

ある意味で、『自分達の娘』であることを何よりも重視した鷲尾家。

 

だからこそ、其処に籠もる熱も確かに違い。

俺への問い掛けの熱量も違いが見え……けれど、何方にも愛情は確かにあった。

 

「……お疲れ様」

 

「同じことを言い返せるとは思うんだけどなぁ」

 

ふぅ、と息を抜けたのは美森ちゃんの部屋。

洋風仕立ての部屋で、明らかに例外として変えられたような和風。

何が彼女を其処までさせるのかは未だに理解が及ばないけれど。

 

それでも、少しでも理解しようとし続けた結果だろうか。

それとも、最初からある程度似通っていたのが理由だろうか。

 

眼の前で淹れられたお茶は好みの濃さで、添えられた茶菓子も以前に貰った物。

本来一番噛み合っている気がする牡丹餅は……流石に作れる時間がなかったようで。

それだけが残念ではあるけれど、胸が膨らむこと自体は変わらない。

 

一口、二口。

何となく――――精神が安らげる気がする、そんな時間。

 

「私は其処まで深く聞かれなかったもの」

 

「東郷の御両親とも連絡取ってるんだっけ?」

 

「そうね、私が止めるものでもないし。

 ……御役目の頃に何かがあれば、もしかしたら何かが変わっていたかもしれないけど」

 

()()()()問題は皆抱えてるよね……」

 

ただ、今回の場合は良い意味での”もしも”。

 

御役目の時の何か、つまり彼女達の身に何かがあったらという変化。

 

もし、銀の負傷の当たりどころが悪ければ。

もし、美森ちゃんやそのちゃんの命が奪われていれば。

もし、今以上に現実世界への影響が大きかったら。

 

文字通りに命を懸けた争いだったのに、運が良かったという一言で片付けたくは無いけれど。

多かれ少なかれ、一分一秒を争うような密度の中での争いだったのだから。

ほんの少しだけの幸運を誰かが与えてくれたというのなら、それに感謝するべきなのだろう。

 

不思議と――――神樹サマへは、その気持ちが向かないのは恐らく性分。

と言うより、()()()()()()にも似た感想と言うか。

俺だったらそうしているのだから、当然そうしているだろうという。

結び付いてしまったことに拠る影響……なのだと、自分で自分を誤魔化している。

 

「でも、私は今のままで良かったと思ってる。 天理くんも、そうよね?」

 

「ん……まあ、ね」

 

たった一つだけ。

叔父夫妻のことだけが頭に残るけれど、それは運が悪かったのだと。

自分で自分を納得させられるくらいには落ち着いてきたからこそ。

ほんの少しだけ言い淀みながらも、反応を返すことが出来る。

 

「何かが起こるよりは、ずっと良かったと思う」

 

そして。

明日からは、その『何か』に近いことを起こしに行く。

 

次の勇者としての役目を果たす前の戦い。

次こそを最後とする為の戦い。

 

その為にするべきことが、力を与えてくれる神への造反というのもお笑い草だが。

結局……俺は、何らかに塗り固められたような考えに従えない性質なんだろうか。

 

こうすれば良い。

ああすれば良い。

 

後から言えることではなく、目先に見える事での判断。

ほんの少しだけ人と違うことを知るからこそ、それに向けて直進していく考え。

それに彼女達が従ってくれること、それ自体もまた……幸福。

 

「そう、よね」

 

向かい合っていた彼女が、少しだけ位置を変える。

眼の前から横へ、隣り合うように。

そして、そのほんの少しの動きで……彼女がちょっとずつ若返っていくように見えた。

 

東郷美森から、鷲尾須美へと。

この家で過ごしていた頃、もっと四角四面だった頃。

その表情が綻んだのを初めて見た頃。

 

……そんな僅かな事が、奇妙な程に嬉しかったような。

良く分からない感情が浮かび上がっては消えていく。

 

「どうしたの?」

 

「ううん、何でも無いんだけどね」

 

唐突な行動。

ただ、彼女が向き合うよりはこうすることを好んでいることは知っているから。

念の為にと聞きながら、ある意味で当然の答えが返ってくる。

 

「この部屋にいると――――こうしたくなるの」

 

そっか、と漏れたのはある意味必然だったのかもしれない。

薄々と気付き、理解しながら否定しない。

 

この家に仕える従者さん……と言うよりはお手伝いさんか。

彼女達も、御両親もこの部屋には近付かないある意味聖域。

そうなっている理由もまた、多分今俺達がこの場所にいるからなのだろう。

 

それだけ愛されている、と取るべきか。

或いは面白がられている、と思うべきか。

 

何にしても、常に『責任』の二文字が付き纏う関係性になってから。

彼女達全員が積極的になっていることは否定できない。

 

「此処だから、って理由だけでもないと思うんだけどなー」

 

「あら、どういう意味?」

 

言わなくても分かるだろう、という意味を込めて目線を向け。

微笑むだけで何も口にしない状態を見て……口にすることを望んでいると判断し。

 

はぁ、と。

先程までとほんの少し違う意味を込めた息を吐きながら、言葉にする。

 

「敢えて皆、って言うけどね。

 皆、大体が自分の好きな場所で好きなようにするじゃん?」

 

「そうでもないわよ?」

 

「多分そのちゃんと美森ちゃんは同率一位くらいの感じなんだけど」

 

「違います」

 

ならどういうことだ、と聞き返せば。

微笑みを一向に緩めること無く、顔を近づけ耳元で囁く。

 

()()()()()()、こういう事したくなるって話だもの」

 

頬に僅かに温もり、そして直ぐに離れ。

何処か楽しそうにしている彼女へ一言。

 

「……やっぱり、美森ちゃんは美森ちゃんだよね」

 

「待って、どういう意味なのそれ」

 

どういう意味も何もない、と。

頬を掻きながら……互いに照れ臭いながらの会話をしながら。

精神を安らげる時間は、刻一刻と終わりを告げ始めていた。

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