葦原天理は巫覡である 作:氷桜
そうか、と。
呟くように告げて。
両腕……巫女達と同期することで負担を落ち着かせていたにも関わらず。
手を離し、ほんの数歩前に佇む銀の無事な片腕を取った。
手首に指を這わし、心音……と言うよりは僅かに感じる血液の脈動を確かめる。
何かの熱に浮かされているとかそういう状態ではなく。
極自然体の言葉として発している事に、先ずは安堵した。
俺自身も感じていた、奇妙な繋がり。
向こうが俺を狙っている、という状況というのもあるのだろうが……。
もしかすれば、この在り方自体もなにかの名前繋がりということなのか。
疑問が疑問を呼び、脳内に溢れかえり始めるのを冷めた目の俺が遠くから見ている。
どういう意味だ、とか。
何でだ、とか。
疑問に思うことは幾らでもあったし、それを口にすること自体は簡単だった。
けれど、意識してそうしない。
そうしても何も変わらないし。
それよりも前に、するべきことがあったから。
「せんちゃん」
ほんのすぐ目の前。
なにかの突発事項に対応する為、一人をこの場に残し続けている彼女に声を掛ける。
……無論、周囲の目線は俺達へと向き。
その分の時間稼ぎと言うか、戦闘を行う主要員の数は減少してはいるのだが。
ここから見える限り、『時間稼ぎ』としては四人でどうにか行えている状態が続いている。
無論、其処からひっくり返す手段を今から導き出さなければ。
何の意味もなく、無惨に駆逐されるだけだと全員が共通認識を持っているから。
必死さと、それに抗う気持ちは……恐らく、今までの戦いと何ら代わりはない。
そして、それに報いる何かも――――当然に。
この後で、という前提はつくけれど……覚悟は出来ていた。
「うん。 ……銀ちゃん、何処?」
「ありがとうございます、千景さん。
えっと……ここからだと見え難いですけど。
あの『龍』の奥……尻尾の辺り、付け根よりも先くらい?」
現状、『何となく』でしか繋がりを理解できない俺とは違う。
奇妙な程に引き寄せられているのが勇者というのは……何か違いがあるのだろうか。
指を指し、身振り手振りで説明する/受ける二人に連動し。
時間を稼ぐ動きを見せる前衛達に射手二人。
隣でこちらの様子を伺う二人に目線を向けても首を振る。
疲弊は確かに見えるけれど、寧ろその瞳は更に輝きを増している。
純化されている、と言えば良いことにも聞こえてしまうが……多分、そればかりではない。
本来ならば俺一人が抱えるべき衝動を移しているのもあって、負の感情が積もっては灼ける。
(……気になるのは、これが
そんな物を与えられた、という話は聞いた覚えもない。
神具を受け取ったときの状況そのものがそれを指す、という可能性も否定はできないが。
似た経験だったら既に幾つも積み重ねている以上、多分今こうしているのはそれだけではない。
特に、
これもまた、本来ならば触れることさえもなかった何かしらの影響なのだろうか。
「それって……あの胴体自体が本体ではない、ってこと?」
「どうなんでしょ……アタシはそう感じる、ってだけなので」
結局は判断次第。
俺達の感覚に頼るか頼らないか。
大きな賭けにしかならないのは、この言葉を耳にしている全員が理解している。
(……ただ、首一つさえも落とせない。
仮に傷をつけたとしても、復元されるように修復されている。
衝撃が内側に徹っているか……ってのはたかしーに聞かないと分からんが)
最初の想定は投げ捨てて良いのではないか。
そんな考えが脳裏を駆けるのもまた事実。
(問題は、尾を落とすために取る戦術が実行できるのかどうか)
現状の推移としては、まずは首。
一定数削ったら次に胴体、そうやって確実に削り落としていくことを主体としていた。
簡単な話し合いでそう決まった理由も、極めて単純な事。
少なくとも先代勇者としての今までの経験上、という前提在りきにはなるけれど。
バーテックスそのものを打ち倒せたことは無いから。
嘗ての初代勇者達の頃に比べ、強大に・凶悪に移り変わった天の神の使い。
数百年という年月を重ね、俺達の側も嘗てに比べては方向性を尖らせる事に成功はした。
けれど、それを大きく上回る形での相手の在り方があって。
……結局は神樹サマ頼りに打ち払うのみに留まり。
そうして今目の前にいるのは、再現されたとはいえ遥か昔の伝承に名を残す存在。
倒せないのではないか、そんな不安は全員が抱えていたのは承知している。
それを誰もが口に出さず、拮抗という形で持ち堪えられたのもまた事実。
――――それを打ち崩す手段があるのならば。
目線を前に向け。
ああでもないこうでもない、と話を続けながらもほぼ同時に状況を報告し指示を向け。
ある程度の時間を経ては少しずつ立ち位置を移動する、そんな状況を繰り返す中。
「せんちゃん、銀……それに皆も」
この短時間で決着を付けられなければどうしようもない。
そう割り切ることにして、自身の負担を増し。
同時に勇者たちへの力の供給を増やしていく。
信頼、好感、或いは愛情。
そういったプラスの感情を幾つも重ね、渡せる総量が増したからこその暴挙。
つい先程まで繋がっていた巫の二人の表情が曇るのを横目で見ながら。
「首以外、胴体以外……あの尾にそもそも刃が立つか通るのか。
それ次第で決めたい……そう伝えて貰えるかな」
恐らく、それが今後に必要になる連携の一つなのだろうと。
こんな時に無言を貫く、二柱へと思いを馳せた。