葦原天理は巫覡である 作:氷桜
気分転換回。
幾つか調査、相談、そして推測を行うこと一週間。
内部と外部の時間の流れの違いがあるとは言え、一向に進まない対策に煮詰まり始めた頃。
そして同時に皆が出来ることを理解し、自分なりに行動出来ることを定義した頃。
「動く方針……先? が見えた、と?」
ほんの僅かにでも進捗が見えたのは、そんな日の朝方。
必ず毎朝行っている、朝食を兼ねた会議の終わり際。
巫女の役割を持つ顔触れを集めての追加会議で告げたことだった。
「と言うより、他に比べて……って前提にはなるんだけど。
「は、はぁ」
「どういうこと、ですか?」
食事場から少し場所を変え、資料室に顔を揃えた四人。
殆ど外での手伝いに顔を出さず、調査に没頭していた俺と違い三人は各々出来ることをしていた、と聞いている。
その分、知識面やら持っている情報に格差が生まれるのは当然で。
逆に言うなら、そんな部分で役に立てないのなら俺が完全な役立たずに成り下がる。
だからこそ、全員に説明を行う前に見ている視点におかしな場所がないのかを確認しておきたかった。
故の集まり、無理に時間を取って貰った会議。
一度小さく頷いて、一番最初から説明を行うことにする。
「まず大前提になるけど、俺達が求めてるのは神々の力を借り受けるってこと。
つまり、可能であればずっと昔から祀られてることが一番良い状態になる……ってのは良いよね?」
当たり前すぎること。
けれど頷きを返してくれる三人。
「ただ、色々と資料を漁ったりしたんだけど主神や祭神として正しく祀られてる様子がない神もいる。
でも力を与えてくれた、護ろうとしてくれた神であるのは間違いない。
この場合、どう対応するのが正しいと思う?」
具体的に言ってしまうなら、杏とタマっち先輩。
彼女達が持つ神具の大元を辿った場合、最も有力となるのは結界の外。
本土の出雲地方――――神在月の名を持ち続けるあの場所に集中している。
ただ、彼女達の出身地は四国の愛媛。
二人の出会いを前提とするなら、小さな神社に祀られていた武具に引き寄せられた気がすると聞いている。
つまり、神具そのものに宿った力なのか。
或いは似た形状の弩に力を宿したからこそ、神具と化したのか。
それは即ち、類感呪術、或いは類似の法則とも呼ばれる影響による変化の結果なのかの二択。
後者の場合、西……或いは北西辺りの神社に向かう必要性も出てくるし。
前者の場合は正しく祀られた神社を見つける必要性が出てくる。
この辺りの違いを、巫女である同類の少女達にも聞いてみようと思い浮かんだわけだ。
特に、神と繋がる……神の力を借り受ける、請願する能力が欠けている俺だからこそ。
「一番確実なのは……その神具が祀られていた神社へと出向くこと、ですよね」
「それは間違いないと思います。
ただ、神樹様……あ、違いますね。 別の場所からやり取り出来なくもない、と」
そんな互いの事情を理解しているからこそ、なのか。
少しだけ戸惑ったような気配を残しつつも、ひなたがまず言葉を漏らし。
それに追従するように亜耶も言葉を発する。
「天理くんはどう思うの?」
「正直、出向くのが確実だとは思ってる。
ただ、その神社でなにかがあった場合が怖い……のかなぁ」
そして、美森ちゃんだけは答える前に問いを投げ掛けてくる。
個人的に思っているのは、どんな手段を取るにしろ四国中を行き来する必要性があるということ。
其の為の手段、手法は銀に力を分け与えた神を経由して何とか出来る。
ただ何方にしても、片道だけは自分達の足で向かう必要がある。
もしかすればこれこそが神託なのか、と信じたくなってしまう悪寒。
そんな予感が背筋を撫で続けるからこそ、どうにも弱気の手段を選んでしまいそうになる。
幾つかの意味を込めながら、はっきりとしない言葉を口にすれば。
表情を読まれたのか、少しだけ口元を柔らかく変えた三人の顔が視界に映る。
「前から思ってたけど……顔に出るわよね、天理くんって」
「ですよね!」
「ですね……」
三者三様、けれど同じことで納得したような頷きを返す三人。
そんな応対に少しだけ足を後ろに下げつつも、言葉で抗うか少しだけ迷い。
するだけ無駄だよなぁ、といつもの如くに諦める。
『男子ならばもう少し気合を入れぬか』
『好いた女子に勝てないのもまた男子でしょう、ワカ様』
脳内の奥、胸の内側。
いつものようにワカとヒメの戯言が聞こえ、そしてそれを無視する。
本来は有り得ない場所での、有り得ない顔触れの、有り得ない会話。
そんな風に感じてしまう俺自身も何処かに残りながら。
一歩ずつ近付いてくる彼女達に抵抗も出来ず。
する気も起きず。
(……変に迷うくらいなら、突っ走ったほうが良いのかね)
脳裏に浮かんだ回答の一つを心へと刻み。
伸ばされた手に、両腕を取られ――――引き寄せられた。
それに気付いたのは、彼女達が落ち着いた後。
俺自身が周りに向けていた顔色のことを知ってから、のことだった。