葦原天理は巫覡である 作:氷桜
*本日二話目です。
――――タマっち先輩に救われるまで。
私は、ずっと独りのような気持ちを抱えていました。
そんな言葉から始まった独白。
告白、から直接に結び付かない何かの夜想話。
けれど、それこそが。
本来言うつもりもなかったのだろう、先程覆い隠した言葉の裏側の意味であったらしい。
(たかしーや友奈の時も、こんな事あったな)
……そんな事を自分で思ってしまい。
脳裏で、自分で自分を殴りつけながら。
知られたくない、
「……周りから遠巻きにされ続ける気持ち、って言って伝わりますか?」
少なくとも、虐められていたとか直接的な何かをされていた感じはない。
平成の頃、正しく『生まれた頃』だったら。
そんな事が起こったりもしたというのは二柱から聞いていて。
そして、
「……あー、まぁ……うん。
ほんの僅かな差異に目が向いてしまい、そんな言葉が漏れる。
未だ小学校時分の頃。
そのちゃんが味わっていたものと似たような形。
向こうは家柄、そして在り方故。
此方は年齢、そして純粋な無知と気遣い故。
俺自身も……自分から距離を取ったと言うか、時間を割かなくなったから。
小学校の終わりの頃、あの地震の以後は顔を合わせてもそんな感じの気分を味わい。
元本家、叔父叔母達の家で後半遠巻きにされていた空白感は多分似たようなもの。
完全に、全く同じ気分を味わうことは出来ないけれど。
似たような感情は、多かれ少なかれ――――俺達の中では共通認識と出来る部分があった。
「ずっと独りでいるのかな、と思っていて。
……小学生の時に、天の神が現れて」
ぽつりぽつりと紡がれる言葉。
俺の知らない、嘗ての勇者達の成り立ちと願い。
僅かにでも抱けていた、当時の幸福と其れを失うことになった末路。
勇者各個人が抱く戦い、失っていくもの。
そして――――最初に眠ることになった二人は。
永久の眠りに付くこともなく、精神の中で抗いを続けていた。
「助けて貰って、ずっと過ごしていて。
天理さんは、私達に何も求めませんでしたよね」
「いや、それは……」
「私からすれば、そうなんです」
普段の、小説を読んでいるときとも違う。
誰かと雑談をし続けているときとも違う。
「もう駄目、と思った時。
あの精神世界の、夢の中での時。
貴方がいなければ、私達は折れていました」
大真面目に、『告白』と言う思いを吐露するだけの儀式。
その結果、受け入れてほしいと彼女は思い。
その結果、俺が其れを判断する立場に立たされながら。
同時に、俺自身が彼女に向ける感情を告げる
「……何故、私達を助けてくれたんですか?」
それは、ある意味で焼き直し。
自分の中で煮詰めた感情を、正しい意味で浄化するための行い。
本来であれば自然に移り変わるだろう関係性を、自らの気持ちで区切る行い。
乙女にとっては。
そして、其れを受ける異性にとっても。
遥か昔から続いてきた、過去から未来へと繋げていく旅路の一つ。
「……そう、ですね」
何故か。
世界を救う為であり。
俺自身の強引な願いであり。
幾つも理由としては挙げられるのだろうけれど。
それでも、その理由を正しく定義するのだったら……多分。
「……二人が抗ってる姿を見て。
不思議と、尊敬の気持ちが湧いたのが理由だと思います」
緊張から乾く口内。
それは杏さんも同じようで。
薄く朱に染まった頬は変わることなく、唯見下ろしながら。
奇妙な、それでいて理由が成立してしまう話を繋げていく。
「尊敬……?」
「ああなっても、諦めずに抗い続けたこと。
自分がいなくなる寸前でも、死んでしまうことが分かっていても。
……折れてしまったかも知れない、ということは。
勇者は精神性と才能と、その何方をも考慮されるという。
古く、少なくとも初代勇者達のときは其れを選んだのが神々。
最も自らに合う担い手、それを選ぶ巫女に渡したとしても。
選ばれた後に、半ば強制されていたとしても。
続けていた、という事実そのものを……多分、俺は尊敬した。
「だから、そんな人が。
王子様候補、でしたっけ? タマ先輩が言う通りなら。
俺みたいな人間を、そう見てくるのが……どうにも、噛み合わなくて」
言葉を選び、口にする。
一方的な好意、にも似た状態。
時間を掛け、仲良くなっていったのならばこうも拗れなかったとは自分でも思う。
何故そう思ったのか。
それがお互いに明後日の方向で一度屈折していたような状態だったから。
互いが互いを思う理由が、根底のところで正しく理解出来ていなかったから。
そうするだけの時間がなかった……互いにそうしようとしてこなかったから。
だから浮かぶ感情は申し訳無さ。
いつかは、いつかはと後回しにした結果の凝縮体。
……それに、何より。
相手は俺の現状を知った上で、今こうして口にしたということ。
他の勇者達、友人達、仲間達と同じ。
『伊予島杏』としての一個人として、感情を口にしたということ。
「違いますよ」
だから。
優しさとか、思いやりとか。
そういった各々の心というよりは、全てが本心から出た言葉だと。
互いに、そう感じ取っているのだと思った。
「そんな、貴方だから……
完璧じゃないから。
欠点が見えるから。
それでも尚、自分達のために立ち向かってくれたから。
そう、彼女は口にした。
「――――私達は、もうこの世界だと家族も誰も残ってません」
仲間と言う名の友人達。
名を継ぐ親族はいるけれど、数百年の時で血は様々に混じった。
「だから……誰もが、同じことを言うと思います」
寂しさを、言葉の端に滲ませながら。
彼女は、もう一度口にした。
「ずっと……ずっと、一緒にいて下さい」
永久の果てまで、と口にして。
朱色を更に強めた少女は静かに待って。
彼女たちの人生を背負って行くことを、既に決めていた俺は。
他の誰かと結ばれるまで、もしそうでないとしても幸せに生涯を過ごすことを誓っていた俺は。
返した言葉は一つ。
彼女に対しての好意と、敬意と。
契機であり、そうしなければいけないと魂の奥が囁いている祈りと共に。
「努力するし、何処まで出来るかは分からないけれど」
他の勇者達のことも。
彼女たちの気持ちを背負う事を大前提として。
抱えることを定められてしまった、役割の担い手として。
そして、一人の男として。
「……そう望むのなら、
呼び名を変えて。
そうする時は、関係性が変わる時だと考えていたモノへ移し替えて。
小さく囁きながら――――。
ほんの僅かに、二人の影を重ねた。