葦原天理は巫覡である 作:氷桜
唐突に、身体に力が入るようになった。
四肢全てに力が入ることに僅かに安堵し、同時に片付けたのだろうと理解する。
深い溜息を漏らしながら、借りていた肩から距離を取ろうとして。
腕を離さずに、寧ろ縛り付けるようにしがみつく彼女へ冷たい目線。
「せんちゃん?」
「まだ完全に復調したわけじゃないでしょ」
心配くらいさせなさい、とでも言いたそうに。
勇者服から日常の服装、来る途中に着ていた衣装へと移りながら。
現場へと向かう彼女に引き摺られる形で移動していく。
「恥ずかしいんだけど……」
「心配してるのは私だけじゃないでしょ。
それに、まーくん以上に見てるしか出来なかった二人だっているんだし」
そう言われてしまうと何も言えなくなる。
反論しようと口を開きそうになり、けれど口ごもりながら言葉を発せず。
そんな顔の変化が面白いのか、余り見ない笑みを見せ。
「……私を助けた時以上に、周りに女の子増えたわね?」
「やめてよ、そういう事言うの……」
疲れているのか、『切り札』の悪影響からなのか。
普段は口に出すことも(殆ど)無いはずの言葉。
手に力が入ったりしているわけでもないから、
「銀ちゃんも……元に戻った、と思えば良いのかしら」
「怪我で治りかけだった神経は……繋がったと思う。
問題はー……どう説明するか、って部分もある気はするけど」
どんなに早くとも後半年は掛かっただろう傷。
それが急に完治した、ともなれば疑いの目が走るのと同時。
大赦側にもその情報が伝わり、また何かしら利用されるだろうことは明白。
……幾つも重ねた、今の状況を突破するための壁。
更に一つ、やるべき理由が増えただけ――――といえばそれだけなのだが。
「神樹様のなされた事……って考えて貰うのもなかなか難しいのかしら」
「どうだろ……純粋に崇めてる人たちなら其れで通る気はするけど。
大赦に勤める事自体が目的になって、権力を求め続ける側。
そっちからすると寧ろ邪魔って判断される危険性もあるとは思う」
本来なら存在してはいけない派閥。
結成理念、存続してきた意義。
人として生きていく上で積り重なる、そういった感情全てを否定しようとは思わないが。
……達観してしまうのも、多分は影響由来なのだろうか。
「まぁ」
「ん?」
「其れを納得させるのが、俺のやることで目的……ってのはあるよね」
そんな言葉を口にして。
片腕……空いていた手に、僅かに重み。
(ん?)
反射的に握り締めれば、硬質化した金属のような感覚。
思わず視線を向ければ……つい先程手に取り。
そして銀へと渡した筈の、あの剣が手元に戻っていて首を捻る。
「あれ?」
「それって……」
確かに握った感覚もあるし、重みもある。
そこにある、というのは正しく感じるのに何故か手元に戻っている。
……銀に渡したし、一度は返して貰おうと思っていたから間違いは無いのだけど。
「銀ちゃんが使ってた神具、よね?」
「
……いや、だからか?
武具自体に意思がある、と考えるのだったら。
時折姿を見せる、勇者たちの持つ精霊と同じモノだと考えるのなら。
普段は俺のもとに戻ってしまう、という状況自体にも頷ける部分はある。
(それに)
元々の目的……神具を用いての神樹サマの反転、矯正化。
荒御魂からの転位を考える上で必要となる儀式、この土地の掌握。
その鍵ともなるのがこの剣で、そのやり方も無理矢理に頭に叩き込まれていたから。
協力でもしてくれるのか、と無言で思いつつに軽く握り直せば。
仄かに温もり……にも似た熱が宿った気がした。
「……呼んでるわよ、まーくん」
そんな声に意識を外界、外へと向け。
耳を周囲へと傾ければ。
俺の名前を呼ぶ、良く聞き慣れた声色が幾つか響いては木々に呑まれていく。
「銀……に亜耶、後は美森ちゃんにそのちゃんか?」
「少しだけ急ぐわよ」
「……ん」
そんな言葉に確かに頷き。
右、左と二人三脚のように歩みを進める。
片手に握ったままの剣を杖のように。
以前に――若葉の時のように――地面に引きずるそれは、否が応でも陣を形成する。
ある意味で、それが理由で。
ある意味で、それも理由で。
心配のしがいがあるんだか、無いんだか。
そんな言葉が森の中に消え。
(……せんちゃんも、人のこと言えない気がすると思うけどなぁ)
そんな言葉は――――胸の内に留めておくだけになった。