葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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急-8

 

「…………え?」

 

それは純粋に疑問としての言葉。

今、銀が触れた場所へと目線を移して。

 

「「……」」

 

それを沈痛な表情で眺める二人。

一歩だけ、距離を取ったのが分かった。

 

「口で言っても、多分分からないだろうからさ」

 

その離れた隙間に入り込むように、銀が俺の目の前に座り込む。

包帯が痛々しい状態を示す中、そっと両手で俺の両手を()()()()()()

 

「…………?」

「分かる?」

 

右手を覆う左手。

普段と変わらない、きちんと握り締める感触。

左手を覆う右手。

力を込めているだろうに、微かに動く指先と軽く触れるだけの掌。

 

「いや、これ……」

「神経を抉っていったみたいでさ。 これでも、少しは良くなったんだぞ」

 

苦笑い。

涙を浮かべながらの。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「脚も似たようなもんらしい。 上手く上がらなくて、若干引き摺ってるんだ」

「手術とかで……」

「治るにしても、リハビリ? とかで何年かは掛かるって」

 

幾つか医者引き回されたんだぜ?

張り付いた笑顔で。

一切笑えない言葉を、口に出す。

 

「大赦側は、それでも銀を戦場に出そうとしていました」

「……()()()()()けどね」

 

暗に何かをした、と呟く二人。

……大赦への悪感情が増していく。

 

「実際、勇者になれば戦えなくはない……というのが問題なんだよな」

「ミノさん!」

「銀!」

 

参った参った、という言葉に反比例する表情。

止めようと口を二人で塞ごうとし、力が入らないからかされるがままにされている。

 

「……どういう意味なんだ?」

 

勇者にはなれない――――だからこそ、それが指す意味が分からずに。

力が増し、治療にも少しだけ効果があるとは聞いていても。

筋力が入らない身で、戦闘が行える?

 

もごもご、と口にしようとして。

二人の手が緩み、それで漸く言葉として意味を成す。

 

「神樹様の力を借りる訳だから、普通とはまた違う……なんと言うんかなー。

 ()()()した感じで動けるんだ」

「ただ、銀の場合はそもそもの握力が駄目になっているので……」

 

察した。

腕力とかそういった部分は強引に何とかなっても、握力が急に抜ける可能性もある。

そうなれば武器は何処かに飛んでいくし、回避する為の脚も取られている……か。

 

「なら、俺も反対だ。 そもそも手術とかで治る可能性もあるんだろ?」

「半々……くらい?」

「……それだけあるなら、そうしてくれ。 何より、銀の身を一番に考えて欲しい」

 

いや、本当に。

例え大赦が何が言おうと、物理的に危険が確実視出来るのなら拒否して欲しい。

……それで、どんな事を言われようと。

 

「やっぱり、二人と同じこと言うんだなぁ……天理も」

「お前の両親だってそうだろ。 心配してないわけあるか」

 

そう口にすると。

作り笑いの端が欠けたように、目線を伏せた。

今は顔を見せたくない、とでも言いたそうに。

 

「……銀?」

「……父ちゃんにも、母ちゃんにも言われた。 でも」

 

一拍。

短い、けれど絞り出すような時間。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

誰も、言葉を発せなくなっていた。

 

それは、家庭環境や立ち位置の違いも間違いなくあるけれど。

今回の出来事で、一つの家庭が崩壊仕掛けているのを生々しく聞かされているから。

 

「自分をずっと責めてて、弟達はそれを理解しないで質問して。

 ――――アタシが、あのままいたら」

 

それ以上は口にしない。

けれど、意味は全員が共有していた。

 

(自暴自棄になってる……って面もあるだろうけど)

 

こうなってしまえば、後はよく話し合うか時間を空けるしか無い。

ただ、銀自身は幾ら勇者といえど小学生。

一人で何かが出来るような状態でもなく、それを認める相手もいない。

 

「……ねえ、ミノさん。 ひょっとして、荷物やけに多かったのって」

()()()()()()()()

 

……家出、というには物騒で。

悲劇的で、互いに家族の事を思うが故の行動だと分かるから。

やはり、何もそれには言えない。

 

「だから……誰か泊めてくれると嬉しいんだけどなぁ?」

「わ、わっしー……?」

「ど、どうしましょう……」

 

困った時は友達に頼る。

それは間違ってないと思うが、突発的すぎやしないか。

 

「お前……それ両親二人共探してるんじゃないのか?」

「かもね。 でも……今は帰れない、ってのは。

 天理にも分かるだろ?」

「…………まぁ、なぁ」

 

携帯で連絡はしてるよ、と言いつつ画面を見せてくる。

確かに自分の考えやいなくなる理由を書いてはいるけれど。

 

「……どれくらいの期間の予定なんだ?」

「ん? 勿論お互いに落ち着くまで……のつもりだけど。

 こうなったら神樹館も行けないし、天理のとこ行こうか?」

「やめろバカ」

 

ああ、ついでに言っておく必要もあったか。

 

「銀の話に乗っかる訳じゃないけど、多分俺も小学校卒業したら生家に戻る。

 実家はまだ向こうに残ってるし、色々と引き継ぎもあるし」

 

だから、会う機会も減るかもな。

そんな形で軽く口にして。

 

「え」

「……え?」

「は?」

 

三者三様に、顔がぐりんと此方に向いた。

いや怖い。

ほぼ同じタイミングで同じように此方を見るんじゃない。

 

一歩下がろうとして、未だに銀が目の前だという事実に気付く。

満面の笑み。

右手首を思い切り掴まれ、それ以上の行動が出来なくなった。

 

「どういう意味です?」

「てんくん? 私きいてないよ?」

「アタシの事言えないじゃないかー!」

 

…………どうしろってんだよ。

後銀、お前のことに関しては割と堂々と言えると思う。




※変更点:
・生存の代わりに右腕・左足の神経損傷。
・『散華』による物でもなく、勇者特性による回復でも賄えない範囲。
・上記による即時治療の不可もあり、生存のまま引退予定。
・完治数年程度の見込み。
・一応手術後に勇者服でいれば回復が早める可能性はある。

・アホボケが突っ込むタイミングじゃないところで話題を突っ込んだのでやや病みが進行した。

「わすゆ」中編パートに於ける最終話ヒロインあんけ~と

  • そのっち
  • 銀ちゃん
  • わっしー
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