葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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急-2

 

おはよう、と聞こえる声。

神樹様に拝、と呟かれる声。

幾つかの授業。

 

それらを経ての昼休み。

何をするでもなく、中庭で寝転がりながらぼうっと空を見上げている。

 

二年前、或いは一年前に比べて。

俺の通う小学校で、誰かと話す機会は明らかに減っていた。

 

理由は単純、放課後に友人と費やしていた時間を()()()()()()()()()()から。

 

(何が正しいのか分からないけど……三人と過ごす方が気楽だし、楽しかったからなぁ)

 

無論、その代償は今この通り。

段々と付き合いが減っていたのは分かっていたが、俺のやりたいこととしても致し方なく。

そして今でも僅かに親交が残る奴等からは半ば誂われる始末。

 

『昨日イネスで見たぞ~?』

『何をだよ』

『神樹館の女の子と遊んでるとこ。 羨ましいなー!』

 

つい先程。

給食の時間帯に話しかけられた事を思い出す。

 

……半ばニヤニヤしてるのが余計に腹が立つ、お調子者。

だが、小学校の中ではそれなりに顔が広く人気もある男子生徒。

未だに俺みたいな奴と繋がりを持ち続けているのが不思議な奴。

 

『色々とあるんだよ、俺にも』

『まぁ、聞かないようにはするし周りのやつにもそれとなく言っとくけどさー』

『ん?』

『お前相当妬まれてるってことだけは分かっとけよ?』

 

知ってる。

普通じゃお目にかかれない三人。

それも、この市では有名な神樹館の制服を着込んでいるのもあり。

色々と有名な筈だ……少なくとも、向こうの中だと人気な三人らしいし。

 

(少なくとも、銀は人気あるタイプだし……)

 

散々に経験し、視線も受け流すことを覚えてしまった今だからこそ余計に分かる。

須美ちゃんやそのちゃんの場合は、恐らく気後れのほうが先に出るのかもしれない。

色々と話したりしてみると可愛い側面が多いのだが……その反面。

『誰であろうと話しかける』彼奴はそりゃ好かれるだろうよ。

 

(一度でも助けられれば更に上乗せ、だろうしな)

 

四年の頃の、夏から冬のことを思い出す。

お互いに話さえもせず、別離を覚悟していた頃。

思い切って全てを曝け出したからこそ、今のように落ち着けてはいるけれど。

……思い出すと、未だに恥ずかしさが脳裏に蘇る。

 

『だからとは言え、人前で好きにして良いわけではないぞ?』

(分かってるわ)

『本当ですかねえ……。 いえ、天理がというよりも向こうが、ですが』

 

鳥の鳴き声。

少しばかりの眠気を誘う、周囲の温度。

どういう意味だ、と問い掛ける気力さえ奪っていく春の陽気。

 

周りに誰かいるわけでも無いし……少しだけ、昼寝でもしようか。

そう思いつつ、目を瞑ろうとした瞬間。

 

――――ちりりん。

――――ちりりん、ちりりん。

 

季節にそぐわない、何かの鈴の音のような。

風鈴よりも更に響き渡る、()()()()()()()()

周囲に何もないにも関わらず、その音は確かに俺の耳へと届いた。

 

『天理! ()()()!』

『禹歩! そのまま周囲を囲みなさい!』

 

その音が聞こえると同時か、ほんの少し遅れてか。

脳内に急に響く二人の叫び声に合わせ、幾度も練習した行動を即座に取る。

 

禹歩――――その中でも禹歩正立(うほせいりつ)と呼ばれる方法。

幾つかその名前で呼ばれる歩法の内、三歩を以て第一歩と定義される呪法。

現在立つ位置を基本とし、周囲を引き摺るように四角の線を作成する。

 

内側と外側とを切り分ける、結界としての基本。

途中で足を絡めそうになりながら。

地面に痕を形成したその直後。

 

「…………ッ!?」

 

目の前に……いや、恐らくは神樹サマの方から広がる真っ白な光。

咄嗟に顔を両腕で覆いながら、それでも外の光景を見続ける。

 

その光は、唐突に消え去って。

気付けば、俺が立つ四方の線の外側は緑色に輝く植物で埋め尽くされていた。

一歩でも外に出れば、恐らくは木々特有の青臭さに襲われそうな……そんな錯覚さえ覚える。

 

「これが、神樹サマの……!?」

 

ぽつり、と口から漏らした言葉。

上着の物入れ(ポケット)から顔を覗かせた、編みぐるみ二体。

 

『だろうな。 だが、些か乱暴が過ぎると思うが……ヒメ?』

『ですね。 無論、安全を確保するという意味合いでは間違ってはいませんが』

 

侵入者――――バーテックスの襲撃。

その際に覆う、世界を護るための巨大な結界。

俺なんかが扱える、この四方とは比べ物にならないそれ。

にも関わらず、二人からすればそれ自体が疑問に思うものらしい。

 

「……何が気になるんだ?」

『もう少し丁寧……いえ、どう言えば良いのか』

 

言葉を選ぶように幾つか挙げてはいえ、と否定して。

ワカがその意図を拾い上げ、口にする。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 恐らくは、自然とそういった形に落ち着いてしまったのだろうがな』

 

敵。

土地神、二柱が共に敵意を持つ相手。

その存在について、ハッキリと明言されたのは今が初めてかもしれない。

 

「……敵、か」

『そうよ。 ばーてっくす……だったか?

 それらを用いる、外つ国の影響を受けし存在達』

 

暫しの間、決して結界外では口にするな、と厳命してから。

その名前を口にした。

 

()()()。 天つ神、荒御魂と化した神々。

 ――――我等が相対するのは、そのような存在よな』

 

見詰める視線は――――遥か、空の上。




※変更点:
・この時点で『天の神』の名を知る。
・行動方針、設定上の矛盾点については未だに不明。
・初大型バーテックス戦が昼休みと若干後ろ倒し。

・三人は、本来の通り多少の怪我のみで撃退した。

「わすゆ」中編パートに於ける最終話ヒロインあんけ~と

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