葦原天理は巫覡である 作:氷桜
検査に次ぐ検査。
確認に寄る確認に女性陣からの無言の圧力。
結局、異常な部分は(肋骨が圧迫されていたということを除き)無く。
放り出されるように、痛み止めを処方されて退院し。
その翌日。
「……ん~」
「…………どうですか?」
「いや、色々言いたいことだらけなんだけど」
退院した翌日が休日ということもあってか。
当然のように朝からやってきた二人はお見舞い、という名目だったのだが。
気付けば俺がそのちゃんに膝を貸し、俺が須美ちゃんの膝を借りている。
何だこの多重繋がり。
「でもなんか嬉しそうじゃないか、天理」
「ソワソワしてる銀には言われたくないんだけど」
「してない!」
いや、それも無理があると思う。
明らかに周囲ウロウロしてるじゃねえか。
…………二人が帰ったら貸してやるからそれで我慢してくれ。
『後遺症はないのか?』
当たり前のように話しかけてくるワカ。
一応心配してくれているようだが、これくらい出来るだろうと過信されている気もする。
逆にヒメはなんだか妙にオロオロして見えた。
「なんか痛みが残ってる感じはあるけど……こういう奴?」
特に目と耳。
やや掠れて見えたり、物事が遠く聞こえたりする状況。
ただ病院の検査としては正常値の範囲だからこそ、通常ではないと判断できたが。
『魂への損傷が治り切っていないのだろうな。
暫くそうしていれば良くもなる』
「いや、そうしてる……ってこれ?」
指で自分の下半身と頭を順番に指差す。
少しだけ首を持ち上げたのに、額に手を当てられ元の場所に戻された。
見下ろしてくる彼女が、「だめ」と囁くのが聞こえて。
視線だけを二柱に向ければ、頷いたような気がした。
『陰陽というものがありましてね。
特に不可視の存在……魂や気力、生命力という観点からすると大事だったりするのですよ。
天理ならば女子との接触……くらいが精一杯ですか? 今だと』
特に大事だと想っている相手からは、とか余計なことを言うな。
三人の顔を見るのがちょっとむずk…………ん?
目を逸らそうとして、だからこそ目に入った光景。
「……え、三人とも声聞こえてる?」
そんな訳無いよな、という思いを込めての問い掛けだったが。
「……言ってなかったっけ?」
「言ってませんね。 ……お二方の力を借りてから、声だけは聞こえるようになりまして」
「アタシも同じようなもんかな? 大事じゃないと思って言ってなかったけど」
三者三様に返るのは、当然聞こえているという内容。
えーっと、つまり?
今の質問に対しての俺の態度も見られていたというわけだが。
(……良く考えれば、もっと恥ずかしいこと平気で言ってたか)
ならいいか、うん。
深く考え込んだら駄目だな、うん。
「ぁー……ワカにヒメ」
全員揃っているんだし。
声が聞けるというのなら丁度いい。
全員に関係することだろうから――――聞かせておきたい。
『どうした?』
『恥ずかしいなら暫く離れますが』
「その話まだ蒸し返すの? そうじゃなくてだな」
離れるって何をすると思ってるんだ。
今のこの状態だって幸せであると同時に恥ずかしいっての。
一度息を吸って。
こんな体勢で話すことではないのだが、口を開く。
「”おねえちゃん”……
黙ってること、あるよな?」
――――周囲の空気が凍った。
「おねえ……ちゃん……?」
「え、誰? 誰!?」
「女の名前、ですよね……?」
三人は……何故そっちに食いつく。
別にいいだろ、俺も忘れてたけどそんな繋がりがあったって。
その内会うことになると思うし、その時に話してくれ。
問題は、目の前の二柱。
『……会ったのか?』
「会った。 夢の中だったか、あの人がいる場所だったのかは分からんが。
眠っている場所で待ってる、だとさ」
『…………良くぞ、無事で』
溢れる言葉は、多少震えているようにも聞こえる。
先程まで多少は冗談交じりだったような口調が一変。
心底安心したような声色になったのが異様にも感じた。
「……もう一度聞くぞ。 何だったんだ?」
『天理、お主が行ったのは恐らく
――――吾が否定できる限界の位置だ』
…………冥府?
冥府ってアレか? 死ぬと行く場所?
え、つまり。
「死にかけてた?」
『引き込まれた、という側面もあるでしょうが……恐らくは』
「……追い返されてなかったら不味かったじゃん。
というか、なんでそんな所にいるんだよあの人」
冷や汗とともに、言葉が漏れて。
太腿の辺りと、首周りを抱き締められた気がした。
最近こういう事多いな、二人共。
『吾の神具と……過去の戦いの影響だ。
――――事此処に至っては黙っている理由も無し、か。 ヒメよ』
『はい。 せめて、中学校に上がってからと思っていましたが……』
二人だけで交わされる、謎の会話。
けれどそれだけで何の内容かは確認できたらしく。
一度編みぐるみが頷くように動き。
『改めて名乗ろう。 吾は『アメノワカヒコ』。
『その妻にして、大国主神の娘が一人。 『シタテルヒメノミコト』と申します』
そんな名前を、口にする。
『話せることを話そう。 ……何にせよ、吾等だけではどうにも出来ぬのだから』
深い深い、自嘲と共に。
※変更点:
・大体全部。
・色んな説が存在しますが、今回の『ワカ』は様々な事象を合集した存在として扱っています。
・今まで名乗らなかったのも、せめてもう少ししてからと思っていたから。