葦原天理は巫覡である 作:氷桜
大体わすゆ~ゆゆゆ間の話の予定です。
途中ゆゆゆいも入ってくるので体感時間はクソ長いと思う。
起-1
秋も終わりを見せ、そろそろ冬に入ろうかという時期。
冬休みという長期連休が見え、同時に進学という重みが増し始めた頃。
「で……えーっと…………
「何方でもいいですけど……苗字も捨てがたいです……んんっ、捨てがたいね」
「無理しなくていいのに……って言うか捨てがたいって何?」
「それは……
なんか妙に重い一言を飛ばしてきた少女。
絶対に複数の意味を重ねているだろう事が予想できる言葉と視線へは返事せず。
少し前の編んでいた髪を解き出して、長めの髪へと変わり始めた……
そんな髪に少しばかり目を惹かれる彼女と二人。
少しばかり肌寒い、やや早い冬の前触れを押してやってきた場所。
「中、そんなに汚れてなきゃいいんだけど」
「…………そうね」
以前に見ていた光景よりも目線が上がった事で、見える景色も変わった場所。
俺の生家の目の前で、二人入り口から見上げている。
というのも、だ。
彼女……『東郷』の家に戻るに当たり。
大赦に与えられた役割は「勇者適正値の最も高い人物の手助け」。
最終的に選ぶのは神樹であっても、確率論で考えれば近くに置いて仲良くなっておいたほうが楽。
そうして選出されたのが、俺にとっても旧ご近所さんの名前。
そして引っ越す先もその家の隣、となるので必然的に俺の家の物凄い近く。
というか目の前の家の裏側が引越し先に当たる。
それを知った彼女、及びそのちゃんと銀の動きは早かった。
銀のために手摺を設ける工事、自分の部屋を何処にするかで無駄に悩む時間。
半ば強引に押し切って、そのちゃんも近くで一人暮らしを始めるとか何とか。
でもそれ、籍だけ其処において此方にほぼ毎日来たりしないよな? と言う不安があるがそれはそれ。
そんな形で何度か足を運び始めていたが、そろそろ時期も時期。
俺一人ではどうしても手が回らない家の補修箇所探しや掃除などなど。
最初は先生を介して手配しようと思っていたのだが、『私で良ければ』と。
隣の家の少女に挨拶ついでに足を運び、というのが今日の顛末の一つ。
(やるべきこと逆転してないか?)
そんな言葉は口に出さず。
『神域』化……ワカにヒメの部屋。
それに今後の初代勇者達の生活のことも踏まえると、部屋は幾らあっても足りない。
何より、眠り続けている彼女達は生命に関わる大怪我をしているはず。
その誤魔化し、という意味でも大赦の関係者を出来れば一人は巻き込んでおきたかった。
なので、その担当者に当たる人と先生と……四人で会う機会を設けたのも今日で。
「……天理くん」
「ん?」
「
つい先程、近くのファミレスで食事兼顔合わせをした相手。
勇者の担当以外で、勇者と会うことが認められるだけの存在。
乃木ではなく、鷲尾の息女と上里の分家の当主が会う……という時点で。
今は昇り詰められているわけではないだろうが、今回を踏み台にして上がっていく気がする人。
「悪い人ではないと思ったけど……多分、関わるならどっちにも利を示す必要はありそうかな」
所属は大赦だとしても、余り嫌いな匂い……腐敗臭や神に縋る人のような弱みも無く。
それこそ立派な、将来はああなることを目指してもいいような気がしないでもない人。
「だから協力したのよね?」
「そうだね。 上……本気でどうでもいいと思うけど、予算の降りる降りないに関われる立場だ。
なら今回は俺も汚水を啜るよ」
勇者達の為ならば。
彼女達の為ならば。
結局は俺自身の願いと、目標の為に家の積み上げてきたらしい権力を振るう立場。
一番嫌いだった、そんな立ち位置に自分がいることを嫌悪しながら。
「……一人で、抱え込まないでね」
そっと重ねられた手を否定せず、そのまま受け入れ少しだけ立ち尽くす。
(不味い……よなぁ。 寄り掛かり過ぎちゃう)
自分の感情が大きく揺れ始めたのは、成長と共に感じている。
今までは気にもならなかった少女達の見た目に目が向いてしまい。
自分を恥じて押し黙る、なんて経験も増え始めていた。
甘えすぎては駄目。
けれど、突き放すのも駄目。
そんな距離感覚が簡単に掴めるなら……誰も苦労はしないのだが。
……そろそろ中に入るか、と。
声を掛けようとして、隣を向けば。
「…………」
視界の奥、曲がり角辺りに見覚えのある髪色がぴょこんと覗いている。
じっ、と見詰めても変動はなく。
明らかに此方を伺っているような様子に、重ねられた手越しに合図を送った。
「ん……っ………………ぁ、あれ?」
擽ったかったのか、漏れた言葉は少しだけ少女のモノより色気が付いて。
間近で聞いたことに意識を向ければ不味そうだと自分を制御し、視線へ脚を向ける。
「え…………う、うわ!」
最初の一歩だけはゆっくりと。
其処からは走って、逃がす余裕を与えずに距離を詰める。
腕をぴん、と張る形で美森ちゃんを引き。
少しだけ腕を痛めたが今は努めて無視をする。
「…………何してるんだ、
曲がり角で逃げ場を塞ぐように、空いた片手で壁に手を当て。
逃げ出すにも屈んだりする対応を要求しつつ、少しだけ目下の彼女を見る。
「な、何って……か、観察? そう、観察だよ!
呆れ顔に気づいているのかいないのか。
焦った口調に、溜息を漏らした。
互いに知る相手。
会うのも6年近くぶりの筈なのに、当時の関係を一瞬で思い出せる相手。
「……あ、そうだ! 久しぶり!」
「おせーよ……久しぶり」
そんな少女と挨拶を交わし。
後手になった黒髪の少女から、ギリギリと強く手を潰されていた。