葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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それから約一時間ほど、時間を持て余す状態が続いた。

 

親戚(血縁上超遠いことになるが)に連絡もしてみたが、丁度急用で出なければいけないらしく。

部屋の鍵の場所だけを聞いた上で、駅前のコンビニで食料を買って腹拵え。

 

ただ、まぁ。 なんというか。

 

「……」

 

「目が死んでるぞ、てんり……」

 

「え、そんなに不味いかなぁ、これ」

 

もっさもっさとパンやおにぎりを齧る集団、という奇妙な状況の中。

多分自然となんだろうけど、目が細くなると言うか気力が失われていった俺。

 

心配する声が友奈やらタマ先輩から飛び出てくる。

 

理由は……ああまあ、一種の()()()に近いと分かっているから口も重いが。

今からすることを考えれば、少しでも不安感を抱かせたくはないので素直に話す。

 

「いや、パンはまあ大丈夫……大丈夫? だから良いんだけど」

 

「大丈夫ってのもなんか変だけどな……うん、それで?」

 

「コンビニのお握り、どーにも受け付け難い舌に染められてるっぽい……」

 

幼い頃から一応はお手伝いさんの食事を食べてきた、というのはある。

それから離れても自分なりに工夫を重ねてきたからなのか。

将又此処最近は彼女達の手料理、自炊を食べる機会が殆どだったからなのか。

微妙な舌先の味の違いに拒絶感が浮き出ている。

 

「でも外食とかは普通にするじゃん」

 

「いや、そっちとはまた別だよ別。 銀にこう言って伝わるか分かんねーけど」

 

大量生産品とその場で作られてる違い、と言うか。

いやうん、相当贅沢なこと言ってるのは分かる。

ついでに我慢できる範疇でもある。

 

ただ、普段口にしないモノと口にするモノの差と言うか。

ほぼ常に朝はご飯というのもあってか、微妙な差に過剰反応してしまっているのだと思う。

そのせいで朝はご飯も口にしないと食べた気がしない、という呪い付き。

こんな沼に誰が沈めたんだ――――なんて言えば、まあ浮かぶ複数人がいるわけだが。

 

「……天理くんの意見に全面的に賛成するわ」

 

「……そうですね、賛成に一票を投じます」

 

「分かんなくもないかなぁ~私は」

 

その主犯格二名も同じような表情を浮かべ。

もう一名も苦笑いを浮かべて賛同を示している。

 

……いや、此処まで極端になるってのも珍しいな。

普段使ってるコンビニと違うからなのだろうか。

 

「でも、舌に合う合わないはある……よね? タマっち先輩も」

 

「そりゃなー。 ただ、此処まで極端なのも珍しいよなー」

 

「何となく……は分かりますけど。

 私もお姉ちゃんの味に慣れちゃってる部分はあるので」

 

各個人の趣味、味の好み。

若干に違いがあるから、というのはあるのだろうが……。

外食、と言う手段は幼い頃取ってこなかった俺達だから、という面はありそう。

うどんだってコシの強さとかで微妙に好きな店が違ったりもするんだし。

でもうどん自体が()()、という個人は見たことがない。

ある意味万能食だよなうどん。

 

『おーい、天理くーん』

 

そんな事を考えていたからだろうか。

舌に残る微妙な雑味というか、張り付く味と言うか。

それを水で流していると胸元から響いたのはたかしーのモノ。

ふと時計を覗き込めば、先程の話からもう少しで45分程が経過するくらいの時間帯。

 

(早いね、たかしー)

 

『向こうでちょっとトラブルが起こりそうでねー。

 亜耶ちゃんが巻き込まれる前に早めに準備した感じ』

 

(トラブル?)

 

はて、大赦の内部で?

少しだけ首を傾げつつ、その先を促す。

 

そんな俺の態度の変化に、何かがあったのかと声を掛けられるが。

掌をそちらに向ける形で押し留め、少し待って貰えるように態度で示す。

 

それにしてもこうして経由した連絡できるって本当に無法だな。

向こうに行ったら流石に出来ないだろうし、携帯端末が使えるはずだからそれでになりそうだが。

 

……亜耶は当然持ってないし、使い方を教えるところからだろうなぁ。

 

『うん。 前にちょっと話したけど……亜耶ちゃんが誘われたって話、覚えてる?』

 

(あー……何だっけ。 たかしーを利用しようとするクズみたいな派閥の話?)

 

『過激的だなぁ……間違ってないけどさ』

 

苦笑、の中に混じるほんの少しの黒い感情。

 

友奈と瓜二つ、隣に並べば双子として紹介して違和感も皆無だろう少女。

ただその大きな本質の一つは、幾らか見える黒い過去と重い背景の差だろうか。

それを説明されたからこそ、僅かに分かる……恐らくはせんちゃんも似たものを感じていた筈。

以前に比べれば表に出すようになってしまったそんな差異が、明確に俺へと伝わってくる。

 

『話戻すね。

 亜耶ちゃん、また先輩通じて誘われる感じになりそうで……。

 今こう、病気ってことにしてる訳でしょ?』

 

(……あー、見舞いって名義で話を振られるかもしれないって?)

 

其処まで彼女を誘う理由ってなんなんだろうか。

いや、一応国土家自体も名家には及ばないものの歴史は古い家ではあるんだけども。

……例の妙な計画に利用できる相手だからか?

 

『そんな感じ。 とにかく姿さえ隠しちゃえば此方でなんとかする、って言われてるからさ。

 早めに動ける?』

 

(まぁ、美森ちゃんとひなたが手伝ってくれるなら大丈夫だとは思うけども)

 

やるべきことは決まってるし、後は祝詞の詠唱とか繋がりを辿る形だし。

それに最終的にはたかしー……神樹サマに引っ張られる形なのは変わらない。

俺が出来るのはその補助と、ワカやヒメを利用した介入だ。

他の全員が出来る、って言うなら俺自身は問題ない。

 

『うん、じゃあ早目にお願い』

 

(了承)

 

会話終了、と同時に手を降ろす。

 

それだけでわらわらと周囲に集まり始める少女達。

事情をどう説明するかな、とほんの少しだけ悩みながら。

口火を切った一言は、端的に。

 

「ちょっと向こうでトラブル。 前倒しになるけど動き始めるよ」

 

詳しくは――――まぁ、あの彼岸花畑の前に行くまでに。

 

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