葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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序-3

 

翌日。

休日で休みだからこそ、家に閉じこもらずに朝から外へ出。

目的地へ向かいながら、今の家について少しだけ考え込む。

 

俺の居場所が欠片程度にしか存在しない、今の住処。

……多分、こうして外に出るようになった理由の一つはこれだと思っている。

 

基本的に文句混じりで、けれど叱ってくれる叔母さんと。

何も言わずに、『モノ』とでも見ていそうな叔父さん。

その何方も、仕事として大赦に大きく関わっている。

 

(……いや、叔母さんは関わっていた、か)

 

自身の母親……俺にとっての祖母が引退するのに合わせて自分も引いたらしい。

過去を余り話したがらないあの人には珍しく、自分の母親に関してだけは饒舌な印象がある。

 

婿入りした形で結婚した二人が出会ったのも、大赦の本部の中だったとか。

嘘か本当かは知らないが、そういったところでも俺以外は深く付き合いを持つ家系らしい。

なんでも、神事を司る部分に深い関わり合いがあるとか。

 

(しっかし、一体何をさせたいんだろうなぁ……)

 

考えるだけで溜息が漏れてしまう環境から意識を持ち上げ。

昨日した約束に関して考えを向ける。

 

週に一度、場合によっては二週に一度。

二人(二体?)に会う頻度はそんな程度。

日常生活を優先していた俺だったけれど、言い残した言葉が妙に不気味だったというのもあって。

”必ず”週に一度は出向くことを約束させられた。

 

(昔は……何だっけ、神社? とかがあったって言うけど)

 

ひょっとすると、あの二人もそんな場所に安置されていたのだろうか。

 

不思議なことに以前と以後で、二人が『そういう存在』だと刻み込まれた感覚がする。

今ではそんな存在は欠片も見当たらず、あるとしても神樹サマを奉る神棚があるくらい。

自分がどれだけ罰当たりな存在なのか、とも思うが――――。

 

(……こうして生きていられる以上、神樹サマに感謝してるのも事実だし)

 

様々な神が純化された集合体、とか言ってたっけ。

俺には決して声が届くことはない、とも。

 

だから一方通行にはなるけれど、心の内で小さく感謝の意を伝えつつ。

目的地……イネスへと足早に向かおうとする。

 

(早く行かないと()()()()()()()()

 

単純に急ぎ足になっている理由はまあ、幾つかあるのだけど。

その大きな理由の一つに、近所の……腐れ縁というかライバルというか。

そんな奴がいるのは決して否定しない。

そして、そいつの体質に何度も巻き込まれて時間を取られたことも忘れない。

 

(彼奴自身は悪いやつじゃないんだけどなぁ)

 

学校も別、人との関わり合い方も真逆。

積極的に人と関わろうとする側と、ある程度以上に付き合おうとしない側。

精々近いところと言えば互いに一番近いイネスで遊ぶのを好むのと同年齢ということ。

にも関わらず、妙に気が合うというかウマが合う(っていうんだっけ?)相手。

 

友人、と呼ぶには少しばかり複雑で。

幼馴染、と呼ぶには出会った時期が遅い気もして。

出逢えば当然のように遊ぶけれど、直接誘うには何方も切っ掛けを必要とする相手。

だから互いに呼ぶ呼び方は腐れ縁。

 

(どうせ行けばいるだろ。 大体そうだし)

 

俺が行く時ならほぼ必ずと言っていい程いて。

逆に彼奴が来る時には必ずと言っていい程俺がいる。

こういうの、考えが似てるっていうのかね。

 

そんなことを考えれば、無意識に足が早くなる中で。

にゃぁお、と猫の鳴き声が聞こえてきてしまって。

つい反射的にそっちを見てしまった。

 

俺の足元辺りに、小さい鈴付きの首輪をしたふわふわの毛玉生物。

何が楽しいのか、とてとてと近付いてきて靴に頭を擦り付けられ。

 

先ず小さく溜息一つ。

動物は割と好きな方で、その中でも犬や猫には妙に懐かれるから普段なら拾い上げるのだが。

今ばっかりはタイミングというか巻き込まれている気がして気が乗らない。

 

「待てー!」

「…………うわ、遅かった」

 

そして、やや明るい……灰色、と定義するのが正しいのか。

髪を短く纏めた、見慣れた格好の見慣れたやつが此方に向かいながら叫んでいるのが聞こえる。

そして、そんな声を聞いてしまえば二つ目の溜息。

 

仕方無しにそいつを拾い上げ、両手で抱えながら近付いてくるのを待つ。

 

「……ん?」

 

猫が足を止めたのが分かったのか。

或いは道路に立っている人物が自分の知る人物だと理解したのか。

少しだけ速度を落としながら、けれどその場で足を止めることはなく。

態々俺の目の前でぴたりと止まる。

 

「天理じゃん、捕まえてくれたの?」

「どうするか迷ってたらお前の声がしたんだよ……銀」

 

あはは、と他人事のように笑う額を狙ってデコピンの構えを取れば。

当然のように嫌がって少しだけ距離を取る。

 

「で、この猫は何処の家の?」

 

三度目の、そして最後の溜息を口にする。

これ以上はやめておこう、幸せが何処かに行く気がする。

 

「あ、付き合ってはくれるんだ」

「一度巻き込まれたら二度も三度も変わらないから……」

「あー、そういやいつもそんな感じだっけ?」

「だからなんで他人事みたいに言うんだよ」

 

向こうだよ、と来た道を戻り始める後を猫片手に付いていく。

 

三ノ輪銀。

家と家の距離が10分と離れていない、()ご近所さん。

そして、互いに相手を弟/妹みたいに思っているやつと……()()()顔を合わせた瞬間だった。

 

……と言っても、一昨日会ったばかりではあるのだけど。

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