葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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ちょっとした昔話と、ちょっとした甘さ露出。


中-3

 

「確かに協力してほしいとは言いましたよ?」

 

「言ったな」

 

「言いましたね」

 

でもそれにしたってどうなんだよ、と言う言葉が出そうになって押し留め。

そして同じような格好をする二人から目線を逸らし、()()()()()へと足元を浸ける。

 

「でも二人まで一緒にすることないと思うんですけど……」

 

「精神修練には中々向いているのだが」

 

「それに、今の時期に下手に水に触れれば風邪引いちゃいますから。

 若葉ちゃんをそんな危険に晒すわけにはいきません!」

 

「いやあの、だったら二人でやってくれませんかね?」

 

滝垢離でもしたほうがどうでもいい事考えなくて済む気がするんですけど。

 

そんな戯言を無視され、溜息を漏らし。

良く分からない道程に付いてきたことを少しだけ後悔する。

 

案内されたのは城の近辺、元は「大社」の本拠が在った場所の近く。

本来は巫女が行水を行い、そして身を清めたとされる一室の再現。

 

現代……今では管理だけをされ続けているであろう場所に普通に入れる理由。

それはやはり、この世界が神樹サマの内側。

要するに”再現”を前提としている部分があるからなのだろう。

 

つまり、『当時利用していた人』『強い記憶を持つ人』。

そういった相手が強く思えば、それは内側にいる限りにある程度は反映される()()()()()()

今回再現されたのは……まあ、ひなたが使ったことがあるからなんだろうな。

 

「天理さんにも、多少は関係がある場所なんですけどね」

 

「え?」

 

恐らくは風呂として利用していたのだろう。

多人数用とばかりに広く、そしてそれなりに深い湯船。

身体を洗うような場所も壁沿いにあり、湯を入れること自体問題ないのかが心配だったが。

聞く限りでは沸かしているモノではなく、何処かから引いてきていたモノとか何とか。

 

……以前は使えなかった場所が使えるようになったのも、神の協力を得たから。

共生出来ている、と思って良いのかちょっと悩む俺へ掛けられた言葉。

 

「花本さん……天理さんのご先祖様が一番利用されていた場所ですよ」

 

「ご先祖様……っていうと、せんちゃんの巫女さんだったっていう?」

 

ええ、と頷きつつも。

 

本来は女性専用の役職であるが故に、同時に異性に見られることなど考えもしない衣装。

薄衣、水に濡れば簡単に肌が透けるような白い衣装がその下の色に透け。

はぁ、と露骨に色気を帯びたような……安らぎを交えたような色合いを秘めながら。

足元だけ、裾の部分だけが変わった色に染まった二人から目を逸らしながら。

余り聞かない――――そして教えて貰っていなかった、その人について深く聞こうとする。

 

「花本さんは水恐怖症だった、というのも有りまして。

 滝垢離……本来の日課だった滝に打たれる修行も一人だけ免除されていましたね」

 

「私は其処まで深い付き合いではなかったが……。

 千景の事を一番に考え続けている、愛情深い人だったのは間違いないと思う」

 

懐かしむような口調。

二度とは会えない相手に対しての懐旧を込めて、尊敬の色のみに染まった言葉。

それだけ本心から思える相手であり、それだけのことを為した人であり。

そして、何より――――彼女たちを助ける事になる切掛を作り上げた人。

 

「……あんまり言う機会もなかったんですけど」

 

正直湯船に浸かる、という行為そのものが怖い。

一応水着と言うか、下履きとかを含めて同じ空間にいるのは事実だけど。

昔であったら余り気にしなかったことが気になってしまう、という理由もあり。

彼女達と同じく、足湯程度に浸かって落ち着くことにする。

 

……いやぁ、本当に水垢離方面にすりゃよかった。

 

「多分、面影だけは見たことあるんですよね。

 で、せんちゃんを託されたんだと思うんです」

 

「面影を、ですか?」

 

ええ、と。

気付けば敬語になってしまう自分に気付きながらに話を続ける。

 

「せんちゃんが眠った先、ワカやヒメが言うには冥府の入口。

 彼岸花のような花畑の手前で、誰かに彼女を託されたんです」

 

後でせんちゃんに聞いたけれど、記憶はどうにも曖昧になりつつあった。

ただ、大事な誰かにずっと守られていた。

そのことだけは決して忘れないように、大切な思い出として抱えているのも事実だった。

 

其れが誰だったのか、具体的に追求することはなく。

ただ()()()()で誰なのかを理解し、そして感謝を告げた人。

どんな人だったのか……聞く機会も無かったと言えば、無かったのも事実だが。

 

(薄情だったかなぁ)

 

当人と出逢えばどんな言葉を返すのか。

ちょっと想像するのも難しいが。

何となくだが……気難しそうな人のような気がしないでもない。

 

「……花本さんが任せる程、良い関係だったのでしょうか」

 

「私がひなたを任せられるような相手……も中々考え難いな」

 

「なんでそういうこと言うの!?」

 

「いや、私に置き換えればそういうことだろう?」

 

はぁ、と言う言葉。

それに対して放たれた夫婦喧嘩のような言葉。

 

喧嘩するほど仲が良い、と取れば良いのか。

犬も食わない、と呆れれば良いのか。

何方が正解なのかも分からない……のだけど。

言えることが、一つだけ。

 

「若葉()()もひなた()()も美人なんですし、探せば見つかりますよー」

 

他人事のように放り捨て。

やれやれ、と思いつつに溜息を吐いて立ち上がろうとし。

漸く耳にワカとヒメらしき二柱の声が脱衣場側から聞こえたので、向かおうとして。

 

「何度も言うが、そういう言動は傷つくからやめて欲しいところだ」

 

「ええ。 ……銀ちゃんや園子ちゃんのようには行きませんが」

 

私達だって、努力はするんですからね、と。

同じく立ち上がった二人に肩を掴まれ、横に並ばれ。

立ち去ろうとした側へ逆戻りさせられる憂き目に合ってしまった。

 

……言葉選択間違えたかな。

遠い目をしても、何も解決しなかったのは……唯一の発見点だったけれど。

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