葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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急-3

 

外の世界から断絶したような、奇妙な程に音がしない空間。

足元を汚さないようにと、ビニールシートを敷いた上。

飲み物としての缶が、お互いに一つずつ。

 

「…………」

「…………」

 

『集合体』。

『白い怪物』。

『巨大な存在』。

 

それらをひと目見ただけでは、小説かなにかの設定だと勘違いしてしまいそうな。

ノートの断片に書かれた文字として受け取ったそれに。

俺が、この間確認した――――二人から聞いた断片情報。

それらの交換の場として設けた、小さな会議。

 

ノートを開いたまま、顎に手を当て考え続ける。

何を考えているのか、ある程度は共有しているからか。

目の前の……黒髪の少女(すみちゃん)も押し黙ったまま、言葉を発しない。

 

そのちゃんは、乃木絡みのやるべきことがあると言って欠席し。

銀は、両親が久々に出かけられるようにと弟達の面倒を見ているらしい。

故に、此処……嘗ての二人が納められた結界内に座るのは、俺達二人。

 

「……先ずは、怪我しなくて良かった」

 

兎角。

一度は伝えたけれど、もう一度同じ言葉を繰り返し伝える。

 

多少の傷ならば神樹サマの加護……勇者としての力で自然と治癒するとは言え。

その一定を超えれば、当然のように治療さえも出来ない大怪我を負う可能性もある。

 

それを覚悟していて、それを伝え聞いていても。

その場所で……せめて近くで、見ていることさえも出来ない俺。

常に不安と、恐怖が押し寄せて心の一部を支配する。

 

「……心配してくれて、有難う御座います」

 

()()()()、と。

普段の彼女の表情とは違う、そのちゃんがしているような柔らかい笑顔。

初めて見るその変化に、一瞬言葉が詰まって……空咳をして誤魔化す。

 

「その上で、分かってることは聞いたけど……」

「はい」

 

その中で一つ、どうしても気になった言葉がある。

何処からその言葉が出てきたのか。

そして、バーテックスを操る存在との幾らかの符合しない点。

 

()()()()()()水瓶座(アクエリアス)()()()()()んだよね?」

()()()、です。 ……はい。 私しか聞かなかったみたいですが」

 

日本語を正しく使ってください、との指摘。

 

……妙にこういう所細かいよな。

和は色々と趣味にも合うし、普段は然程気にもしないんだが。

まあ須美ちゃんにそう聞こえたならそういうことにしておく。

 

「……分かった。 水瓶座と聞こえたと」

「はい」

 

誰が発した声なのか、という大前提。

その確認を兼ねて、周囲に見られないこの場所を選んだというのも理由の一つ。

何しろ、この場所は自称神が言うには()()()()()()らしいので。

 

――――何かを隠してる気がして仕方ないんだが、言うつもりも無いらしいしなぁ。

 

「その声は、今までに聞いたことは?」

「いえ……何となく、神樹様に近いものは感じましたけれど」

「この辺の雰囲気に似たものはある?」

「言われれば……?」

 

俺と彼女は。

互いに、無意識の内に似たようなものを共有している。

それは今までにも、そして二人での話の中でも話題に上がったこと。

 

『時折、知らない声がする』。

『夢を見る』。

()()()()()()()()()()()()()()』。

 

巫覡と巫女、男と女。

神樹様に選ばれることの無いモノと、愛されるモノ。

決定的な部分が違うからこそ、互いの言う事を正しく受け止められる。

 

だからこそ、その内容を真実と仮定した上で。

ある程度以上に知識を蓄えているからこそ、通じる話をする。

 

()()()()()()()()()()?」

 

それだけで通じると信じる。

 

そもそも、黄道十二宮は東洋由来処か……西洋から持ち込まれた文化に過ぎない。

十二宮、と呼ばれる密教の文化であるならばまだしも*1

日本で用いられるなら、それなりに歴史が存在する二十八宿*2などが妥当だと俺は思う。

そんな考え方の、名付けられた名称の外敵が四国を襲う。

 

「……いや、そんな、まさか」

「ある意味、須美ちゃんの好き嫌いは当たってたかもね」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

二人が言っていた意味を噛み砕いて、説明するならそういうことになる。

 

「だから、もし次に同じように聞こえたら教えて欲しい。 俺も図書館とか回ってみる」

「分かりました」

 

二人で確かに頷き合う。

ある程度以上の情報は大赦によって管理されているだろうから、怪しまれない程度に。

趣味として済ませられる範疇で、少しずつ深堀するしか無い。

 

「あの」

 

もう一度考えこもうとしたところで。

おずおずと手を上げながらの、彼女の声が耳に届く。

 

「ん?」

「このことは……そのっちや銀へは?」

「ああ……須美ちゃんから伝えてくれるか?」

 

俺から言うには多分怪しすぎるだろうし。

仲良し三人組として通っているなら、そのちゃんの小説のネタっぽく言えば大丈夫だと思う。

深く物事を考えている彼女なら、それだけで通じてくれるはずだ。

 

はい、と呟いた上で。

何故か上目遣いで、再度俺を見つめてくる。

……そういうことされると色々と心臓に悪いからやめて欲しいんだけど、駄目だろうか。

 

「…………あの」

「…………うん」

 

ほんの少しの空白後。

彼女から切り出す言葉を、じっと待った。

 

「お話、終わりですよね?」

「うん……須美ちゃんも無いよね?」

「ありません。 ですから」

 

うん。

 

「少し、お時間頂けますか?」

「良いよ――――で、何を?」

 

内容を聞く前に頷く。

別にこれくらいは普通だと判断しても……良い、よな?

 

それに対し、ええと、と。

其処で頬を染めながら目を逸らさないで欲しい。

 

「もう少し……お話、しませんか」

 

勿論、と。

返すまでには……僅かな間。

 

綻ぶような笑みと。

合わせて、微かな花の香りが漂ったのも。

ほぼ、同感覚だった。

*1
師子宮などから始まる、十二星座の派生

*2
江戸時代などに活発に用いられた考え方。曜日や十二支と深い繋がりがある




変更点:
・『そもそも黄道十二宮の名前を得ている』ことへの言及。
・『答えだけを先に得ている』状態からの答え合わせ。
・大型バーテックスの名前を神樹(?)から得ているのは須美。

・精神的疲労からか、自分に定めた約定から感情が少し漏れている。

「わすゆ」中編パートに於ける最終話ヒロインあんけ~と

  • そのっち
  • 銀ちゃん
  • わっしー
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