葦原天理は巫覡である 作:氷桜
序でに言えば『花畑』の明確な存在理由も違ってきますが、こればっかりは申し訳有りませんがこういう理由ということになっています。
電車に揺られること暫く。
駅前で集合し、その人数は倍以上の数へと変わり。
周囲からの目線も明らかに増す中で、全員の意見の一致を以て移動し始め
「…………此処、ね」
周囲が少しばかり空いた場所。
恐らくは大赦……或いはこの土地を持つ誰かがそうしているからなのか。
住宅街、商店街。
そういった場所に踏み込んで暫し先、嘗ての空気を漂わせるようにその場所は在った。
隣り合って眺める風景は、せんちゃんも初めて見るモノだからか。
途中までは少しばかり怯えた表情を見せ、其処を過ぎてからは取り繕うように元へ戻り。
そんな幾らかを通り越した先、泊まる場所は違うけれど……目的の場所。
俺にとっての遠縁の、ある意味本家とも言って良い家系の神社。
花本家が未だに護り続ける神社は、そんな場所にひっそりと佇んでいた。
「ねえ、あの花畑って」
「えーっと……直接の祖先、って言って良いのか分からないんだけど……。
せんちゃんの巫女だった人、美佳さんの作った場所らしい」
興味深そうに見詰めている幾人か。
その中で直接的に関わっていたひなたは何処か寂しそうな目で。
そして、ある意味で真っ先に目に入る場所。
境内の直ぐ側に設けられた、大量の彼岸花の花畑。
季節外れにも関わらず先に咲いた何本かが伺え、残りは未だに咲くのを待つそんな場所。
当然、その花について聞いてきたのは……花に最も詳しいだろう友奈で。
俺も又聞きとなるそれについて返しながらも、不思議と目を離せない場所だと認識していた。
(確かに……此処なら移動できる気はする。
あの土地、あの刃から感じたような静謐さが残ってる)
多分、その理由は二つ。
巫女としての覚悟の差と……目の先、花畑の手前の空いた土地。
その場所を利用できるようならばして良い、と言われていたから。
(良いのかな、と思ってしまうのは……仕方ないのかね)
本来の……嘗ての巫女の在り方とは完全に別物。
『巫覡』と呼ばれているから、というだけではなく……個別に助ける存在でなく。
複数人へと力を貸し、手を出している
実際問題それに近い想いを常に抱き、それに近い行為を為し。
必要だと言われても拒絶していた過去に比べ、積極的になってしまっている部分もある。
まるで――彼女達も含め――何かに引っ張られるような感覚に恐怖が無いとは言えず。
直接問い掛け、それが確定してしまうこと自体へも恐怖感が有り。
どっちつかずに陥ってしまっている自分を責め立てる自分も、確かにいる。
だから、なのだろう。
たった一人に尽くし続け、自身を投げ出した嘗ての巫女たち。
勝ち負けとは関係ないのは理解しているし、感謝の意を持ち続けているのも事実だが。
(……そんな場所から、始めるんだもんな)
ぎゅ、と手へと力が籠もり。
それを誰かが見たような、そんな視線を感じた。
未だに荷物さえも置いていない。
と言うより、正しい意味での宿泊施設へは連絡していない。
事前に手紙で連絡した際に『この事』を仄めかす内容を送り。
そして返ってきた内容に、近くの空いた一軒家を数日貸すような内容が記されていたから。
どうやらこの付近の顔役であるのは間違いないらしく、故に土地や家を持つのも同じ。
分家と本家という差はあるけれど、やっている事自体はほぼ同じで。
平屋建てのアパートに幾つか空きがあり、どうせならばと好意に甘えた次第だ。
その理由も……下手をすれば、このまま直接向こうの世界に行けるかもしれないからで。
数日程度のズレは覚悟して欲しい、とたかしーから告げられていたのも有り。
迂闊に宿泊施設を借りてしまえば……それこそ。
真逆に問題を引き起こすことになると留意していたからだろう。
「天理、それでどうすんの?」
暫く花畑を見詰めていた気がする。
そんな折に腕を引くように確認してきたのは、松葉杖で移動し始めていた銀。
どうしても階段などが避けられない都合上、車椅子では色々と問題があるのは確かだが。
彼女自身がそう望み、医者からも許可が出たからこうして少しだけ治療の経過を見せている。
それ自体は――――うん、喜ばしいことだとも感じながら。
どうしても元気だった頃の姿と重ねてしまい、落ち込んでしまうのもまた事実だった。
「もう一人の都合っていうか……準備が出来たら始めるつもり」
どうなんだ、と心の内側で聞けば。
もぞりと反応を示す三柱。
『後一時間くらいかなー? 一応体調不良ってことで通すみたいなんだけど……。
すごい申し訳無さそうな顔してるよ、亜耶ちゃん』
『それはそうだろうが……最悪の場合は問題ないのか?』
『其処は……うん、内部で協力してくれる人とこないだ話してたでしょ?
あの人たちの協力もあって、少しの間だったら
後は……女の子の日が重いとかなんとか。
体調を崩す、と言うよりは気分が悪くなるのは割りとあることらしいのであまり深くは聞かないが。
男の身としては聞くこと自体がちょっとキツイってのは言っても許されるだろうか。
「……え、何? 急に顔色が悪化したけど」
「すいません風パイセン、ちょっとだけ待って貰えます?」
「なんで私に対してだけ微妙に雑なのよアンタは……」
そういう事ができる人だと思ってるので。
(……じゃあ、準備ができたら)
『うん……だからさ、その前に挨拶とかご飯とか済ませれば良いんじゃないかなぁ』
良いなぁ、と漏れ聞こえる声。
苦笑を交えつつ、分かったと告げて。
今聞いたことと……これからの予定に関して口を開いた。
恐らく。
踏み込んだら、其処から暫くの間は――――休んでいる余裕なんて無いだろうから。