葦原天理は巫覡である 作:氷桜
何より頭数いるし……
一進一退、と言う言葉が相応しい進行具合。
けれどそれは、俺達にとっては一方的に不利に傾く戦況と同義。
それを全員が知るからこそ。
消耗するものなのだと、少なくとも戦場に参加した経験を持つ少女達は知っているからこそ。
実質的な時間制限を肌で感じながらに、目の前の相手に対峙し続けている。
「千景、どうだ?」
「無理ね、私と相性が悪いっていうのもあるけれど……。
少なくとも真正面から打倒しようと思うのは、死にに行くのと同じだと思うわ」
戦場となる敵の近くで会話する猶予も然程持てず。
本来の役割と違い、『同時に存在』することでの生存性を逆手に取り。
前衛と後衛、そして俺達と各々に声を届け続ける『七人御先』の能力を使い続けるせんちゃん。
対多数、複数戦に優れた精霊であるからこそ。
対単体、強大に膨れ上がった相手を苦手とするからこそ。
己の役割を確かに理解し、意見のすり合わせを俺達の目の前で執り行う。
恐らくはその合間を縫い、刃を振り回すように皮膚に突き立てたりしたのだろう。
その動き全てを捉えることは難しくとも、何をしようとするのかの土台の考えは不思議と読める。
多分――――それ自体は。
妙に深い繋がり由来の力なのだと、薄っすら感じてしまう。
「友奈の拳も弾かれている、か」
「以前よりも硬くなっているのは確実ね。
高嶋さんにばかり無理させるわけにも行かないけれど……」
かぁん、となにかに弾かれるような甲高い音。
目前では相手の
直接的な被害を引き起こせずとも、幾本かの頭がそれを放った相手の方へと向き直り。
その横っ面を叩くように、拳と槍が突き立ち反動で距離を取る。
初代勇者、西暦勇者達の場合は武具に偏重した形での加護を持ち。
先代勇者、その経験者達は肉体の保護という形で幾分かの生存性を保ち。
今代勇者、選ばれた新たな三人は加護の強度と引き換えに経験という積み重ねを持たない。
それぞれが同じ程度に並ぶのならば、恐らくは僅かにでも有利に向かっていたのだろう。
恐らくそれは、前線に立つ全員が持つ共通認識。
けれど、それを口に出したところで何が変わるのかということでもある。
故に、今出来るのは目の前の敵への打開手段の模索。
己一人で出来なくても、仲間と協力すれば出来得ること。
過去の出来事を断片的にでも知る身としては、最も変わった部分は其処なのだと思う。
(……
口に出すことはなくとも、この場に立つ全員の共通認識。
最も純粋に、打ち倒す切っ掛けとなる力が足りていない。
だからこそ、なのだろうか。
それとも、少女達が持つ本能とも言える何かが訴え掛けているのだろうか。
「こう、で剣を傾けて――――」
「だったらお姉ちゃん、私が引っ掛ければ――――」
「こうこうこう、でこう……」
つい先程まで戸惑い続けるだけだった三人。
それが今では、自分の体を動かしながらの
友奈は自身の大元とも言える技を、見取り稽古のように染み入らせ。
明らかに力と技の二極に振り切った犬吠埼姉妹は、二人で合わせる形での方策を練る。
あの現場にたった一人で介入できない、と理解しているからこその行動。
(……後少しでも、準備に余裕があって……
以前に切り捨てた考え。
守られ続けるだけの自分に嫌気が差し、何かが出来ないかと探していた一つ。
自身の戦場での役割を考えれば……出来たとしても補助が精一杯。
だからこそ、考えないようにしていたそれが……眼の前で再び膨れ上がる。
出来るかどうか、ではなく
思うようになってくれさえすれば――――それが出来ればそもそも苦労はせず。
そして何より、自身にとっての向き不向きを考慮していない一つの案。
……下手をすれば、それは各々の個性を全て取り除いた『兵士』としての見方を秘め。
そう見てはいけない、と強く信じる『俺』は唯。
眼前で頭数を割かれ、守られながら。
「…………っ」
「痛…………いえ、痛くも、無い……?」
同様に、少しずつ顔色を悪くし続ける巫女達と負担を引き受け続ける。
片手をひなたと、片手を亜耶と繋ぎながらに。
身動きを取らず、じっと目を離さずに見続けている銀を前にして。
胸の奥の、いつからか膨れ上がり続けた
奇妙な繋がり。
目前の『龍』の何かが、俺を呼んでいるような気がする。
それが何を意味するのかを理解することは出来ず。
錯覚にも似た、引き込むための手法なのだと脳裏で割り切りながら。
手の先、足の先。
繋がった先から行き来する熱と温もりに自身の立ち位置を確認しながら。
深く深く、深呼吸を続けて己を落ち着かせ始めた時だった。
「天理」
ぽつり。
目の前の少女が漏らした懇願のような色合いを帯びた言葉。
「なんだよ」
「多分、目の前のアレって元になった形があるんだよな?」
半ば突っ慳貪な言葉になったことを理解しつつ。
そんな言葉以外を放つような余裕が無くなっていくのを理解しているから。
手短に、けれどその本質を確認するように言葉を紡ぐ。
「だろうな、あの御方が告げた名が正しいのなら……確実に繋がりはある」
龍の名。
造反神という名しか知らなかった相手ではあるが、それを聞いた時に確信した相手。
ワカが持つ繋がり、という意味合いも何となくに理解できた相手ではあり。
同時に舌打ちを二柱にしたくもなる名前。
だが、それを銀が問い掛けてくる理由は。
その事に思い当たり、確認しようとする矢先に。
「アタシの間違いかもしれない、でも――――聞いてくれ」
庇ってるように見える場所が分かる気がする。
震えながら、力が入っていた銀の腕。
其処から、無駄な力みが抜けきった気がした。
・ぐんちゃんの能力ってデメリットさえなければ無法なんですよね……。
特に軍勢・多数対多数戦。
・何かを感じた二人。