葦原天理は巫覡である 作:氷桜
今年もよろしくお願いします。
全員が落ち着くまでにそれなりの時間。
そしてその間に、肉体を持った久々の再会を果たした嘗ての勇者達の姿もあり。
周囲を恐れ、何の力をも持たないからこそ周囲を警戒する勇者の姿もあり。
巫女としての力が働いたのか、畏れを強く抱いた黒髪の少女の姿もあった。
其れ等全てに関わり、声を掛け、落ち着かせ。
途中で何してるんだろう、と自分を思うこともありつつも。
何とか精神を安定させることは出来た――――のだが。
「あの」
距離が妙に近すぎる集団に囲まれる珍事になりつつあったり。
そんな一面を垣間見たりと、不思議過ぎる時間を過ごすこと暫し。
「そろそろ動きましょうか……とは言っても、向かう先はほぼ固定されているようですが」
落ち着いた……でいいのか。
三番目か四番目くらいに近くにいたひなたの提案に全員が頷く。
……やはり、巫女としての才能を持つ少女達は多かれ少なかれ気付くものが有るのか。
直接(?)目視、或いは幻視した亜耶のみは他の巫女と比べてしっかりとしているが。
他の二人は普段と違う態度、そして行動を取っているのが目の端に映っている。
それに関しては……俺ではなく、
どれだけ、そしてどの程度の畏れを抱いているのか。
それは恐らく、才覚の有無ではっきりと差が出る部分。
本来は耐性として働いてもおかしくはないそれは、この場所ではもっと直接的にやってくる。
『気を配ってやるのだぞ、天理よ』
『私達とは違い、もっと直接的な戦神の気配ですから。
……我が父と相対する時にも似たようなものは有るでしょうがね』
『其処はほれ、支えるものとして天理が動いてやればいいだろう?』
『
俺も……招かれた時には理解していなかった感覚。
今こうして肉体有りきでやってきて、二柱も同時に招き入れた形となったからこそ。
普段とは違う大きなものを胸元に抱えて、それに安心感と畏れを同時に抱いているのだから。
(……まぁ。 周囲の目を気にしないで良い、って意味では普段よりは楽だけどさ)
この場所全てが神域と同義。
故に、普段は聞こえない二柱の声も周囲に聞こえる。
……親切心と言うか、親心と言うか。
そんな気持ちで言っているのだろうけれど、小っ恥ずかしくなるのは変わらない。
間近で歩いていたそのちゃんやら美森ちゃんの頬が僅かに染まるのを見。
けれど何も言及しないようにして、身体を貸しながら銀と共に暫く先を進む。
「前は……もう少し先でしたよね?」
「背負われてたから曖昧だけど……多分もう少しは先だったと思うな」
先導するような形を取る俺と、以前に同行した杏さん。
後方から道を指示する形を取るたかしーと挟むような形。
恐らくだが、その理由は……以前に呟いていた言葉。
神の試練。
勇士に与える試練の再現で、それを以て神が判別するモノ。
それは未だに終えておらず、中断という形で俺達は帰宅することを許可された。
ならば、その裁定は今。
きちんとした形で言葉を賜ることさえ出来なかったからこそ。
正しい意味での意志を知ることが出来ていないからこその推測に過ぎないが。
巫女と勇士……巫覡が選んだ勇者と共に再訪した。
ならば、恐らく待ち構えるのは。
「……天理?」
「てんくん、どうかした?」
無意識の内に力を込めていたのか、強く握ってしまった銀からの反撃で我に返り。
直ぐ真横を付き添うように歩いていたそのちゃんも、その変化を察する。
「ああ、いや……」
誤魔化すことは多分容易だったのだろう。
普段と違う場所、違う環境。
最初に踏み出す選択を失敗してしまえば、全て積み重ねてきたモノが崩れ去る土台。
それを前にして、緊張にも恐怖にも……知らぬものへの畏れを見せているからこそ。
普段と同じように言う事自体は容易く、それを見抜かれる可能性は限り無く低く。
だからこそ――――言ってしまうのを躊躇った。
心の底を見抜かれるのを恐れるかのように。
これ以上、彼女達へ誤魔化す事をしたくなくて。
その善と悪両面の心が囁いた結果、そう言えれば格好も付くのだろうけれど。
実際には……ただ怯えた結果だけが残っているのだ。
「前に言ったかもしれないけどさ」
だから、心の内側を全て明かすように呟いた。
其処から何を、どのように捉えるのかは彼女達次第。
とは言え、待ち構えるのはバーテックスに負けるとも劣らない……いや。
恐らくは
「うん」
「多分、全員で挑んでなんとかなるかならないか。
それもはっきりとしない試練が待ってると思うんだ」
「アタシたちならなんとかなる! って言いたいけど、それでも?」
「ああ。 なんというか……最初が一番厳しい試練、みたいなの?」
ほんの僅かに見える怯え。
銀の場合は手足に負傷を負った頃から見え始めていたそれ。
今になって、ある程度治っても尚引きずり続ける呪いと化した事象。
先程の俺と真反対に、軽く握られた手を握り返しながら。
銀の言葉に頷きながらも、僅かに希望を見せた言葉を告げる。
「……正直な」
「うん?」
「銀がこれから先に抗うための武器、若しくは手段を此処で見つけたい。
無論、お前が望むのなら、だけど」
今まで黙っていたこと。
もしも、ということを含めても。
伝えて……失敗した時を考えれば、黙っておくのがリスク上は間違ってない筈。
けれど、今は告げるべきだと。
心の内の、もうひとりが囁いて。
「え、それって」
「まあ、出来るかは分からんが――――見えてきたぞ」
追求されそうになり。
幾つもの視線を背負い、僅かに見え隠れするのは憧憬にも似た感情。
何かを口にしようと思う矢先。
目線の先に……見覚えのある、妙に高い背丈の草原が見え始めていた。