葦原天理は巫覡である   作:氷桜

30 / 249
※AA描写があります。


急-9

 

――――浅い眠りの中で、夢を見た。

 

誰の視点なのか。

身体が動かず、彼方此方に傷を負い。

倒れ伏す”自分”をそっと横たえる誰かの姿。

 

此処からは――――

 

何かを言っているのは分かる。

掠れる視界の奥で、見慣れた誰かの声がする。

 

二人は此処で休んでいて

 

幾度も思い返す。

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

見覚えなど無いはずなのに。

良く見知っている気がする誰かが、背を向けて。

それに、手を伸ばそうとして――――。

 

「待っ」

 

……天井に、手を伸ばし。

未だに眠り慣れないベッドの上で、横になっている事に気付いた。

 

「……………………んん」

 

()、と言うべきか。

同室の、隣のベッドで静かに眠る銀の姿を見て。

何故だか酷く安心した。

 

(夢……か)

 

妙に生々しい夢。

見た覚えも、これ以後も見るつもりもない奇妙な程に悲しい夢。

 

『天理よ、目覚めは悪いようだな?』

(生憎と……な)

 

妙にモヤモヤした感情を残したまま、ゆっくりと起き上がれば。

部屋の片隅……テレビの前に置いた人形の片割れから声。

基本的に俺が寝ている間は暇になるからか。

目が覚めると同時に話しかけてくる傾向が強かった。

 

『それで、今日は?』

(葬式……の予定にしろ、()()()()()()()()()になるだろ)

 

先生、という名前。

その人物と知り合ったのは本当にすぐ前。

頼れる親類が誰もおらず。

様々な手続きに苦戦することも覚悟していた、あの日の翌日。

 

『てんくん。 安芸先生に話してみたんだけどね~』

『少しだけなら手伝ってくれるそうです。 勿論、私達も』

 

安芸先生――――という名前には聞き覚えがあった。

確か大赦に属する人物で、三人の勇者としての活動を手助けする補助役。

そして担任教師でもあった筈。

 

神樹館とは一切関係ない俺相手なのに、何故なのか。

潜在的な敵として認識し始めていた場所に属す相手も同様に見そうになったが。

 

『ミノさんのこともあるから~』

『後は……()()()()()()()()けど、上からも言われたみたいです』

 

にっこり、と笑みを浮かべた二人からその理由を聞いて。

口元をやや引く付かせながら礼を言うことになった。

絶対なにかしただろ。

 

だから、手伝わせてね~(にげないでね)?』

三人一緒ですから、ね(すてないで)

 

副音声、裏の声まで聞こえてきそうになりつつ。

その日一日、三人と、文章越しではあったが銀の親と。

そして色んな大人の人と話をした結果。

 

全員の精神面の安定を優先し、一先ずは銀の携帯端末は返却することになった。

 

そして、同時に。

今回の事態で一番被害を受けた名家の、唯一の生き残りということに()()()俺。

その要望と、互いの意見の一致も相まって。

暫くの間――具体的な期間は互いに口にしなかった――は俺が彼女の面倒を見る形で落ち着いた。

 

無論、色々な反対意見なんかもあったらしいが。

ある意味で押し付けておくには丁度いい*1、という意志も働いたとのこと。

そういうところあるから信用置けないんだよ大赦。

 

そして当然、二人もそれに便乗した。

 

唯でさえ勇者が一人欠けた事で、戦闘的なバランスや恐怖を理解してしまった彼女達。

同じようなことが起きないように、と対応策を取り始めているとのことだが。

それでも精神的に不安定へと転がったのは間違いない。

その根底を支える為、と理由付けさせ。

良く分からない、近付きたくもない海を上手く泳ぐことで公的に俺の立ち位置を確立してきた。

 

今の俺は、没落気味の名家の端っこに属する存在ではなく。

勇者達の友人として事情を知り得ている名家の当主、へと格上げさせられてしまった訳だ。

 

余計なお世話、と言うべきなのか。

これで多少は動けるようになる、と言うべきなのか。

思い返すと溜息が止まらない。

 

(実際、バーテックスは黄道十二星座に乗っ取るなら後9……か)

『内一体は射撃能力を持つ、と判明しているな』

(……全てを撃退すれば、それで一旦は収まるのかね?)

 

ふと、浮かんだ質問を投げてみれば。

そうだなぁ、と少し前を思い出すように口にする。

 

()()()()()()()()、少しは時間を稼げると思うぞ』

(……そういう、意味深なこと言うのやめてくれないか?)

『悪い悪い。 だがな、これだけは言っておける』

 

天理よ、と。

普段と同じ前置きから一言。

 

『お主が少女達から得た立ち位置は確実に役立つ。

 医療系の伝手、実質この地を治め続ける組織の情報を得る手立て。

 そして、多少なりとも手伝ってくれるだろう相手』

 

どれもが確実に必要になる。

まるで未来予知でもするように、簡単に口にする言葉。

 

『差し当たっては――――無垢なる巫女と知り合っておいて欲しいものだが』

(は? 少女趣味か? ヒメに言うぞ?)

『違うわ。 吾が知る限りで、天理を含めて巫の才を持つのは()()

 

必要なのは、後二人か三人。

どんな手段でも取って貰うから覚悟しておけ、と呪いじみた言葉を残されて。

 

(おい)

「…………ん、あれ…………」

 

細目で人形を睨む姿を。

ゆっくりと目を覚ました銀は、朝から見ることになったらしい。

*1
年齢的にも丁度いいし、下手に家が潰れられると政治バランスが崩れる為




※変更点:
・主人公の立ち位置の変動。
・力を持つ二家の一人娘の権力は思ったより大きい。
・(人を使うかどうかは別として)大赦にアクセスする手段の確保。
・バーテックス3体撃破時点での『満開』『精霊』の開発開始。
・副作用は同種である『神』なら見抜ける。 見抜いてくる。


・代わりに何人かから生贄の羊のように見られる運命を背負った。

「わすゆ」中編パートに於ける最終話ヒロインあんけ~と

  • そのっち
  • 銀ちゃん
  • わっしー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。