葦原天理は巫覡である 作:氷桜
「……成る程?」
苛立ちを隠さない声色で呟いた若葉。
笑みの仮面で表情を覆い隠すひなた。
分かりやすい勇者と巫女は、それでも尚まだ落ち着いている方で。
「…………今も変わらないのね」
逆鱗の一つに改めて触れていることを理解したせんちゃん。
足元の土に当たるように幾度も蹴りを繰り返し、土が掘り返され。
飛んだ土が周囲に飛び散るけれど、誰もそれに対して文句も言わない状態だった。
(……まあ、気持ちは皆分かるもんなぁ)
自分に置き換えた時。
最も大事な相手の一人を利用されようとしている、と知った時。
そうならないとは言えないと、誰もが理解していたからであり。
同時に今から行う事で対応するのだと分かっているから、と言う側面もある。
(ただ、
――――その筈だ。
それ以上に踏み込まないように片手を取り、握ることで意識させて落ち着かせ。
恐らくは……今改めて結んだ縁も合って。
彼女はそれ以上踏み込まないところで押し留まっている。
それより先に進まないで欲しい。
以前を……嘗てを繰り返さないで欲しい。
過去を断片的にでも知るからこその願いであり。
彼女を知る全員からの、きっと無意識下の願いでもあった。
「天理くん」
「ん、もう大丈夫?」
ええ、と頷いたのは出来る限りの部位を清めた美森ちゃん。
口、手。
手水舎で洗い流せる簡易的な部位の清めであり、本来……普通であれば必要十分な行為。
それを覡全てが行うのは単純な理由で……俺一人で行える儀式なのか不安が強かったから。
俺が繋がる幾つかの神との繋がり、彼女達が持つ繋がり。
そして神樹サマから与えられる加護を含めて考えた場合。
何方の方が強い繋がりを持つかは極めて曖昧。
故に、今までにもずっと手伝って貰っていた彼女達の力を借り。
たかしーとの細い線を構築、その上で拡大して貰い肉体毎に乗り込んでいく。
そんな事前準備を前に、少しだけ緊張していなかったかと言えば嘘になる。
ただ……そんな感情は、周囲の皆の怒りに飲まれて消え去って。
抑え込み、そして波状して皆も似たような感情を抱いては沈んでいく。
多かれ少なかれ、大赦と言う組織に
下手に外から突かれないだけまだマシ……と読み取ることも出来てしまう。
そんな状況を前に。
(……あまりいい状況ではないなぁ)
そんな不安感が内心を過るのは致し方ないものだと思う。
向こう側でも、暫くの間はキャンプやらそれに近いものに成りかねない。
全員の様子を常に伺い続けるのは難しくとも、周囲を良く見る仲間に協力は頼まなければ。
唯でさえ……神樹サマの領域を塗り潰していく、そんな争いの始まりになるのだから。
相手から一切の干渉が無いとは到底思えないし、それに関してもたかしーは言及していた。
主導するのは俺……だからこそ、全体を常に見る必要性も俺にある。
ふぅ、と息を吐いて不安を誤魔化しながらも。
彼女達を助け、助けられる時間を始めようと思う。
「まあ、時間を掛けても仕方ない。
今直ぐに向こう側に干渉できない以上、俺達が出来ることをしようか」
何のために此処に来たのか、という主題。
結局それも俺の我儘で、それに付き従ってくれた全員には頭が上がらないけれど。
今は、強くそう思うしかない。
そんな思いを込めながら、もう一人……ひなたへと声を掛ければ。
顔を取り繕いながら、そうですね……と呟きつつに此方に近付く。
「じゃあ、言っておいた通り。
若葉、悪いけど
「ああ」
そして、今回の陣――――四角四面を描く為に。
神樹サマの中心であり、今の俺として相似されている存在の刀を借り受ける。
本来だったら四方全てに神具を立て、それで囲むことで成立させる方法も存在したけれど。
それで強調されるのは地の神への繋がり。
今回主体となり、そして協力を要請する神……造反神との繋がりではない。
故に、そもそも世界を構築している主体との繋がりを重視し。
それの相似としての俺であり、巫覡としての俺が描くことでその面を抽出・強化し。
巫女である少女達がそれに連なり、更に相乗として高めていく。
本来ならば昼ではなく夜、それよりも
その時間帯が早まったのは離れた場所にいる少女のためでも有り、俺達の勝手でも有る。
だからこそ――――。
(出来る限り早く、正確に。
……たった一人のあの子を、一人ぼっちにしておかない為に)
そう思うことこそ傲慢で。
そう思い込むことこそ罪なのだろうと思う自分もいるけれど。
其れ等全てを背負うと決めた、今ならば……悩む事は後回し。
勇者の少女達を花畑の手前、中央に置き。
何も知らない勇者部の半数は、何が起こるのかと不安半分で見詰めつつ。
全てを知っている半数は、再びの戦いの前に精神を落ち着かせ。
半数を知る勇者達は……以前と同じ争いに身を投じる覚悟を決めている。
そんな姿を横目に見ながら。
彼岸花の直ぐ側へ刀を、正確に言えば鞘を突き立て息を吸う。
僅かに――恐らく、幻覚なのだろう――花畑の中に、以前にも見た影を見た気がして。
その姿と、背中に強く叱咤されるような錯覚を覚えながら。
『畏み畏みも白す』
以前に、神の前で請願したのと同じ言葉を紡ぎ始める。
さぁ、と。
風が頬を撫でるような気がして。
その感触が、人の手のようにも感じながら。
向けられた目線に負けること無く。
その色合いに――――言葉の意味を知る者たちからの感情を強く感じながら。
大地に、抉る形で自らの証を突き立て始めた。