葦原天理は巫覡である   作:氷桜

39 / 249
「わすゆ」編終了。(最初の章終了)


急-18

 

むかしむかしの、おはなしです。

 

今の時代になる、ずっと前。

未だ、世界が西暦と呼ばれていた頃のおはなしです。

 

そんな、思い出すような言葉と共に。

誰か懐かしい人を見るかのように、俺の目を見ていた”おねえちゃん”のことを思い出した。

 

 

――――ずっとずっと、昔のことだ。

 

子供の頃。

今よりずっと幼い、未だ両親が生きていた頃。

俺は、他の人には見えない誰かの姿を見続けていた。

 

気付いた時には、その人は既に近くにいて。

少しだけ透明で、少しだけ地面から離れていて。

そして何より、その黒い髪の毛が綺麗な人だと思っていた。

 

『ねえ、おかーさん。 あのひと、だあれ?』

『天理。 其処には誰もいませんよ?』

 

一度だけ、指を向けて聞いたことがある。

けれど微笑むだけでその存在を否定して。

それ以降は聞くこともなく、家にいる時で一人の時は……その”おねえちゃん”に話しかけていた。

 

――――ねえ、なんで浮いてるの?

 

答えるのに戸惑うような、苦笑を浮かべていた。

 

――――ねえ、なんで此処にいるの?

 

『ご先祖様と知り合いだったからよ』と、目を見て言っていた。

 

――――ねえ、おなまえは?

 

『私のことを忘れなかったら、おしえてあげる』と。

誤魔化すように呟かれて。

 

けれど、いつでも”おねえちゃん”は傍にいて。

昔のご近所さんの相手をするときでも、()()()()()見守っていて。

そして、いつしかその姿を消した人。

そして、俺もその存在を忘れ去っていた人。

 

 

そんな人が、今俺の目の前に浮いている。

相も変わらず、微笑を浮かべたまま。

思い出したあの当時と変わらない姿の、今では目線の高さもそう変わらない”おねえちゃん”。

 

「久しぶり」

 

第一声はそんな言葉で。

色々と――――それこそ、色々と問いたいことはあったけれど。

 

「……此処は?」

 

まず、そんな事を口にした。

 

先程までいた樹海とは明らかに場所が違う。

地面があり、木々があり、風がある。

周囲の雰囲気は似ているのに、決定的に何かが違う場所。

 

一番の違いといえば……視界の奥に見える、一面黄色の花畑。

俺は一度も見たことはないのに、行ったことさえもないのに。

花畑だと、断じられる香りが届く。

 

()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()

「?」

「分からないなら、まだ知らないほうが良いかもね」

 

相変わらず、何処か煙に巻くような口調。

見た目は殆ど変わらないはずなのに、何処か落ち着いているような。

年上を相手にしているような、そんな感覚。

 

「今まで、何を?」

「ずっと近くにいたわよ? 天理君が気付かなかっただけで」

 

まぁ酷い、とでも言いたげに。

けれどおかしそうに、少しだけ口元が笑っている。

 

「……そうだ。 他の三人は?」

()()? 無事にバーテックスを撃退したけど……色々と骨折とかで緊急入院みたいね。

 色々と特殊なことをしたのに、全くの正常だからこそ()()も疑ってるわ」

 

少しだけ、発音がおかしかった気がする。

けれど、何より。

 

「後輩……え、先輩って言いたいの?」

「見えない?」

「見えないっていうか……」

 

何を見てそう言ったのか。

そんな人物がいるのなら顔合わせさえさせない理由とは。

何より、浮いていて他に見えない存在には既に心当たりもあったから。

 

「おねえちゃん、ひょっとして……()()?」

()()は? このまま行けばそうなったんでしょうけど」

「普通に認めるんだね……」

 

一歩後退り。

草木を踏む感触。

その時になって初めて、先程までの痛みが何もない事に気付いた。

 

「冗談よ。 半分は」

「半分は本当なのその言い方!?」

 

再びに、小さく笑う声が聞こえる。

昔好きだった声。

僅かにしか聞いた覚えがないのに、妙に心を惹かれた声。

 

「……まあ、此処で話すのはあんまり良くないから。

 今は一度戻りなさい。 貴方を待ってる子達もいるわ」

 

ひとしきり笑い終え。

指を、俺の背後へと向ける。

それに従い後ろを向けば――――良く分からない、暗闇だけが其処にある。

 

「結局、此処は何だったんだ……」

「詳しく聞きたいならワカかヒメに聞けば教えてくれるわよ。

 そうね……私の名前でも言えば良いんじゃない?」

「その名前を知らないんだけど。 っていうか、教えてくれなかったでしょ」

「今まで忘れてたじゃない、私のこと」

 

……約束事のことか。

図星を突かれて口を閉じ。

 

「……でも、思い出せたならいいか。 今私の名前を出したところで、誰も知らないでしょうし」

 

そういう約束だったから。

そういう約束を、彼女は護ってくれたから。

 

「いつか生きた証を残すように、なんて。 まだ死んでなかったのにね、私。

 それは、貴女達が一番知っていたでしょうに」

 

誰かに語りかけるように。

俺の瞳を見て、呟きながら。

 

郡千景。 西暦時代の勇者で、貴方達から神具を借り受けている勇者

 

そう言えば分かるから。

ぽかん、と間抜けな表情を浮かべた俺へと付け加える。

 

「貴方の最初の祖先に見出されて、そして今は……貴方に見出された勇者よ。

 ――――()()()()()

 

……金庫に仕舞われていた、苗字。

”おねえちゃん”と繋がりがあった、名前?

 

西暦……三百年は昔の話。

神具……ワカとヒメの貸し与えられないそれ。

眠っている……()()()()()

 

混乱が混乱を生む。

何処まで隠されていて、何処まで繋がっているのか。

そうして、最後に。

 

「伝えて。 眠っている場所で待ってるから、って」

 

そんな言葉と同時に押し出され。

たたらを踏んで、後ろの暗闇へと落ちていく。

 

「……何処まで見越していたのかしらね。 私の武器に、彼女達の武器。

 それに――――高嶋さんも」

 

闇の中で。

深い親愛が混じった、後悔のような。

そんな何かが、最後に聞こえた気がした。




変更点:
・大体全部。
・因みに「ワカ」は奈良の某神社にも祀られている存在です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。