葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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出立前。


前-16

 

八月三日、早朝。

当初の予定通りの、初めて自由になった日。

天候は夏晴れで、少しだけ暑くなりそうな――――そんな快晴を見せている中。

 

「おっはよー!」

 

駅に向かうその前、自宅集合時間より十五分程早い時間。

普通に言えば早朝、と言い切って良いような時間帯。

にも関わらず顔を覗かせた友奈は元気そうで、その手には大きな荷物が見え隠れしていた。

 

「おっす。 御両親はなんか言ってたか?」

 

「んー、迷惑はかけないようにー、って」

 

「何だそりゃ……」

 

そんな事を言いながら、じろじろと服装を見られているのに苦笑する。

普段の和装と違い、洋装……それもポロシャツ込みの服装にポケットが多めのズボン。

山登りでもするのか、と疑われそうな重装備。 微妙に暑い。

 

「天理くんならまず大丈夫だろうけど……みたいなことは言ってたかな?」

 

「微妙に信用判定されてる。 こわい」

 

それだけ信用されている……と判断しておく。

仮にも男が混じっている面子での二泊三日を想定した”旅行”。

一応俺からも直接報告とかはしていたけれど、何か言われるくらいは覚悟していたのだが。

『二人で?』という笑いながらの質問を経て以降何もなく、少しばかり怖くさえあった。

 

「まあ、お母さんは何でか応援してくれたけど」

 

「ああ……うん、そっか」

 

何でかあの人は俺に好意的なんだよな。

記憶も曖昧になりつつある、生前の両親との関係性故なのだろうか。

 

「お父さんは何か言いたそうだったけど、結局何も言わなかった……感じ?」

 

「そりゃお前、言わなかったじゃなくて言えなかったの間違いだろ」

 

取り敢えず少し上がるか聞いてみれば、当然のように靴を脱いで上がっていくつもりらしい。

 

未だに美森ちゃんは顔を見せないし、そのちゃんは流石に自宅から駅に向かうと言っていたし。

最終的な集合場所は駅前で統一はしているけれど、近場は近場で合流して連れ立っていく。

 

自然とその段取りは組まれていたので……多分、俺が知らない部分でも仲良くしてるんだろうな。

そう思うと、不思議と笑みが浮かんでくるのは良く分からない。

 

「おー、友奈じゃん。 おはよー」

 

「あ、銀ちゃん。 おはよ!」

 

「……朝から元気ね、結城さん」

 

朝から元気な姿を見せる銀。

朝だから普段よりも気力が弱いせんちゃん。

分かりやすい対照的な二人ではあるが、だからこそに息が噛み合い易いのは正反対だからか。

 

ふと脳裏に浮かんだ彼女(たかしー)は……多分、方向性が似ていたからこそ。

互いに手を取り合いながらも決定的な部分を理解できなかった、そんな気がする。

 

「えーっと、千景さんのその服って降ろしたてだったりするんですか?」

 

「え? ……ええ、まあそうね。 動きやすさが第一だけど」

 

居間の片隅に全員分の荷物。

時間潰しの道具や着替え、それなり以上の財布の中身。

そして一際目立つ、せんちゃんの大葉刈偽装用の大きめの鞄。

 

一応柄を折り畳めるようにしてはあるけれど……他の武具に比べて横幅を取るのは間違いなく。

だからこそ、一人だけ鞄を二つ背負うことになる彼女の荷物。

余り大きくなりすぎないように、俺の手荷物の側にも幾らか分けられていたりする。

 

「やっぱり私も新しいの着てくればよかったかなー」

 

「其処はまあ自由だろうけど……どうした急に」

 

「えー、何だろ。 なんか見てたら急にそう思った、っていうのが本音かなー?」

 

「まぁた曖昧な……」

 

まあ、確かに普段の服装と全員が全員違う中。

友奈は割りと良く見る……と言って良いのか、彼女自身の好みの服装。

その辺りは自由というか、個人の趣味に拠るんだろうけども。

唯一俺だけは周囲から強制された服だし。

 

いやまあ、和装よりは色々と身を守れるって意味で大事ではあるんだが。

意識を集中する、って意味合いでは和装のほうが噛み合うんだけどなぁ。

いつからこうなったんだか、俺自身ももう良く分からない。

 

「まだ時間もあるし、着替えてくれば?」

 

「んー、大丈夫! 一応持ってきてはいるんだ!」

 

「だったらそんなに悩む必要無い気がするのは俺の勘違いか?」

 

銀の提言、友奈の拒絶。

しかもその理由が理由だけに思わず突っ込むように口にすれば。

ぶぅ、と頬を含まらせたのは何故か銀も合わせて二人で。

せんちゃんもまた、溜息を吐いて肩を竦めているように見えた。

 

「な、なんだよ……」

 

「いや、天理ってさ……普段はあんなに気が回るのに。

 びっみょーに女心が分かんないっていうか、抜けてるよな」

 

うんうん、と同じように顔を振る二人。

奇妙な程に息が合っている姿自体は良いのだろうが。

その内容と、俺の発言と。

何かそこまで問題と言うか……其処まで言われる理由あるのか、と逆に口にしたくなってしまう。

 

思わず口を開こうとして、玄関先からチャイムが鳴る音。

 

「ぐむ」

 

口先を尖らせてしまいつつ。

恐らく時間的に美森ちゃんが来たんだろうな、とそちらへ脚を向けようとして。

 

「……おい、銀」

 

「な、なんだよ」

 

「腹抱えて笑う必要あったか!?」

 

「いやー、神様が見てるんだろうなーとは思った!」

 

絶対後で頬でも引っ張って面白い顔にしてやる。

そんな決意をしながら、玄関先へと向かう背中へ。

 

「……お笑い?」

 

「銀ちゃんとまーくん、噛み合うと変な事で言い合いになるのよね……」

 

ひそひそと語り合う言葉。

 

その声も聞こえてるぞ二人共。

後で銀と同じ刑に処す。

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