葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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急-6

 

バーテックス/山羊座(カプリコーン)。

 

三体目の大型バーテックス。

 

それが、樹海に多大な被害を引き起こし。

現実世界へも大型地震という形で影響を発生させ。

死傷者を多数発生させた存在だったという。

 

「…………」

 

病院。

顔(・)に(・)白(・)い(・)布(・)を(・)置(・)か(・)れ(・)た(・)、(・)男(・)女(・)二(・)人(・)の(・)遺(・)骸(・)。

手足の幾らか、指の圧潰による消失。

死因は潰されたことに寄るショックと、頭部損壊。

 

(……これから、どうすりゃ良いんだろうな)

 

これで、保護者と死に別れるのは二度目で。

親類と呼べる相手は全ていなくなり。

然程、どころかほぼ会話も無かった相手ではあるのに。

大切な何かを欠けさせたような、喪失感が心の何処かに残り続けている。

 

(上里のところに行く選択肢は無い)

 

それは向こうから――――正確に言えば、それを伝えに来た神官が口にしたこと。

『葦原の人間とは血を繋げる以外で接しない』。

代々、当主にのみ伝えられているらしい言葉。

 

確かに、既に継ぐ人間がいない以上。

俺が当代の『葦原』ということになるが。

 

それが何を指すのかも、そのための物事も。

引(・)き(・)継(・)ぐ(・)べ(・)き(・)こ(・)と(・)全(・)て(・)が(・)消(・)失(・)し(・)て(・)い(・)る(・)名家の存在意義とは何だろうか。

 

(金だけはあるとは言ってもなぁ)

 

幸い、と呼ぶには問題だらけではあるが。

両親に叔父叔母、彼等が遺してくれた財産という意味では大きいもので。

更には大赦から、『被災した子供』という名目で暫くの宿を手配して貰えはした。

 

それでも、だ。

恐らく、小学校を卒業に合わせて生家に戻るのは避けられない。

 

「どうしたもんかね」

 

病院での手続きの殆どは大赦が対応してくれた。

今後は俺一人で学びながら対応する必要もあるけれど。

今は片付いたその事自体に、酷く安堵していた。

 

病院の外。

草木が生えた周囲一体を歩きながら。

被災者用の宿として送られた住所へと歩き出す。

 

既に夕方を超えた夜中。

食事を取る気力も曖昧だが、それでも空腹を訴え音は鳴る。

 

『……天理よ』

 

暫くの間黙っていた。

或いは言葉を選んでいた、二人の言葉が漸く聴こえ出す。

 

「ん?」

 

今は、声に出して会話したかった。

例え、誰かに聞かれていたとしても。

 

『これからどうする気だ?』

「どうするか、か……」

 

暫くの間は学校も休みになる。

というよりも、色々とやるべきことがあるから行っている余裕がない、か。

遺産継承、崩れた家から荷物の引き上げに暫くの住処探し。

少なくとも小学生がすることじゃないよな、とは感じてしまう。

 

「死ななかったんだから、するべきことをするよ」

 

それが二人との約束。

あの時聞こえた、微かな声色から学んだこと。

そして、三人にも。

伝えるべきことと……やるべきことを告げる必要がある。

 

携帯端末を覗く。

 

『ごめんなさい』

『連絡して』

『今何処だ』

 

戦いの末の末路を知ったのか。

そうして、俺の家の被害も知ったのだろうか。

 

三人からの連絡が引っ切り無しに、それこそ山のように。

文章一つ一つから、後悔と涙が見えてくる気さえして。

携帯端末で伝えないように、と互いに約束したにも関わらず。

バーテックスの名前と、戦った結果を送ってきてしまった。

 

病院の中であったということと。

何と返事していいかが分からず。

その情報を見た上で、そのままにしてしまっていた。

 

向こうには、『既読』と出た上で返信が無い状態が続いている訳だ。

 

『仕方なかった』

『三人は悪くない』

『頑張った』

 

そんな言葉を送るだけなら簡単で。

けれど、送ったら絶対に深読みして何か言ってくるなり電話が連打で届くだろう。

 

「まぁ、先ずは三人を落ち着かせるところからかな……」

 

自(・)分(・)の(・)こ(・)と(・)は(・)後(・)回(・)し(・)で(・)良(・)い(・)。

今までも、これからも同じこと。

生命を掛けて世界を守り抜く少女達には、余計な負担を掛けて欲しくない。

 

『そういう意味では……お守りは役に立ったのやもしれませんね』

「どーだろーなぁ」

 

生(・)命(・)に(・)関(・)わ(・)る(・)何(・)か(・)が(・)起(・)こ(・)っ(・)た(・)時(・)に(・)だ(・)け(・)働(・)く(・)お守り。

そして働いた後に、俺への負担という形で何かが返ってくる。

それを三人に告げる訳にも行かず。

かと言って、そうなれば間違いなく心配させるのも目に見えている。

 

「引っ越す……暫くの住処くらいは教えとくか……?」

『のぉヒメよ。 物凄い言いたいことがあるのだが許されるか?』

『内容次第だとは思いますが……言わねば分からない気もしますね』

 

何故か酷く罵倒されている気がする。

軽く無視しつつも、暫しの問題点などを整理して伝えるかどうかを再度検討。

 

(…………言わなかった場合の不都合(デメリット)考えると、言わない選択肢無いな?)

 

多分泣く。

物凄い泣かれる。

後色んな意味で互いに傷を残すことになる。

 

それに、少なくとも銀とも気軽に会えるような場所ではなくなる。

駅前、讃州市へと繋がる路線の最寄りのホテル。

取り敢えず二週間程は其処で過ごし、その後は……どうなるのか。

こんな対応をするのも、恐らくは名家だからだろうし。

 

『駅前のホテル◯◯の201号室。 暫くはそっちが住処になる』

 

そんな内容を送り、小さく息を吐けば。

数秒と待たずに振動。

 

「いや、早くないか?」

『ずっと待っておったんじゃろ』

『気が利くのか、鈍感なのか分かりませんね……相変わらず』

『彼女も色々変わってたわね……そういえば』

 

……。

とりあえず携帯端末を見る。

放置してると、それこそ不味そうだったし。

 

『今から行きます』

『待ってて』

『須美か園子、アタシも拾って行って!』

 

……………………。

少しばかり遠くを見詰める。

 

眠れるかなぁ。

圧が恐ろしいことになりそうで。

ただ、そう考えている間だけは。

暗い方向性へは、思考が向かずに済んでいた。




※変更点:
・山羊座さん迫真の大活躍。
・凡そ死傷者は数百程、倒壊した建物は百程度。
・『運が悪かった』に過ぎない。

・尚、少女達三人の心には傷が付いた。

「わすゆ」中編パートに於ける最終話ヒロインあんけ~と

  • そのっち
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