葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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クリスマス短編も書きたいけどネタに悩む。
わすゆ組でちょいちょいと書いてみましょうかね。


前-20

 

述べる言葉は神への宣告。

告げる台詞は皆への宣言。

 

その言葉一つ一つの意味合いを知るか知らぬか、それに応じて態度は違うけれど。

一度ならず二度目の杏さんや胸の内のたかしーからは照れが感じ取れ。

少なからず祝詞に触れた事のある美森ちゃんやひなたはあからさまに頬を緩め。

そんな態度に何かを感じる周囲もまた、似たような奇妙な雰囲気が漂っていく。

 

(……言葉変えたほうが良かったかなぁ)

 

凄い今更なことを思いつつ。

唯、神との結びつきであれば同じ言葉を繰り返すべきだと囁く自分自身に従った結果。

恐らく、それ自体は決して間違いではない筈だ。

 

『若いなぁ』

 

『若いですねえ』

 

にも関わらず、告げられる何かは正しいとか間違いとかの言葉ではない。

もっと奇妙な、それこそ俺の人生を定めてしまうような鋭い目線の数々。

 

ワカやヒメは何やら生(・)温(・)い(・)目(・)線(・)を向けている気がして、胸の内側を一度叩きつつも。

一歩遅れて呟かれる二重音声は、此処ではない何処かへと伝わる道標へと変わっていく。

 

(ま、今更ではあるけれど……)

 

既に何人も抱える未来は見えている。

というよりも確定してしまっている、という方が正しい。

 

今更に振り払えば俺自身の人生の燈火は唐突に消えるだろうし。

それを俺も彼女達も望むことはない、同じ泥舟に乗ってしまった仲だからこそ。

改めて神に言い直すことくらい――――そう思う自分がいる中で。

同時に、神前婚に近い行為を今行ってしまったという実感も浮かんでいる。

 

それを理解している側といない側。

明確な差の発端は恐らく其処。

だからこそに、周囲の反応を見ての広がり方に差異が生まれている。

 

「何だか二人の様子、変だよね?」

 

「でも嬉しそうにしてるなー?」

 

特にそういう文化に遠い二人の声が届くのと同時。

祝詞の終わりを唱え上げ、同時に四方を囲む線が完成する。

 

若干に歪みながらも、全員を取り囲む結界の内と外。

神職に近しい存在たちが自らを清め、神に頼み込みながらも行う儀式の終わり。

それを捧げる相手が……この地域でほぼと言って良い、唯一崇められる相手だから。

 

反応は、直ぐに。

そして自然と起こり得る。

 

「……お、おお?」

 

銀の口から漏れた言葉。

それに続いて、悲鳴に似た言葉があちらこちらから響いて聞こえる。

 

地面が揺れるような錯覚。

足元がおぼつかず、きちんと立っていられる人間が然程多くないと思える揺れ。

 

地震、というには曖昧で。

もしかすれば自分たちの感覚のほうが狂ってしまったのではないか。

そんな思いを浮かべてしまうほどに、周囲と自身の違いが明確に瞳に映し出される。

 

「これから浮くような感覚受けると思うけど、無理に抗わないように!」

 

「浮くの!?」

 

「感覚的にはな!」

 

俺が今立っていられるのは、以前に魂だけ……精神だけで経験していたからだと思う。

事実、同じ場所に向かうことになった杏さんは俺とは違い倒れているのが見える。

 

きちんと立ったままでいられるのは、バランス感覚に関しての訓練を積んできた人。

或いは純粋に生まれ持って慣れている人。

前者は乃木家の二人で、後者は友奈や銀。

生まれ持っての才能の差、と言い変えるには流石に酷だと自分自身をフォローしつつも。

少しだけ足元に浮遊感を感じたのを理解し、全員にもう一度声を投げる。

 

こんな場所で大声を出していれば、近所から誰かが来てもおかしくはないのだが。

幸いと言って良いのか、先程行った結界の作用で外への声は幾分かだが減衰している。

全く聞こえないということはないのだろうが……それでも叫び声、とまでは届かないはず。

そうだと信じる部分を残しながら、もう一度。

 

「多分少しだけ意識が飛ぶ……けど無理しないように!」

 

『無理やり引っ張るから意識飛ぶかも! 気をつけてね!』

 

繰り返される胸元の言葉は、これで二度目。

胸元で聞こえるたかしーからの声は、特別な場所を除けば俺にしか届かない。

その”特別な場所”に該当する此処ではあるが、声の大きさや混乱に比例して届かないのは当然で。

故に普段の通り、代理というか周囲に伝えるのは俺の役目でもある。

 

「意識が!?」

 

「無理だと思うなら此方来い! 支えてやるから!」

 

あの時は……何でか、意識を失うことはなかった。

多分その一番の理由は、あの場所が特別だったこと。

そして、魂(・)と(・)い(・)う(・)特(・)殊(・)な(・)状(・)況(・)に(・)慣(・)れ(・)、(・)適(・)応(・)し(・)て(・)い(・)た(・)か(・)ら(・)なのだと思っている。

 

俺の精神は幾度も崩壊し、再構築されている。

 

正確に言えば捧げては戻し、を繰り返しているのだが然程変わらない。

恐らくはその影響だろうか、ほんの少しの副作用が起こってはいるが。

そんな事が起こるのも神域、清められた場所だけだからこそ口にせずにいられる状態。

だからこそ、たかしーの状況を何とかする裏技にも繋がっているのだが……それはそれ。

 

肉体毎別の場所に引かれるのだとしても、その起点となるのは精神の写し身。

故に、経験済みであるという面を差し引いても慣れてしまっているのは事実でもあった。

 

「な、ならたすけてー!」

 

「先輩は何とかなりません!?」

 

「なるわけないでしょーが!」

 

そんな言葉を聞けば、当然に聞こえる幾つもの助けの声。

歩けば浮くような奇妙な感覚の中で、じりじりと近付いていけば向こうも這うように近付く。

 

手が誰かに届いたのか。

身体に誰かが触れたのか。

 

曖昧な感覚と、ぐちゃぐちゃに移り変わる天地の中で。

誰かの体温を、身体中で理解しながら……重力、という概念を一つ。

ほんの数瞬だけ、失ったような気がした。

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