葦原天理は巫覡である 作:氷桜
身体の内側が燃えている。
体内の一部に激痛が走る。
存在しない筈の何処かが、消え去るような幻覚を覚え。
噛み締めたタオルに歯が突き立ち、赤く滲む。
「――――ッ」
痛みを以て、意識を保ち。
眠りそうになる自分を叱咤しながら、再度の痛みで意識を失いそうになる。
言葉にならない言葉のままに、顔を持ち上げ。
樹海の中、僅か周囲数メートル程の結界を頼りに。
微かに、空の上――――光がちらつく世界を前に。
「天理、体調は?」
見ていることしか出来ない少女を前に、意地を張る。
首を小さく振り。
(思ったより、代償が重いな……!)
あの日。
見詰められた瞳に対し即座に頷くことで返答とした後。
次の襲撃こそが最後の戦いになる、との啓示を須美ちゃんが受けた後。
俺の日常は、『神に仕えるモノ』として一時清めることを中心とした。
『普段であれば必要はないが、斎戒*1を経験してみるのは間違いではない』
『本来、必要となるのは成人以降ですからね』
未だに少年と断じられる年であるが故に、神に捧げるには問題ない状態で。
けれどそれは魂の問題であり、肉体を清めて損はしないとのこと。
『須美ちゃんにそのちゃん、悪いけど協力してくれる?』
『はい、勿論です』
『私達もやるよ~』
共に支える、補助役の巫女として同じように清める銀を別として。
二人は身体の扱い方、連携。
そういった肉体的なモノは勿論、肉酒断ちや五辛断ちと言った食事面での協力を要請し。
俺達は沐浴や行水などで肉体を清めることに費やす。
淫欲……良く分からんが、三人に接することも可能な限り慎み。
次の戦いが近い、と確実視した頃。
『恐らく、天理の今の肉体が保てる『満開』の回数は十を下回る程度だろう』
一度俺を介する、といったところまでを実行し。
地味な胃痛に苦しむ俺を他所に、ワカはそんな事を漏らしていた。
「それ…………多いのか…………?」
『十二分過ぎる程に』
流石に空腹が続いている、とまでは言わないが。
どうしても献立が固定化されることと、清める流れで時間が取られる。
こんな事毎日やってるんだったら、大赦の巫女も少し見直す。
……そういえば、一度だけ会った彼女は大丈夫だろうか。
『ですが、飽く迄これは
常に身体を焼かれながら、失う筈の存在部位を痛みという形で代用する。
私達がこれを通せるのも、天理が意識を保てている間のみ』
故に、と。
『長い時間は持ちません。 二人に伝えなさい。 短時間で、と』
そんな事を命じたヒメを思い返し。
右目が抉られ、潰されたように。
激しい穿痛と突然の盲目を受けながら。
遥か遠くで、何かが爆発する音と衝撃が此方へ飛んでくる。
(これで……何回目だ。 5か、6か)
真っ先に感じたのは、
ワカ曰く『吾による影響』とのことだが、これ自体は耐えられなくはない。
嘗て、西暦時代に行われた神事よりも優しいとも言っていたし。
次に、胸の中心……やや左側と両足の違和感――――喪失したような錯覚。
其処にある筈なのに、何もないような幻肢痛にも似た感覚と。
その部位が膿み続け、腐り果てるような永続した痛み。
予め痛みの対策にタオルを用意していたのが功を奏した。
そうでもなければ、今頃舌を噛んでいたかもしれない。
叫びたくなるような、けれど……痛みが続く限り、彼女達は抗い続けている。
その後も、断続的に失われるモノと痛みは全身に走っていた。
左耳、腹部……恐らく何処かの臓器に激しい頭痛。
そして今の右目。
自分の体が自分のモノでなくなる恐怖を味わいながら。
それでも、虚勢を張り続けて。
既に立てず、床に転がるように這い蹲りながら。
残った瞳だけは、天を睨み続ける。
(……何がしたくて、どんな理由で人を滅ぼそうとしてるのかは知らねえ)
其処には何も見えない。
けれど、何かがいると確信しながらに睨み続ける。
(けど。 俺の周りから、もう何も奪うんじゃねえ)
それは一方的な恨みで。
一方的な願いで。
何も出来ない俺の、精一杯の虚勢。
再度、光が空に走った。
横薙ぎのような煌めき。
遅れるように、爆発に似た音と衝撃が舞う。
「……今、向こうはどうなってるんだろうな」
アタシも、なんて言葉を聞き流す。
今この場で一番苦しいのは、俺ではなく銀だろうから。
友人に戦わせ、自分は何も出来ずに見ているだけ。
つい先程までの俺と同じ。
だから、何かを言えばそれこそが傷付けると分かっているから。
喉奥から上がってきた血反吐を無理に飲み込み。
口内とタオル、喉を鉄の味で染める。
(……やっべ、そろそろ意識が曖昧だ)
十秒、一分、二分、三分。
時間を数えるのは無駄だと分かっていながら。
意識を何かに向けなければ、何処かへ喪失してしまいそうな寒さに怯え。
「…………ぐ、ぁ゛」
心臓が停止したような錯覚に息さえ出来なくなり、その場で跳ね回る。
人ではなく、人から変わってしまった何かとして生かされ続ける。
そうなってしまった実例を、聞かされていたから。
『生き神様』として祀られた先の未来を、聞かされていたから。
(――――
知らない記憶。
忘れていたような記憶。
悲しそうな顔をした、年上の誰かに聞かされたような――――。
どぉん、と再度。
天に大きな花火が舞う中で。
無意識に、手を空に向け。
大きな衝撃と共に、腕が地面に倒れ込むのが分かった。
何処か他人事のように感じる。
頭が、身体が動かない。
『…………無理をして。 でも――――頑張ったわね』
それでも、意識を失うその直前。
優しそうに微笑む誰かの顔を。
幻覚として、見た気がした。
※変更点:
・連続満開合計8回。
・連続『切り札』合計4回。
・散華の負担を天理が。 切り札の負担を少女達が。
・それを、銀の名を持つ少女は歯を食いしばって見続けていた。
・聞こえなかった誰かの声が、はっきり聞こえる。
・見えなかった誰かの姿が、はっきり見える。
・死に直面したことで、条件は満たされた。
二人きりのデート回、全員分描写いる?
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