葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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急-4

 

ぺらり、ぺらり。

紙を一枚一枚捲り、気になることがあったら筆記・記述。

手元のメモ帳は意味があることと無いこと、両方で埋められている。

 

「ん~……」

 

その対面側。

流石に此処で携帯端末を開くのが不味いことは彼女も承知の上。

普段から持ち歩いているらしい、良く分からないメモ帳に何かを書いている。

 

市立図書館、その片隅。

この時間、珍しいことに他の来客の姿は見えず。

今、互いに向き合って調べ物。

 

(……流石に小学校よりは色々置いてあるもんだな)

 

学校を除き、こういった場所には余り近付いたことがない。

理由は単純、学生と教員以外の成人達が多く立ち寄る可能性がある場所だから。

けれど、俺が通うのは何処にでもある(というには新しめの)小学校。

置いてある本の種類や内容にも限りがあり、調べるにもその情報が無い始末。

 

念の為神樹館側を調べて貰ったそのちゃん曰く。

 

『此方も駄目~。 普通の本?はあるけど、専門書とかそういうのは無かったなぁ』

 

とのことで。

今こうして二人して、”偶然出会った”体で調べ物を進めている。

 

子供の浅知恵、と言ってしまえば其処までだけど。

少なくともそのちゃんの趣味がある以上。

俺はともかく、彼女の側は其処まで不審がられるような行動とは言い切れない筈。

 

『自己犠牲は好まれませんよ』

(仕方ないだろ、他に方法思いつかなかったんだし)

 

大赦の中に知り合いでもいれば別なんだろうけどな。

生憎そっち方面には一切繋がりもないし、諦めるしか無い。

 

(それよりも、だ)

 

手元の資料。

多分、其処に疑問を持って調べでもしない限り気付かないと思う違和感。

ふと気になった発端も、目の前の金髪の少女由来。

 

「そっちはどう?」

「ん~……”頑張りました”くらいしかないんよ~」

 

須美ちゃん経由で伝えた情報を調べる中。

何か物思いに耽るような、微かな憂いを込めた目をしながら。

多分、俺と二人になったからか漏れた……或いは()()()()言葉。

 

『そう言えば~……私達の家って、ずーっと昔から仲良かったんだよね~』

『……へ?』

『乃木と上里。 てんくんの家の本家……って言えば良いのかな?

 ご先祖様達が大赦って形を整えたらしいんよ』

 

それ自体は聞いたことがある。

 

『でも、()()()()姿()()()()()

 その後のことは、弟さんか妹さんが引き継いだんだって』

『聞いたこと無いな……』

『まあ、合ってるかどうか分かんないお話だからね~』

 

聞いたこともない異説。

姿を消した初代達。

それは死、という隠語という意味だけではないはずで。

 

(――――そういや、父さん達が生きてた頃()()()()()()()()()()()()?)

 

そして、上里、という名前に違和感を覚えたのも確か。

 

口に出すこと自体気をつけていた、というか。

万全に万全を重ねて、絶対に言わないようにしていた、という感じの。

俺がその苗字を正しく聞いたのは、今の家……叔父と叔母の下に来てから。

仮に、家への……血への誇りがあるのなら何処かで聞いていただろうし。

 

二人……二柱から聞いた、言霊という文化を思い出す。

 

(……口にしてはいけない何かを引き継いでいた、とか?)

 

そんな、突拍子もない思い付き。

だからこそ遡り始めた、『神世紀になってからの歴史』。

 

乃木、上里、そして俺の『葦原』。

その記述を追い求めて、一般的に知られていることを先ず調べた所。

 

(200年くらい前……から西暦時代までに掛けて……()()()()()()()()、か?)

 

大赦に関して殆ど情報がないのはまあ良い。

そういう組織だし、寧ろ少しでも内容が記載されていたのに驚く位。

とは言っても、『神樹サマの対応・維持している』程度の記載ではあったが。

 

四国が閉じられている部分に関しては知っている常識通り。

ただ、その”ウイルス”と記載された部分には今では少し疑問が残る。

 

ウイルス、細菌……()()()()()()

二人から聞いた、そして須美ちゃんが聞いたという名前。

神樹サマらしき存在が知っていた、その()()()()()

つまり、今回のものが初めての襲来ではないのは確実。

 

そうなってくると、更に疑問が発生するのは名家と呼ばれる家々達。

大赦に関わり、その立て直しを図ったとされる俺達に関わりの深い二家。

現代は兎も角、その発端当時はバーテックスの存在を確実に知っていた筈*1だ。

 

(言えない、ってのは分かるが……)

 

そのちゃんに目を向ける。

一人娘、言ってしまえばこの四国の次代で最も権力を持つ一人。

それさえ知らない事実――――いや、『勇者』だから、か?

 

「……分からん」

「てんくんもおつかれ~?」

「うん、疲れた」

 

主に脳が。

細かい部分を聞いても、曖昧な笑みと誤魔化す口調で流されるし。

あの二柱は、自分で知ることを大前提にしている節もある。

恐らく、それを踏まえてどうするかを見定めているんだろうが。

余計なお世話だよ、と大きな声で言いたくもなる。

 

「じゃ、今日は此処までにしよっか」

「そのちゃんもそれでいいの?」

「うん。 趣味の調べ物も出来たし、気になることも後で家で調べてみるし……。

 それに、ちょっと満足しちゃった」

 

満足。

何をだ。

首を少しだけ傾げれば、おかしそうにクスクスと笑った。

 

「真剣な顔に気が抜けた顔。 色々見れたからさ~」

「うぇ」

 

思わず出た変な声。

え、観察されてた…………?

 

「てんくん」

「はい」

 

思考の隙間に刺さる呼び方。

親愛にも似た、もう少し複雑な感情が混じいる声色。

 

「……もうちょっと、満足させてほしいなぁ」

 

ニッコリと、笑顔。

 

「…………何を、すれば?」

「そうだな~」

 

……結局、好意を抱いた側の負けなんだろうな。こういう時。

そんな諦め半分、喜び半分の感情で問い直せば。

 

少しでいいから、手を握ってくれない?

そんなお願い事をしながら。

彼女は、そっと手を差し出していた。

*1
メモリアルブック年代表参照。




※変更点
・「上里」「乃木」の初代のその後の変化
・「葦原」の引き継いできた謎
・改竄された歴史の話


・現状、脳内がバレたら確実に「事故死」させられる。

「わすゆ」中編パートに於ける最終話ヒロインあんけ~と

  • そのっち
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