葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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想定BGM:Reaching out for our future/いとうかなこ


前-30

 

断面が下へと向いている。

 

先が根に引っ掛かり、ぐたりと凭れ。

何色と表現していいのか分からない、奇妙な色に塗れた尾の根本。

その先から何かが突き出ているのが分かった。

 

背後からの物音は続いている。

 

それと同時、新たに増えた打撃音や斬撃音。

弾かれるような金属の音に、千切れ飛ぶような風切音。

そして脳内に届く叫び声に悲鳴。

押し留めようとしているのは、してくれているのは嫌でも分かった。

 

片手の先。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

決してそうしようとは思えない、少女と共に走り抜ける。

 

後少し。

もう少し。

近付く毎に視界に映るものの全体像を理解し。

その先に存在していたものを、一度ならず二度は目視していたものだと判断した。

 

叢、或いは草原に突き立っていた一振りの剣。

 

相手している巨体の名前と、想定していた造反神の神としての名。

其れがすぐに結びつかなかったのは……其れに関する知識を手に入れた大元。

一般的に流通しなくなってしまった、天の神に関しての古代文書(にほんしょき/こじき)故だったのかもしれない。

 

「なぁ、天理」

 

「……ん?」

 

走り続けるだけの体力。

其れに追従するだけの身体。

 

現状、銀がそう出来るのはこの世界だから……という理由が強いだろう中で。

俺が問題なく走り切れたのは、毎日の鍛錬が生きている結果なのだと考えながら。

すぐ目の前、手を伸ばせば届くだろう剣の眼の前で息を整え。

口を開いた少女に対し、恐らく同じものを感じている相手へと返事を行う。

 

「呼んでたのって、多分これだよな?」

 

「……だろうな」

 

強く握りすぎたのか、離そうとする時に顔を顰めるのが分かった。

 

奇妙な、時間の流れが遅れるような感覚。

其れが再びに発現したような気がした。

 

「……でも、多分。 最初に触れるのはアタシじゃない気がする」

 

「やっぱり、俺なのかね」

 

謝ろうとする矢先に、更に別の言葉でそれを上書きされてしまった。

 

謝るんじゃない、と言われている気がして。

話を続けることを求められている気がして。

その感覚にこそ従い、話を。

 

「多分、だけどな」

 

共に呼ばれている

 

こうして近くで眺めてしまうと余計にそう思う。

呪いを掛けられた物体――――というには神々しく。

神の所持物、というには血腥い。

 

まあ、目の前で肉に包まれているから余計にそう思うのだろうけれど。

 

後ろからの物音が更に近付く中で。

空いた右手を、その剣の柄へと伸ばす。

 

決して戦う技術も、精神も、力も持たないのに。

()()()()()、と何かが語りかけてくる理由。

 

何となくに、それは。

ひなたから話を聞いていた、神具に呼ばれた時のことを思い出させるもの。

 

だからこそ、手を伸ばすことに拒否感はなく。

背後のものを打ち払う為に……そんな言い訳を心の中で述べながら。

 

柄へと触れ。

握り。

そして、脳裏に知識が流れ込んできた。

 

(――――え、は)

 

濁流、という言葉が正しいのだろう。

ただし流されることはなく、両手で支えるモノに掴まれた中で一方的に理解する。

 

流し込まれる、理解する。

 

八岐之大蛇、素■嗚命。

それらに関わる伝承。

 

葦原中国に於ける龍退治。

或いは山に住まう敵対部族を打倒し、捧げられた剣の話。

 

生贄に捧げられるはずだった、巫女の祈りを受けた勇者

龍退治の際に同行し、八塩折之酒を以て調伏し討ち果たした伝承を持つ存在。

 

櫛へと肉体を変え、当人と共に結び付く繋がり。

異性から異性へ、そして生涯を共にする契約を結んだ相手。

 

剣を手に入れたからには龍は討伐され。

討伐されるからには、その鱗を切り裂くだけの力を手に入れる。

 

そんな逆説論理的な、日ノ本に於ける三大神器。

熱田神宮に祀られる実物、海の底に沈んだとされる形代。

その二つの存在を受け継ぐ、精神体としての本物。

 

日本での精霊信仰の一種、八百万の神々としての一角を占めるに相応しい存在。

()()()()()()()()()大刀――――草薙剣/天叢雲剣(かみのつるぎ)

 

(そうか)

 

今までは見えなかったものを見てしまう。

今までは聞こえなかった声を聞いてしまう。

 

それでも、決して未来(さき)の事は分からずに。

今までに積み重ねられてきたことと、目の前に対抗するための方策を理解する。

 

根本的な才能の欠如が理由なのか。

或いは、人としての枠組みを大きく外れてしまうからなのか。

 

(こういうことか)

 

何となく、どっちもな気がした。

 

(神具を預かる巫ってやつは)

 

自然と腑に落ちるような実感の中。

どうするんだ、と誰かに問われた気がした。

 

その声の持ち主は、つい先程聞いたような声色だった。

 

厳しくも暖かく。

それでいて自身の意志を押し通すことしか考えない、武神に似た声。

 

目の前の敵を打ち払い、そしてその後に民の為にその地を切り開く。

荒御魂と和御魂という、神としての両側面を今理解している気がした。

 

手元に引っ張りながら。

するり、と抜け落ちた剣を手に。

 

本来ならば。

そうするだけの力があるのならば。

嘗ての伝承の通りに、力を振るう資格を得たと言っていいのかもしれないけれど。

 

「銀」

 

「ん」

 

()()()()()()()()()()

 

戦う力は、俺には必要なかった。

其れを支えられるだけの力があれば良かった。

 

だから。

 

「応援してるぞ、ヒーロー」

 

巫覡として、勇者へと全てを託した。

異性として、異性へ全てを任せた。

 

それらが、必要なことだったから。

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