葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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急-17

 

身体の内側が燃えている。

体内の一部に激痛が走る。

存在しない筈の何処かが、消え去るような幻覚を覚え。

噛み締めたタオルに歯が突き立ち、赤く滲む。

 

「――――ッ」

 

痛みを以て、意識を保ち。

眠りそうになる自分を叱咤しながら、再度の痛みで意識を失いそうになる。

 

言葉にならない言葉のままに、顔を持ち上げ。

樹海の中、僅か周囲数メートル程の結界を頼りに。

微かに、空の上――――光がちらつく世界を前に。

 

「天理、体調は?」

 

見ていることしか出来ない少女を前に、意地を張る。

 

首を小さく振り。

()()()()()()()()、星屑達の散る姿を視界に捉える。

 

(思ったより、代償が重いな……!)

 

あの日。

見詰められた瞳に対し即座に頷くことで返答とした後。

次の襲撃こそが最後の戦いになる、との啓示を須美ちゃんが受けた後。

俺の日常は、『神に仕えるモノ』として一時清めることを中心とした。

 

『普段であれば必要はないが、斎戒*1を経験してみるのは間違いではない』

『本来、必要となるのは成人以降ですからね』

 

未だに少年と断じられる年であるが故に、神に捧げるには問題ない状態で。

けれどそれは魂の問題であり、肉体を清めて損はしないとのこと。

 

『須美ちゃんにそのちゃん、悪いけど協力してくれる?』

『はい、勿論です』

『私達もやるよ~』

 

共に支える、補助役の巫女として同じように清める銀を別として。

二人は身体の扱い方、連携。

そういった肉体的なモノは勿論、肉酒断ちや五辛断ちと言った食事面での協力を要請し。

俺達は沐浴や行水などで肉体を清めることに費やす。

 

淫欲……良く分からんが、三人に接することも可能な限り慎み。

次の戦いが近い、と確実視した頃。

 

『恐らく、天理の今の肉体が保てる『満開』の回数は十を下回る程度だろう』

 

一度俺を介する、といったところまでを実行し。

地味な胃痛に苦しむ俺を他所に、ワカはそんな事を漏らしていた。

 

「それ…………多いのか…………?」

『十二分過ぎる程に』

 

流石に空腹が続いている、とまでは言わないが。

どうしても献立が固定化されることと、清める流れで時間が取られる。

こんな事毎日やってるんだったら、大赦の巫女も少し見直す。

 

……そういえば、一度だけ会った彼女は大丈夫だろうか。

 

『ですが、飽く迄これは()()です。

 常に身体を焼かれながら、失う筈の存在部位を痛みという形で代用する。

 私達がこれを通せるのも、天理が意識を保てている間のみ』

 

故に、と。

 

『長い時間は持ちません。 二人に伝えなさい。 短時間で、と』

 

そんな事を命じたヒメを思い返し。

右目が抉られ、潰されたように。

激しい穿痛と突然の盲目を受けながら。

遥か遠くで、何かが爆発する音と衝撃が此方へ飛んでくる。

 

(これで……何回目だ。 5か、6か)

 

真っ先に感じたのは、()()()()()()()()肉体の違和感。

ワカ曰く『吾による影響』とのことだが、これ自体は耐えられなくはない。

嘗て、西暦時代に行われた神事よりも優しいとも言っていたし。

 

次に、胸の中心……やや左側と両足の違和感――――喪失したような錯覚。

其処にある筈なのに、何もないような幻肢痛にも似た感覚と。

その部位が膿み続け、腐り果てるような永続した痛み。

 

予め痛みの対策にタオルを用意していたのが功を奏した。

そうでもなければ、今頃舌を噛んでいたかもしれない。

叫びたくなるような、けれど……痛みが続く限り、彼女達は抗い続けている。

 

その後も、断続的に失われるモノと痛みは全身に走っていた。

左耳、腹部……恐らく何処かの臓器に激しい頭痛。

そして今の右目。

 

自分の体が自分のモノでなくなる恐怖を味わいながら。

それでも、虚勢を張り続けて。

既に立てず、床に転がるように這い蹲りながら。

残った瞳だけは、天を睨み続ける。

 

(……何がしたくて、どんな理由で人を滅ぼそうとしてるのかは知らねえ)

 

其処には何も見えない。

けれど、何かがいると確信しながらに睨み続ける。

 

(けど。 俺の周りから、もう何も奪うんじゃねえ)

 

それは一方的な恨みで。

一方的な願いで。

何も出来ない俺の、精一杯の虚勢。

 

再度、光が空に走った。

横薙ぎのような煌めき。

遅れるように、爆発に似た音と衝撃が舞う。

 

「……今、向こうはどうなってるんだろうな」

 

アタシも、なんて言葉を聞き流す。

今この場で一番苦しいのは、俺ではなく銀だろうから。

友人に戦わせ、自分は何も出来ずに見ているだけ。

つい先程までの俺と同じ。

 

だから、何かを言えばそれこそが傷付けると分かっているから。

喉奥から上がってきた血反吐を無理に飲み込み。

口内とタオル、喉を鉄の味で染める。

 

(……やっべ、そろそろ意識が曖昧だ)

 

十秒、一分、二分、三分。

時間を数えるのは無駄だと分かっていながら。

意識を何かに向けなければ、何処かへ喪失してしまいそうな寒さに怯え。

 

「…………ぐ、ぁ゛」

 

()()()、と。

心臓が停止したような錯覚に息さえ出来なくなり、その場で跳ね回る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

人ではなく、人から変わってしまった何かとして生かされ続ける。

 

そうなってしまった実例を、聞かされていたから。

 

『生き神様』として祀られた先の未来を、聞かされていたから。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を聞いていたから。

 

(――――()()()()()

 

知らない記憶。

忘れていたような記憶。

悲しそうな顔をした、年上の誰かに聞かされたような――――。

 

どぉん、と再度。

天に大きな花火が舞う中で。

無意識に、手を空に向け。

 

大きな衝撃と共に、腕が地面に倒れ込むのが分かった。

 

何処か他人事のように感じる。

頭が、身体が動かない。

 

『…………無理をして。 でも――――頑張ったわね』

 

それでも、意識を失うその直前。

優しそうに微笑む誰かの顔を。

幻覚として、見た気がした。

*1
神職に就く人物が神事を前に身を清める事。潔斎とも。




※変更点:
・連続満開合計8回。
・連続『切り札』合計4回。
・散華の負担を天理が。 切り札の負担を少女達が。
・それを、銀の名を持つ少女は歯を食いしばって見続けていた。


・聞こえなかった誰かの声が、はっきり聞こえる。
・見えなかった誰かの姿が、はっきり見える。
・死に直面したことで、条件は満たされた。

二人きりのデート回、全員分描写いる?

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