葦原天理は巫覡である 作:氷桜
八月三日、早朝。
当初の予定通りの、初めて自由になった日。
天候は夏晴れで、少しだけ暑くなりそうな――――そんな快晴を見せている中。
「おっはよー!」
駅に向かうその前、自宅集合時間より十五分程早い時間。
普通に言えば早朝、と言い切って良いような時間帯。
にも関わらず顔を覗かせた友奈は元気そうで、その手には大きな荷物が見え隠れしていた。
「おっす。 御両親はなんか言ってたか?」
「んー、迷惑はかけないようにー、って」
「何だそりゃ……」
そんな事を言いながら、じろじろと服装を見られているのに苦笑する。
普段の和装と違い、洋装……それもポロシャツ込みの服装にポケットが多めのズボン。
山登りでもするのか、と疑われそうな重装備。 微妙に暑い。
「天理くんならまず大丈夫だろうけど……みたいなことは言ってたかな?」
「微妙に信用判定されてる。 こわい」
それだけ信用されている……と判断しておく。
仮にも男が混じっている面子での二泊三日を想定した”旅行”。
一応俺からも直接報告とかはしていたけれど、何か言われるくらいは覚悟していたのだが。
『二人で?』という笑いながらの質問を経て以降何もなく、少しばかり怖くさえあった。
「まあ、お母さんは何でか応援してくれたけど」
「ああ……うん、そっか」
何でかあの人は俺に好意的なんだよな。
記憶も曖昧になりつつある、生前の両親との関係性故なのだろうか。
「お父さんは何か言いたそうだったけど、結局何も言わなかった……感じ?」
「そりゃお前、言わなかったじゃなくて言えなかったの間違いだろ」
取り敢えず少し上がるか聞いてみれば、当然のように靴を脱いで上がっていくつもりらしい。
未だに美森ちゃんは顔を見せないし、そのちゃんは流石に自宅から駅に向かうと言っていたし。
最終的な集合場所は駅前で統一はしているけれど、近場は近場で合流して連れ立っていく。
自然とその段取りは組まれていたので……多分、俺が知らない部分でも仲良くしてるんだろうな。
そう思うと、不思議と笑みが浮かんでくるのは良く分からない。
「おー、友奈じゃん。 おはよー」
「あ、銀ちゃん。 おはよ!」
「……朝から元気ね、結城さん」
朝から元気な姿を見せる銀。
朝だから普段よりも気力が弱いせんちゃん。
分かりやすい対照的な二人ではあるが、だからこそに息が噛み合い易いのは正反対だからか。
ふと脳裏に浮かんだ
互いに手を取り合いながらも決定的な部分を理解できなかった、そんな気がする。
「えーっと、千景さんのその服って降ろしたてだったりするんですか?」
「え? ……ええ、まあそうね。 動きやすさが第一だけど」
居間の片隅に全員分の荷物。
時間潰しの道具や着替え、それなり以上の財布の中身。
そして一際目立つ、せんちゃんの大葉刈偽装用の大きめの鞄。
一応柄を折り畳めるようにしてはあるけれど……他の武具に比べて横幅を取るのは間違いなく。
だからこそ、一人だけ鞄を二つ背負うことになる彼女の荷物。
余り大きくなりすぎないように、俺の手荷物の側にも幾らか分けられていたりする。
「やっぱり私も新しいの着てくればよかったかなー」
「其処はまあ自由だろうけど……どうした急に」
「えー、何だろ。 なんか見てたら急にそう思った、っていうのが本音かなー?」
「まぁた曖昧な……」
まあ、確かに普段の服装と全員が全員違う中。
友奈は割りと良く見る……と言って良いのか、彼女自身の好みの服装。
その辺りは自由というか、個人の趣味に拠るんだろうけども。
唯一俺だけは周囲から強制された服だし。
いやまあ、和装よりは色々と身を守れるって意味で大事ではあるんだが。
意識を集中する、って意味合いでは和装のほうが噛み合うんだけどなぁ。
いつからこうなったんだか、俺自身ももう良く分からない。
「まだ時間もあるし、着替えてくれば?」
「んー、大丈夫! 一応持ってきてはいるんだ!」
「だったらそんなに悩む必要無い気がするのは俺の勘違いか?」
銀の提言、友奈の拒絶。
しかもその理由が理由だけに思わず突っ込むように口にすれば。
ぶぅ、と頬を含まらせたのは何故か銀も合わせて二人で。
せんちゃんもまた、溜息を吐いて肩を竦めているように見えた。
「な、なんだよ……」
「いや、天理ってさ……普段はあんなに気が回るのに。
びっみょーに女心が分かんないっていうか、抜けてるよな」
うんうん、と同じように顔を振る二人。
奇妙な程に息が合っている姿自体は良いのだろうが。
その内容と、俺の発言と。
何かそこまで問題と言うか……其処まで言われる理由あるのか、と逆に口にしたくなってしまう。
思わず口を開こうとして、玄関先からチャイムが鳴る音。
「ぐむ」
口先を尖らせてしまいつつ。
恐らく時間的に美森ちゃんが来たんだろうな、とそちらへ脚を向けようとして。
「……おい、銀」
「な、なんだよ」
「腹抱えて笑う必要あったか!?」
「いやー、神様が見てるんだろうなーとは思った!」
絶対後で頬でも引っ張って面白い顔にしてやる。
そんな決意をしながら、玄関先へと向かう背中へ。
「……お笑い?」
「銀ちゃんとまーくん、噛み合うと変な事で言い合いになるのよね……」
ひそひそと語り合う言葉。
その声も聞こえてるぞ二人共。
後で銀と同じ刑に処す。