葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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変質化。


前-28

 

「若葉ちゃん、お願いします」

 

「ああ、分かっている」

 

その場で打ち合わせたのと、動き出すのはほぼ同時。

そしてまた、前衛と射手が連動して動き出すのも同じく。

 

「銀、多少無理するぞ」

 

「うん……無理矢理にでも引っ張って、天理」

 

俺達……ある意味で本陣、と名乗るのが正しいのかもしれない数人もまた。

位置を変え、流れ始め。

 

「天理様、余り無理をなさらないで下さいね」

 

「亜耶に無理させるよりは俺の心労も減るから……多少は我慢してほしいとこかな」

 

合わせて、それぞれがそれぞれへと声を投げ掛ける。

 

巫女から勇者へ。

幼馴染から幼馴染へ。

巫女から巫覡へ、■■から■■へ。

 

明らかに無駄なような気はするのに。

そ(・)う(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)必(・)要(・)な(・)こ(・)と(・)のような違和感。

何かに操作されているような、流れに呑まれているような疑惑。

けれど、それを口に出すような余裕も理由も思い当たらない。

 

視界の端。

 

「……杏さん」

 

隣を駆けるひなたの口から漏れる言葉の通り。

急激にその場所だけが冬景色へと染まるかのような空間が満ち。

半ば無視し始めていた龍の首元に、鋭い銃弾と吹雪が襲い始める。

 

満開と精霊の憑依。

共に切り札と呼ぶ、自らの身体への負担を無視した最終手段。

 

一撃の重み、そして周囲への変化。

それぞれが引き起こす現象は違うけれど、起こる結果……そして目的は同じだからこそ。

視界の先に映る変異は、俺自身をも蝕み。

呪いのように染み付いていくは(・)ず(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

(――――なんだ?)

 

かたん。

 

精神体の何処か。

今まで引っ掛かり続けていた何かが、完全に落ち切るような音が聞こえた気がした。

 

疑問に思い。

けれど、その疑問が更に別の疑問で塗り潰される。

 

体内の重み、それ自体は以前に散々経験してきた何かの代償(まんかいのえいきょう)に似た何か。

慣れたからか、或いはこの場所が特殊なのか。

痛みは遥かに薄く、寧ろ熱が体全体を暖めるような温もりのようにも感じる中。

 

……奇(・)妙(・)な(・)脳(・)裏(・)へ(・)の(・)変(・)化(・)こそが、俺の動揺を引き出していた。

 

『天理、さん?』

 

自分自身が一人でなく、誰かが傍にいるような錯覚。

 

肉体的なものではない……のは間違いない。

肩を支えながら進む銀のものではない、別の誰かの何か。

どう呼ぶべきなのか、少しだけ悩ましくさえある言葉。

 

例えるならばそう――――誰かの意識にも似た繋がり。

 

以前に経験した、してしまった夢の中のような。

繋がった場所を介しての精神的な結び付きを感じてしまう。

その先は……多分、切り札を切った少女。

 

杏(・)と(・)の(・)縁(・)。

 

『杏、さん?』

 

誰なのかに気付けた理由こそ、精神体同士での触れ合いが多かった相手故なのか。

精神体の対話(テレパシー)とでも呼ぶに相応しいような感覚。

脳裏で考えていることが互い違いに行き交い、口に出すこと無く対話を行う。

 

明らかな異常にも関わらず、不思議と納得している自分が自分を見ている気がし。

そんな俺達を、ため息混じりに二柱が見ているような気がした。

 

漸くか、とでも呟くかのように。

そんな二柱とも繋がる、細い一本の線を幻視した気がした。

 

粘度を保った液体の中のような、世界がゆっくりと進む錯覚。

ひょっとすればそれこそが走馬灯とか呼ばれるかもしれない、そんな事象の最中。

 

それでも、決して止まること無く。

そして繋がりが途切れること無く、僅かにずつ世界は変動/変異し続けていく。

 

”気を引く”事しか出来ていなかった無数の矢束、そして凍てつかせるという現象。

それ自体を鬱陶しがる――――という状況を越え。

明確に敵と認めたのか、その巨体を振り回すように周囲から勇者たちを排除。

這いずるような、それでも尚巨体故の高速な移動で以て突撃し始めたのだから。

 

『不味っ……』

 

『いえ、こ(・)れ(・)で(・)良(・)い(・)ん(・)で(・)す(・)!』

 

思わず叫び出しそうになった行動。

それに冷水を浴びせるように落ち着かせる声は、混乱も戸惑いもなく。

想定通りだと告げるかのように呟き、行動の流れを唯眺め続ける。

 

不思議なことに。

そうして繋がっていることを当然に感じ始めながら。

 

吹雪、そして銃弾は突進の直線沿いから少しずつ横方向へと逸れ始め。

けれども相手への攻撃頻度を下げること無く降り注ぐ。

 

移動しながらの攻撃、それ自体の難度は口に出すまでもなく理解できること。

いとも容易く、と見えてしまう程に積んだ修練の欠片が見え隠れし。

それへの感想にも似た吐息が漏れ、そしてそれへと反応して僅かに嬉しそうな反応を感じる。

 

考え一つ一つ、全てを拾われる/拾ってしまうとまでは……思いたくもないのだが。

 

――――後数秒、我慢して。 私。

 

地面が大きく揺れる音と、数多の首が乱雑に振り回される現実。

虹色の木々が薙ぎ倒され、根が掘り返されるような振動に耐えながらも一定の距離を保つ。

 

きゃぁ、なんて声が周囲で聞こえる度にその身を庇ったり、位置を変えたり。

仮に触れられでもすれば即座に死が見える、そんな相手にも関わらず。

脅威であり、強敵であり、厄介だと感じながらも。

それ以上の何か……あの当時感じていた、明確な『敵』という感覚を感じられない違和感を覚え。

 

口に出し、問い掛けようとしてしまったその時。

 

「杏さん!」

 

すぐ後ろから聞こえる悲鳴と、それに比例するかのような轟音。

射撃の射出地点と、八岐之大蛇の位置が極めて近く交差してしまう。

直撃だけは避けた――――ただ一見すればそんな状況だとも理解しながら。

致命的な失敗だと感じてしまうような状況なのに。

 

首で攻撃するには位置が僅かに悪く。

けれど、その巨体を振り回せばそれだけで薙ぎ払えるような位置。

故に、相手はその尾を……少女達がほんの僅かに足を止めたのだろう場所へ。

 

「……須美ぃ!」

 

叫び声だけを残しながら。

奇妙な感覚の中で、俺と二人だけはなにかを信じているような錯覚の中で。

 

巨龍は……遠心力を載せながら、その身を振り回した。

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