葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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起-3

 

冬休み、という期間は少なからず存在する。

 

その微妙な日数や開始日は違うらしいけれど、少なくとも俺達のモノは同じで。

そして別の学区……というよりも別の場所に引っ越すことが決まっている以上。

一日一日の重みが違っていたりする。

 

「さて」

 

そんな一日を費やして。

同時に、全力で伝手やら知り合いの手を使い倒して。

明日一日の為に走り回っていた成果を出す日。

 

「ワカ、ヒメ。 一応確認だが、本当に明日で良いんだよな?」

 

『ああ。 今後のことや治療までの時間等々。

 何より()()()()()()()()を考えるなら、長期の休みの間の方が良い』

 

『私達にも相応の負担は掛かりますからね。

 早めに手助けが欲しいところですが……早々無理も言えません』

 

その日の朝から、俺は大赦にやってきていた。

午後は午後で三人に捕まる予定があるので、そう長く居座るつもりもないが。

それでも、約束のために顔を出さないといけない予定もあった。

 

明日は朝から例の結界――――つまり”おねえちゃん”を開放する予定日。

間違いなく大怪我を負っていて、輸血やら緊急の手術やら。

要するに『明らかに不審』な行動を取る必要がある日。

 

その為に、発見された場所の誤魔化しやら一時的な情報の封鎖やら。

可能な限り不審な行動として捉えられる要素を削る必要性もある。

なので、その部分で協力を要請したのは()()

 

一人は安芸先生。

 

色々と生活の面でも世話になり、そして須美ちゃん……美森ちゃんの巫の才能を知る人。

半ば賭けの要素があったとは言え、専門の担当官としての職務を果たした後。

名家から目を掛けられるようになってしまった、というカバーストーリーを用意して。

今後に何かがあったとしても庇い倒せる用意をした上で、多少のことを話した。

とは言え、『神樹様からの神託があった』という表向きの理由でだが。

 

一人は三好と名乗る青年。

 

安芸先生から紹介され、そして一度のみならず何度か顔を合わせた人。

大赦の中でも仮面を付けて色々動いているらしいが、伝え聞く限り物凄い有能としか言えない。

特に何が凄いのかと言われると……恐らくは『中立』として動ける所か。

 

勇者という事情を知り、上層部の腐敗や依存を知り。

それでも尚極端に拒否する心を示さず、三人に心を砕いてくれる人。

 

だからこそ、同じように話せる範囲で話をし。

そしてそれを否定せずに『交渉』として成立させてくれた。

 

そして、最後に――――。

 

「……お待たせしましたか? ()()()

 

「いいや全く……何度も言うけど、俺は男だって」

 

かつんかつんと近付いてくる少女。

以前にも見た羽衣衣装の巫女。

時々すれ違い、時々話をし。

大赦内で学ぶ巫女として、恐らくは一番顔を知る相手。

 

「約束通り来たけど、これでいいの? 国土さん」

 

「はい。 ……神樹様からも神託を受けておりますから」

 

はっきり言えば、この部分……つまり『実際に神樹がどう見ているのか』は気になっていた。

初代勇者達も、神樹からすれば勇者の一員であるのは間違いない。

けれどその在り方が変わっている、というのは娘婿と娘からもはっきりと言われている。

だからこその確認と、もし何かしらがあれば教えて欲しいと告げたのだが。

 

()()()()()だけじゃなく、国土さんにも来た……か」

 

表向きは勇者であり巫女である少女に降りた神託、ということになっている。

だが実情……そして得た先が違うにも関わらず、巫女にもそれは降りた。

 

「はい。 『地面に伏した花が枯れ落ちる前に、桜が降りる』ような……そんな姿でした」

 

どうでしたか、と聞かれた問には首を振る。

どういった形で神託が降りるのか、という知識は俺には全くない。

 

神を降ろし、その在り方として一体化に近い五感を維持することは出来ても。

精神を神へと近付け、僅かにでも予知を受けることは俺には出来ないことだった。

 

「俺も……読み解く見立てとかの知識はあっても、細かくは聞いてないからなぁ」

 

「そう、ですか」

 

そもそもの話、彼女がこうして言葉を発するのは大赦に於ける巫女の役割。

そして神樹に極めて近い神の加護を微かにでも俺が宿しているから。

 

真実、純真無垢に神樹へ祈りを捧げる巫女の姿。

それ自体は美しく、護るべきだという心はあるけれど――――。

 

(神話を遡る限り、そうした対象が救われる未来って……なぁ)

 

決して口にしない言葉。

自身や神官、或いはそれ以外の全てをもか。

信仰の犠牲を救いと捉える、純真過ぎる面は幾らでも目の当たりにしてきた。

 

その考え自体は俺とは真逆で。

けれど巫覡と巫女として、互いの神に認められた存在。

 

俺は『自身』と『役割』を同一視し、それを以ての考えで。

彼女は『自身』が確立せず、その前に『巫女』として成立してしまった考えで。

外の世界への接する頻度の違いが大きかったんだろうな、とは強く思ってしまう。

 

「さて」

 

だからこそ、俺に出会ってしまったのは恐らく()()()

同じような巫女、同じような神官。

外に接することもなく、純粋培養されているのが彼女に取っては幸福だったかもしれないのに。

 

「何から話す?」

 

「……神樹様について、は……この間話しましたよね」

 

「なら……その前身。 土地神様についてにするか」

 

神道論争、とでも呼ぶか。

 

ほんの少しでも、『国土亜耶(かのじょ)』という在り方を確立してほしくて。

一歩間違えれば似たような立場になっていたかもしれないことを恐れて。

年下の少女と、似付かわしくない話題を交わし合う。

 

何時間掛けても、何日掛けても。

自身を成立させた上で、その上で考えを持ってほしいと。

 

――――彼女の勇者を見出して欲しいと、そう思いながら。




変更点:
・現時点だと行方不明者の再発見とかも難しいので権力者に手を回す
・その上で巫女に手を出す。 考え方に多少のテコ入れ。
・「外の世界の知り合い」を作り出してしまう。
・「くめゆ」後半部分に大きく差異が発生する。



・後、彼女の勇者観がぶっ壊れる。
・ついでに異性観やら見る目も。
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