葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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基本的に実在した、とされる要素を引っ張って世界に落とし込んでいきます。


序-2

 

彼等(と呼ぶのが正しいのか分からないが今はそう呼ぶ)と出会ったのはほんの数ヶ月前。

偶然近くで飲み物を買おうと立ち寄った時、聴こえてきた声が切っ掛けだった。

 

『ううむ、しかし誰も反応せぬな』

『そういうものでしょう。 既に三百年近く待ったのです、後少しの辛抱ですよ』

 

見知らぬ声。

唯の言葉なのに、周囲にいないのに妙に耳に届く言葉。

それに、()()()という単語。

 

冗談交じりで言ったのでなければ、どんな相手なんだろう。

 

少し……いや、かなりワクワクしながら声を頼りに探した所。

見つけたのがこの二体の人形で最初は思いっきりガックリ来た。

けれど、直ぐにその気分を持ち直していた。

 

喋る人形。

今まで見たことも聞いたこともない存在。

これを見せれば学校で自慢できるかも、なんて考えで掴もうとして。

思いっ切り怒鳴られたのと叱られたのはちょっとした過去の傷だ。

 

「で、散々言われてるけどさー。 その巫覡ってなんだよー」

 

少し前を思い出しつつも。

散々に呼ばれている、その名称が良く分からないから聞き直す。

多分聞いた気はするが、全部抜け落ちてる。

 

『散々教えただろ!?』

「忘れた」

『お主はー!』

 

いや、そんなにキンキン耳鳴りがする声で騒がないで欲しい。

実際教えた、と言われても余計な事をくっつけた形での説明だった気がするし。

それを全部一気に言われて俺が覚えられるわけ無いだろ。

せめて文字でくれ文字で、それなら覚えられるから。

 

「ヒメさーん。 ワカさんがこんな事言ってくるんだけど」

『そうもなりますよ。 ……まぁ、興味を持ってくれたのは良いこととしましょうか』

 

明らかに溜息を隠す気もなく言い放ってくる。

いや、人形の溜息っていうのも良く分からないんだが。

 

『巫覡とは、私達の声を聞き伝えるもの。

 願いを懇願し、その身を捧げる存在ではなく。

 ()()()()()()()()()()()()、私達の代理人です』

「……要するに?」

『私達の声は貴方にしか聴こえません。 分かりましたね?』

 

最初からそう言って欲しかった、と言ったら今度こそヒメさんまで怒りそうなので黙る。

 

……しかし、俺にしか聴こえない声なんだなこれ。

あの時調子に乗って周囲に触れ回らなくて良かった。

何となく、隠したほうが面白そうって考えたのは間違ってなかったらしい。

 

「うん。 で、なんで俺にだけ?」

『分かりません』

「おい」

 

で、本題というかなんというか。

当然に聞きたいことについて追加質問すれば、たった六文字の返答。

理由が抜け落ちてるんじゃ意味ないだろ!?

 

一歩詰め寄ろうとしたところで。

ごほん、と調子を取り戻したワカさんの説明。

……この人、調子に乗ると長いんだけどなぁ。

 

『天理よ。 そもそも巫覡……(かんなぎ)の才というのは通常女子(おなご)にしか宿らん。

 巫女、というのを聞いたことはないのか?』

「あー…………。 確か死んだ婆ちゃんがそんなんだった、とか?」

 

うろ覚え。

実際に顔を合わせたこともない相手の過去の話を細かく覚えてはいない。

ただ、叔母さんが一度か二度零したことがあった気がする。

 

『神樹の声を聞き届け、それを伝える役割。

 それが今の巫女の役割の一つだ。

 元々、アレは地の神の集合体故にな』

「え、じゃあ俺みたいなのは?」

『理由は分からんが、遥か昔にも実在していたぞ?

 時代が下るにつれ役割が偏っていったのは事実だが*1な』

 

…………ふぅむ、つまり。

 

「それ、俺にも神樹サマの声が聞こえるってことか?」

『『それは絶対に無理だ/です』』

 

全く同じ言葉でぶった斬るのはやめてくれ。

何となく思ったことなんだけど、ちょっと傷つく。

 

『詳しく言っても今は分からんだろうから簡潔に言う。

 ()()()は集合化する際に自身を機構化して純化した』

『受け付ける相手を『無垢な少女』として決定することで統一化を図ったのです』

 

……ううん、良く分からん。

まあ何にしろ俺には絶対に無理だってことは伝わってきた。

 

「そっか……まあ期待はしてなかったけど」

『どうだか』

『少しでも良いですから、知識を蓄えて下さいね? せめて代理として恥ずかしくない程度には』

 

…………。

 

「その言い方だと、今は恥ずかしいって?」

『はい』

 

正直に言われた。 傷つく。

 

『姫よ。 正直に言えば良いものでもないぞ』

『若様。 正直に言わねば天理には通じませんよ』

『…………それもそうだな』

 

……味方がいない!

 

『というわけです。 最低限の知識を覚えるまで帰しませんよ』

「強引なの反対! というか叔母さんに怒られる!?」

『でしたらきちんと覚えなさい』

 

――――いつか、必ず役に立ちます。

 

そんな言葉を。

俺は、半分程度しか本気で受け止めていなかった。

 

そして、気付いていなかった。

神樹サマの事を知る二人もまた、同類であるという事実に。

*1
巫「女」ではなく巫「子」などと呼ばれ称されていた。

 人々に神からの託宣を告げるもの、としての指導者から

 神事の代行者としての移り変わりにつれ姿を消したと思われる。

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