葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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中-2

 

ひどいめにあった。

 

「いや……なんというか、杏が気付かせてしまったのが原因ではあるのだが」

 

「今するべきことでしたか、と言われると否定できませんからね……。

 若葉ちゃん、お茶です」

 

ぐったりした身体を投げ出し机に横たわり。

そんな姿を見つつも、呆れたような声色が上から二つ。

 

ある意味夫婦、とか言われてしまう嘗ての勇者とその巫女。

今後、ここから出た後には新たな身分を背負って新しい人生を歩む予定の四人の内の一人。

 

「って言っても……詰問みたいに問い掛けられると精神的にキツイんだが?」

 

「みたい、というよりそのものだった気もしますが」

 

どうぞ、と差し出されたお茶に礼を言い。

這いずるように身体を起こしていく姿に苦笑しているのが視界に入る。

……現状、そんな姿を取り繕う気力もなんだかもぎ取られたような感覚が強く。

言い返すことも出来ずに、疲労に呑まれて変な言葉が口から漏れる。

 

そんな二人と、俺だけが此処に取り残されたように座っているのは……まぁ、他でもない。

全員が同時に移動するよりは、拠点としている丸亀城……その寮。

その場所近辺に、誰かしらは残しておくべきと言う意見が出され賛成多数で可決されたから。

まぁ、誰が残るかはじゃんけんの勝敗で決まったんだけども。

 

「果報者の負うべき義務だと思って諦めろ、と私は言っておくべきか?」

 

頭頂部の辺りに向けられる目線が一つ。

微かに優しさが滲み出たような。

それでいて、呆れと羨望が混じったような声色。

 

何度か二人で話すことが有り、それ以降見えてきた若葉本来の姿。

自らがしなければならない、ということでなく。

自らがしたい、やってみたいという年頃の異性特有の色合いを滲ませる。

 

俺個人としては……絶対もっといい人いると思うんだけどなぁ。

 

「若葉ちゃんももう少し強く言っていいと思いますよ?」

 

「いや、今のこれを見ると少しな……」

 

ぴしゃり、と言われる言葉に抵抗してくれる若葉。

流石にこれ以上恥ずかしい格好も出来ないので顔を起こし。

笑いつつも、呆れている様子を隠さないひなたと目を合わせて眼で謝罪する。

 

「まぁ……せっかく二人といるんだし、こうしてるだけも不味いよなぁ」

 

「仮にも私達の取り纏め、黒一点なんですし……しっかりはしてほしいです」

 

まあ、あまり遠くに離れられないので何をするにしろ制限が係るのもまた確か。

故に、話を切掛に何かを探ろうとするのだが――――。

窘められつつも、若葉と同じような色合いが見え隠れしている気がする。

 

()()()()、ということにして少しだけ思考を巡らせる。

 

若葉は一見厳しいように見え、そして半ばはその通りに自他共に厳しく。

けれどその厳しさの発端は慈しみであったり、他を護る為であったり。

優しさ、という要素と幾つかの内面を入り混じらせた少女。

 

ひなたは一見優しそうな見た目を持ち、けれど決定的な所では譲らない。

自分の中での基準に従い、必要があれば犠牲を問わず。

悲しみを自分の内側にのみ秘め、外へ漏らすことが出来ない少女。

 

そんな二人が同時に目の前にいる状態。

助け出し、それ以降ある意味公私共に親しく付き合ってきた相手。

自身の内面を吐き出すことが出来る、数少ない相手。

 

(……駄目だな、考えが纏まらない)

 

どうでもいいこと――――それも色惚けに近い方向に思考が向いている。

何となくだが、「自分自身(あしはらてんり)」という存在が希薄化し。

重ね合わされた相手と入り混じり、新たな「俺」を構築しているような。

そんな言葉にしづらい、不思議な感覚。

 

ある意味で、これが俺にとっての散華に当たるのか。

そんな自嘲さえも浮かんで、けれど表へは出すこともなく臓腑の奥へと飲み込んでしまう。

 

「って言ってもな……俺は日常だと本当に補助役くらいしか出来ないし。

 戦闘なんて以ての外、ってのは分かって貰えてると思うんだけど」

 

代わりに出たのは自分への釈明と、半ば本音を交えた言葉。

 

戦闘補助……満開の際の犠牲の代理、という俺にしか出来ない変換器の役割を除いた場合。

寧ろ其れより前、戦いを構築するまでの準備段階での根回しとかが俺の役割と自認してる。

儀式を必要としたり、或いは神に纏わることなら兎も角。

バーテックスとの戦いそのものには介入できない、というのが俺自身の辛いところ。

 

「それだけでも十二分に凄まじい、というのは置いておくとしてだ。

 ……なぁ天理、お前は其れでいいと思っているのか?」

 

ただ、そんな内心の吐露に対し。

予想しない返事が返り、ほんの一瞬口籠る羽目になった。

 

「思ってはねーですよ?」

 

何かができれば、という気持ちから俺の行動は始まった。

だから色々としてきたわけだが、そもそもの本質。

多分俺は、戦闘そのものに向いていない巡り合わせの持ち主なのだろう、ということ。

 

回避や周囲を確認した上での手を打つ、という行為そのものは何とか出来ても。

(そもそも使えるかどうかは別として)武器を振るう機会も無く。

ずっと続けている運動故の体力だけは在っても、変換時以外にはあまり役に立たない。

 

だから――――()()

 

自分で自分の異常に気付く。

負の方向にしか考えが向かない。

誰かを妬むような考えしか浮かばない。

神に触れるものとして、宜しくない方向性に引っ張られている。

 

性欲、負の感情、他人任せ。

そのどれもが、誰かに誘導されている所以のように感じてぞっとした。

そもそも、そう考えてしまう事自体が……そんな可能性だって在って。

自分で自分が信じられなくなりそうで、怖くなった。

 

「天理さん?」

 

言葉を発しようとし。

けれど其れを取りやめ、自分の中に埋没していた俺を引っ張り上げる声。

 

「本当に疲れているのだったら、休んでいても――――」

 

「すいません、二人共」

 

気遣ってくれる言葉を遮って。

また一つ、別の依頼を口にする。

 

「多分、精神的に悪い方向に引っ張られてます。

 一度切り替えたいので、どうにかしたいんですが……」

 

昔は、この場所でどういう事をしていたんですか。

其れを知る、当時の巫女へと問うた。

 

きょとん、とした後。

直ぐに切り替え、重要度を理解したような顔へ。

その移り変わりを見て、なんとも形容為難い感情を抱きながら。

 

「……皆が戻るまでに一段落付けたいので、協力してくれます?」

 

精々出来るのは、簡単な水行くらいだとは思うが。

清めのための儀式を一つ、お願いした。*1

*1
尚、ある程度穢れの要素を持たなければ神の側に引っ張られる事には気付いていない。

現状二柱の声が聞き取りにくい/聞こえていないのは精神が純化し過ぎているから。




次回、一緒にわくわく水垢離☆の回。
抑圧的な面が浮き彫りになってきているので其れを打ち崩しましょうね。
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