葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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神の名乗り。


幕間-2

 

検査に次ぐ検査。

確認に寄る確認に女性陣からの無言の圧力。

 

結局、異常な部分は(肋骨が圧迫されていたということを除き)無く。

放り出されるように、痛み止めを処方されて退院し。

その翌日。

 

「……ん~」

 

「…………どうですか?」

 

「いや、色々言いたいことだらけなんだけど」

 

退院した翌日が休日ということもあってか。

当然のように朝からやってきた二人はお見舞い、という名目だったのだが。

気付けば俺がそのちゃんに膝を貸し、俺が須美ちゃんの膝を借りている。

何だこの多重繋がり。

 

「でもなんか嬉しそうじゃないか、天理」

 

「ソワソワしてる銀には言われたくないんだけど」

 

「してない!」

 

いや、それも無理があると思う。

明らかに周囲ウロウロしてるじゃねえか。

…………二人が帰ったら貸してやるからそれで我慢してくれ。

 

『後遺症はないのか?』

 

当たり前のように話しかけてくるワカ。

一応心配してくれているようだが、これくらい出来るだろうと過信されている気もする。

逆にヒメはなんだか妙にオロオロして見えた。

 

「なんか痛みが残ってる感じはあるけど……こういう奴?」

 

特に目と耳。

やや掠れて見えたり、物事が遠く聞こえたりする状況。

ただ病院の検査としては正常値の範囲だからこそ、通常ではないと判断できたが。

 

『魂への損傷が治り切っていないのだろうな。

 暫くそうしていれば良くもなる』

 

「いや、そうしてる……ってこれ?」

 

指で自分の下半身と頭を順番に指差す。

少しだけ首を持ち上げたのに、額に手を当てられ元の場所に戻された。

 

見下ろしてくる彼女が、「だめ」と囁くのが聞こえて。

視線だけを二柱に向ければ、頷いたような気がした。

 

『陰陽というものがありましてね。

 特に不可視の存在……魂や気力、生命力という観点からすると大事だったりするのですよ。

 天理ならば女子との接触……くらいが精一杯ですか? 今だと』

 

特に大事だと想っている相手からは、とか余計なことを言うな。

三人の顔を見るのがちょっとむずk…………ん?

 

目を逸らそうとして、だからこそ目に入った光景。

()()()()()()()()()()頬を染める光景。

 

「……え、三人とも声聞こえてる?」

 

そんな訳無いよな、という思いを込めての問い掛けだったが。

 

「……言ってなかったっけ?」

 

「言ってませんね。 ……お二方の力を借りてから、声だけは聞こえるようになりまして」

 

「アタシも同じようなもんかな? 大事じゃないと思って言ってなかったけど」

 

三者三様に返るのは、当然聞こえているという内容。

 

えーっと、つまり?

今の質問に対しての俺の態度も見られていたというわけだが。

 

(……良く考えれば、もっと恥ずかしいこと平気で言ってたか)

 

ならいいか、うん。

深く考え込んだら駄目だな、うん。

 

「ぁー……ワカにヒメ」

 

全員揃っているんだし。

声が聞けるというのなら丁度いい。

全員に関係することだろうから――――聞かせておきたい。

 

『どうした?』

 

『恥ずかしいなら暫く離れますが』

 

「その話まだ蒸し返すの? そうじゃなくてだな」

 

離れるって何をすると思ってるんだ。

今のこの状態だって幸せであると同時に恥ずかしいっての。

 

一度息を吸って。

こんな体勢で話すことではないのだが、口を開く。

 

「”おねえちゃん”……()()()に聞いた。

 黙ってること、あるよな?」

 

――――周囲の空気が凍った。

 

「おねえ……ちゃん……?」

 

「え、誰? 誰!?」

 

「女の名前、ですよね……?」

 

三人は……何故そっちに食いつく。

 

別にいいだろ、俺も忘れてたけどそんな繋がりがあったって。

その内会うことになると思うし、その時に話してくれ。

 

問題は、目の前の二柱。

 

『……会ったのか?』

 

「会った。 夢の中だったか、あの人がいる場所だったのかは分からんが。

 眠っている場所で待ってる、だとさ」

 

『…………良くぞ、無事で』

 

溢れる言葉は、多少震えているようにも聞こえる。

先程まで多少は冗談交じりだったような口調が一変。

心底安心したような声色になったのが異様にも感じた。

 

「……もう一度聞くぞ。 何だったんだ?」

 

『天理、お主が行ったのは恐らく()()()()()()

 ――――吾が否定できる限界の位置だ』

 

…………冥府?

冥府ってアレか? 死ぬと行く場所?

え、つまり。

 

「死にかけてた?」

 

『引き込まれた、という側面もあるでしょうが……恐らくは』

 

「……追い返されてなかったら不味かったじゃん。

 というか、なんでそんな所にいるんだよあの人」

 

冷や汗とともに、言葉が漏れて。

太腿の辺りと、首周りを抱き締められた気がした。

最近こういう事多いな、二人共。

 

『吾の神具と……過去の戦いの影響だ。

 ――――事此処に至っては黙っている理由も無し、か。 ヒメよ』

 

『はい。 せめて、中学校に上がってからと思っていましたが……』

 

二人だけで交わされる、謎の会話。

けれどそれだけで何の内容かは確認できたらしく。

一度編みぐるみが頷くように動き。

 

『改めて名乗ろう。 吾は『アメノワカヒコ』。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『その妻にして、大国主神の娘が一人。 『シタテルヒメノミコト』と申します』

 

そんな名前を、口にする。

 

『話せることを話そう。 ……何にせよ、吾等だけではどうにも出来ぬのだから』

 

深い深い、自嘲と共に。




※変更点:
・大体全部。
・色んな説が存在しますが、今回の『ワカ』は様々な事象を合集した存在として扱っています。


・今まで名乗らなかったのも、せめてもう少ししてからと思っていたから。
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