葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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想定イメージ曲:金魚花火/大塚愛


急-14/須美

 

「どうぞ」

「頂きます」

 

()()()()()()()鹿()()()

普段から彼女が生活しているだろう空間は、周囲一体が和風で統一されている。

少し離れれば洋式が見えてくる部分もあるのだが。

基本は少女の趣味に合わせている、ということか。

 

普段からして知る筈もないお茶会に於ける手順や様式。

たった二人しかいないのだから、ある程度自由ではあるのだが。

何故か客が主人を饗すような形になっている違和感も無視したままで。

 

「…………うん、美味しいです」

「それなら良かった」

 

以前にも何度かやった交換対応。

俺がお茶を入れ、須美ちゃんが牡丹餅を作る。

今日は態々お重に入れて、しかも手を汚さないで良いように爪楊枝付き。

其処まで手を入れて貰って、しかも美味しいのだから頭が上がらない。

 

「此方も……毎度同じ言葉で申し訳ないけど、舌に合うよ」

「……そう言って貰えて、嬉しいです」

 

恥ずかしい話だが、少しずつ舌を調教されている気がする。

須美ちゃんや銀、そのちゃん。

まだ回数は少ないけれど、手料理を食べさせられているとそっちに好みが寄る感覚。

何よりの問題は、それ自体を嫌う自分がいないこと。

 

微かに頬を染めながら、それでも嬉しそうにする彼女へは強く言うことも出来ず。

外の微かな風の音、跳ねる水の音。

ただ、静かに時間だけが過ぎる贅沢と言うやつを実感する。

 

「……ねえ、須美ちゃん」

「はい?」

 

そんな声を掛けたのは、どれくらい経ってからだろうか。

恐らくは一時間は経っていないとは思うが、十数分はゆうに経過した後だったと思う。

 

「……言いたいことがあるんだ。 聞いてくれるかな」

 

ある意味贖罪のように。

ある意味告解のように。

 

「改めて……ですか?」

「うん。 改めて」

 

こうして招かれて。

様々な饗しを受けながら、思うこと。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

実際にそんな事を口にすれば。

『それは違う』と声を揃えて言うかもしれない。

けれど、俺の実認識としてはそれ。

最も大事な場面で、力になることが出来ない。

 

常に俺の根底に沈んだ、そんな感情を引き摺ったまま。

俺は、独占欲を抱き続けて今口にしようとしている。

関係性を壊す――――そんな恐怖感さえ抱きながら。

 

「……だったら、私の話も聞いてくれますか?」

「勿論」

 

多分、互いに何かを口にしようとしている。

 

抑えていたものを一度、口にしてしまえば。

元に戻ることは出来ない、と知っていながら。

その泥濘の中に二人で沈んでいく幻覚を視る。

 

ありがとう、と口にしたのは何方が先だったか。

互いに、口にするのは恐らく()()こと。

 

「俺は――――須美ちゃんのことが、好きだ」

「私は――――貴方のことを、想っています」

 

数瞬……風が凪いだ気がした。

何の音もせずに、その場に二人だけ。

交互に問うのは、お互いのこと。

 

「いつから?」

「……もう覚えてません。 天理くんは?」

「多分……気付いたら、かな」

 

その感情に気付いた日。

 

「……私だけ、ですか?」

「…………いいや。 それは、ごめん」

「いえ。 ……()()()()()()()、良かったです」

 

二人で沈んでいくのか、という問い掛け。

 

「これから、どうなるのでしょうか」

「……全部終わったら、どうなるのかな」

「不安ですか?」

「半々、かな」

「私も」

 

将来の話。

 

「……でも」

「うん?」

「貴方と見る未来は、少し楽しみです」

「……多分、それは二人も同じだよ」

 

一つの話が終わる度に、向かい合っていた距離は縮まっていった。

物を、お茶を、軽食を。

挟みながらの会話だったのに。

 

気付けば隣り合いながら。

障子越しに、淡い太陽熱を視界で捉える。

 

「……天理くん」

「……うん」

 

一つ、交換しませんか。

そう言いながら、耳元に囁く声に背筋が震える。

同い年の筈なのに。

その声色は、妙に甘く聞こえたから。

 

「……何を?」

「……秘密を」

 

約束代わりに。

()()()()()()()()()()

呟く内容に――――微かに、頷くことで返答とした。

 

「……なら。 私は、昔の……鷲尾のお父さんお母さんしか知らない名前を」

「……なら。 俺は、他の誰も知らない……()()()()()()()を」

 

それを知ったのは、崩れた本家を片付けていた時のこと。

やけに厳重に護られていた金庫の中の、更に金庫の中。

入っていたのは、俺を含めた葦原の分家の本当の名前

 

いや、そういうのも正しくはない。

本来は分家こそが本家で、本家こそが分家……いつしか逆転した証。

 

何故そうまでして隠したのか。

その秘密までは書かれていなかったけれど、恐らくあの二柱は知っている。

だからこそ……そして、俺に巫覡の才があった故の『今』で。

もしなければ、風化して消えていたかもしれない秘密。

 

「天理くんも?」

「須美ちゃんも、か」

 

似てるね、と笑って。

そうかも、と小さく微笑んだ。

 

そうして、互いにだけ聞こえるように口にした。

 

東郷美森

花本天理

 

これで同じですね、と微笑み。

同じだね、と小さく笑った。

 

肩にとてん、と倒れた頭。

 

何をするでもなく。

それが当たり前のように――――ほんの少しだけ、そうしていた。




変更点:
・互いの名前の交換。
・誓約。
()()()()()()()()()()()()()


・これ嫁/婿入りじゃない?

二人きりのデート回、全員分描写いる?

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