葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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「ゆゆゆい」に当たる話に接続する章。
幾らかの情報の公開などを含みます。


ルリハコベ/幕間-1
幕間-1


 

目を覚ましたその時。

最初に目に入ったのは、妙に明るい電灯と。

妙に鼻に刺さる薬の香りだった。

 

「――――は」

 

息をする。

 

胸元が妙に痛む。

肋骨でも痛めたのだろうか。

原因には心当たりしか無いのだが。

 

横を向く。

花瓶に刺さった幾らかの花に、何故か俺の着替えが畳まれて置かれている。

奇妙な程に広い一室だな、というのが感想で。

 

反対側を向く。

窓の外には青い空しか見えず。

そちら側の頭辺りには、小さなスイッチ上のモノが置かれていた。

 

(……病院、か? 此処)

 

もう一度枕元を覗き込んだ。

小さく伸びる充電ケーブル、そしてそれが刺さった携帯端末。

電源が切られたままのそれは、主を無くしたように無造作に置かれていた。

 

「……ま、い……だ?」

 

きしきしと胸が痛む。

言葉が正しく言葉にならず、吐く吐息の強さだけで無理に押し出す。

 

それでも、あの樹海のときの痛みよりはマシだと思うのだが。

足や右目に、ほんの少し違和感を感じるのは……後遺症か何かだろうか。

 

無事な手、そして左目で見るようにして電源を入れ。

最初に表示された日時を見れば……大凡一(・)週(・)間(・)。

 

(……ええ)

 

いつの間にこんなに時間が経ってたんだ。

というか俺はどういう名目で入院してることになってるんだ。

 

ぴこん、ぴこん。

電源が入り、俺が起動したことに気付いたからか。

見覚えのある連絡先から、いつかのように山のように連絡が届く。

 

返答を見るのが怖く、先にナースコールのボタンを押し込み。

誰かしらが来るのを区切りにしようと、端末を見る。

 

銀:『天理、意識失ったままなんだ……』

鷲:『ごめん、そのっち。 お願いできる?』

園:『分かってるよ、わっしー』

 

そんな会話があったのが凡そ六日前。

最初の方から記録を追う限り、どうやらバーテックスの撃退自体は成功したらしい。

 

ただ、精霊の酷使と連続した能力の使用。

そして俺が意識を失ったことでの若干の痛みの流入などがあり。

樹海化が解除されると同時に俺を含めた三人が意識の消失。

 

また、樹海自体を破壊する程の大型のバーテックスによる火炎弾の影響で大橋は崩壊。

それ以外にも被害は及び、地(・)震(・)に(・)次(・)ぐ(・)天(・)災(・)ということで大赦は大忙しだったようだ。

 

(……それは良いんだが、”おねえちゃん”が言ってた事……)

 

満開、散華。

本来は不可逆的な代償を支払う、生贄としての能力。

それに親しい効果を発揮したにも関わらず、異常性がないのが異常。

やはりそう取られていたようで、念入りに検査を複数回されたと愚痴っぽく書き込みがされていた。

 

(それは良いけど、胸が成長してたとか書くなよ)

 

スタンプで怒りを表してる方がいらっしゃる。

もう一人は大きすぎても邪魔だ、とか言ってるがそれは火に油を注ぐ行為じゃないのか?

 

まあ何しろ、体調的には俺が一番酷かったということで確実らしいのだが。

問題は何もなかったことで発生した次(・)の(・)出(・)来(・)事(・)。

このまま勇者として活動させるのか、或いは別途勇者を見出して協力させるのか。

 

大赦が選んだ選択は後者で、今までの名家からの選出という基準を撤廃するらしい。

何でもそうするだけで、勇者適性値が異様に高い何名かが見つかるとかで。

それに大橋が陥落……破壊されたことで、人数の少なさという懸念も浮かんだらしいが。

 

(もっと早くやれよ)

 

多分三人も同じことを想ってる。

 

そして。

これに伴い、最も介入しやすい鷲尾家の娘……つまり須美ちゃんは元の家に戻されることが決定した。

 

乃木は兎も角、三ノ輪……銀も候補には上がったらしいのだが。

現状の傷、及びほんの少し前に対処した俺と言う存在が歯止めになったようだ。

 

(だから引っ越さなきゃいけなくて……でも、時(・)期(・)は(・)中(・)学(・)に(・)上(・)が(・)る(・)頃(・)か(・))

 

変な時期に転校させれば、それはそれで妙な評判になる。

多分鷲尾が抵抗した結果なんだろうなぁこれ。

仮にとは言え、娘が勇者としてお役目を完遂したわけだし。

 

そうなると、そのちゃんだけが大橋市に残されることになるが……。

彼女のことだ、何かしら言い包めて対応してくる未来が見える。

 

大赦は把握できていないとは言え、神の贄になったという表面上の事実は変わらない。

つまりそれは、彼女が失言や失敗をしない限り内部に発言力を保ち続けるということ。

 

次(・)の(・)勇(・)者(・)の(・)手(・)伝(・)い(・)に(・)名(・)乗(・)り(・)出(・)る(・)先(・)代(・)勇(・)者(・)、なんて評判。

活かそうと思えば幾らでも使えそうだしな。

 

(…………つまり。 一段落はした訳、か)

 

中学に上がる前、つまり卒業式前には住処を向こうに移した後になると思うし。

得てしまった幾らかの事情を公開するには丁度いいはずだ。

 

……心配させた分は何らかの形で返さないといけないし。

それに、ワカとヒメから言われた『巫女探し』も。

『眠った場所』に関しても聞かなければいけない。

 

(しかし、ワカが渡してる神具って一体何だろうな……)

 

半分幽霊、という言葉が真実なら何らかの効果はありそうなもんだが。

……いや、ゲームとか小説の読みすぎかこれ。

 

そんな事を思いながら、一番下まで確認し。

 

『今から行くから』

 

のたった七文字に込められた圧に慄きながら。

 

「葦原さーん、入りますよー?」

 

部屋の戸を叩く声に、端末の電源を一時的に落とした。




変更点:
・「鷲尾須美」の消失。 但しそのやり方が温厚に変更。
・小学卒業に合わせて、という形なので神樹館を卒業できる。
・満開/散華の影響が発生していない点は現行調査中。


・とある巫女は、直感的に気づいていることがある。
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