葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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こういう会話を少しずつ書くの好きです


前-32

 

唐突に、身体に力が入るようになった。

 

四肢全てに力が入ることに僅かに安堵し、同時に片付けたのだろうと理解する。

深い溜息を漏らしながら、借りていた肩から距離を取ろうとして。

腕を離さずに、寧ろ縛り付けるようにしがみつく彼女へ冷たい目線。

 

「せんちゃん?」

 

「まだ完全に復調したわけじゃないでしょ」

 

心配くらいさせなさい、とでも言いたそうに。

勇者服から日常の服装、来る途中に着ていた衣装へと移りながら。

現場へと向かう彼女に引き摺られる形で移動していく。

 

「恥ずかしいんだけど……」

 

「心配してるのは私だけじゃないでしょ。

 それに、まーくん以上に見てるしか出来なかった二人だっているんだし」

 

そう言われてしまうと何も言えなくなる。

反論しようと口を開きそうになり、けれど口ごもりながら言葉を発せず。

そんな顔の変化が面白いのか、余り見ない笑みを見せ。

 

「……私を助けた時以上に、周りに女の子増えたわね?」

 

「やめてよ、そういう事言うの……」

 

疲れているのか、『切り札』の悪影響からなのか。

普段は口に出すことも(殆ど)無いはずの言葉。

手に力が入ったりしているわけでもないから、()()()()済んでいると思えば良いのか。

 

「銀ちゃんも……元に戻った、と思えば良いのかしら」

 

「怪我で治りかけだった神経は……繋がったと思う。

 問題はー……どう説明するか、って部分もある気はするけど」

 

どんなに早くとも後半年は掛かっただろう傷。

それが急に完治した、ともなれば疑いの目が走るのと同時。

大赦側にもその情報が伝わり、また何かしら利用されるだろうことは明白。

 

……幾つも重ねた、今の状況を突破するための壁。

更に一つ、やるべき理由が増えただけ――――といえばそれだけなのだが。

 

「神樹様のなされた事……って考えて貰うのもなかなか難しいのかしら」

 

「どうだろ……純粋に崇めてる人たちなら其れで通る気はするけど。

 大赦に勤める事自体が目的になって、権力を求め続ける側。

 そっちからすると寧ろ邪魔って判断される危険性もあるとは思う」

 

本来なら存在してはいけない派閥。

結成理念、存続してきた意義。

人として生きていく上で積り重なる、そういった感情全てを否定しようとは思わないが。

 

……達観してしまうのも、多分は影響由来なのだろうか。

 

「まぁ」

 

「ん?」

 

「其れを納得させるのが、俺のやることで目的……ってのはあるよね」

 

そんな言葉を口にして。

片腕……空いていた手に、僅かに重み。

 

(ん?)

 

反射的に握り締めれば、硬質化した金属のような感覚。

思わず視線を向ければ……つい先程手に取り。

そして銀へと渡した筈の、あの剣が手元に戻っていて首を捻る。

 

「あれ?」

 

「それって……」

 

確かに握った感覚もあるし、重みもある。

そこにある、というのは正しく感じるのに何故か手元に戻っている。

……銀に渡したし、一度は返して貰おうと思っていたから間違いは無いのだけど。

 

「銀ちゃんが使ってた神具、よね?」

 

()()()、って感じが近いんだけどね」

 

……いや、だからか?

 

武具自体に意思がある、と考えるのだったら。

時折姿を見せる、勇者たちの持つ精霊と同じモノだと考えるのなら。

普段は俺のもとに戻ってしまう、という状況自体にも頷ける部分はある。

 

(それに)

 

元々の目的……神具を用いての神樹サマの反転、矯正化。

荒御魂からの転位を考える上で必要となる儀式、この土地の掌握。

その鍵ともなるのがこの剣で、そのやり方も無理矢理に頭に叩き込まれていたから。

 

協力でもしてくれるのか、と無言で思いつつに軽く握り直せば。

仄かに温もり……にも似た熱が宿った気がした。

 

「……呼んでるわよ、まーくん」

 

そんな声に意識を外界、外へと向け。

耳を周囲へと傾ければ。

俺の名前を呼ぶ、良く聞き慣れた声色が幾つか響いては木々に呑まれていく。

 

「銀……に亜耶、後は美森ちゃんにそのちゃんか?」

 

「少しだけ急ぐわよ」

 

「……ん」

 

そんな言葉に確かに頷き。

右、左と二人三脚のように歩みを進める。

 

片手に握ったままの剣を杖のように。

以前に――若葉の時のように――地面に引きずるそれは、否が応でも陣を形成する。

 

ある意味で、それが理由で。

ある意味で、それも理由で。

 

 

心配のしがいがあるんだか、無いんだか。

 

そんな言葉が森の中に消え。

 

(……せんちゃんも、人のこと言えない気がすると思うけどなぁ)

 

そんな言葉は――――胸の内に留めておくだけになった。

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