葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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起-4

 

凡そ話したのは一時間か、それを超えるくらい。

通り掛かる人々は当然のように此方を伺うが、その内容も若干特殊なもの。

 

『こうするべき』と定められていても解釈次第で、という程度に収めているというのもあり。

巫女自体の考えの根底を揺るがすモノでもないから見逃されている、というのが正しいか。

 

「じゃあ、また今度」

 

「はい。 その際にはご連絡下さい……勇者様」

 

「だぁかぁらぁ」

 

そんな毎度のやり取りになりつつある会話。

少しだけ笑みを浮かべて、以前の鉄面皮が崩れてきたのは良いことなのか。

 

正直此処では息苦しいから外での話も希望したいが、彼女が自分から出ることは無い。

どうにも『学校に通わず大赦内で教育を受けている』疑惑さえあるから困ったもので。

 

(機会があれば……とは思うんだけどなぁ)

 

迂闊に外へも出せず。

曖昧な表情に対して、深々と礼をする彼女。

また一つ、本来の目的とは関係ないやりたいことを積み上げて。

互いに挨拶を交わしてから大赦を抜け出て三人のところを目指す。

 

『純粋な疑問ですが、其処まで粉をかける相手なのでしょうかね……』

 

(粉をかけるってなんだよ……)

 

多少距離を取ってから脳内に聞こえた声。

呆れたような声色が、俺ではなく別に向いているような気がするのは気の所為か。

 

『何――――というよりも、父上に関してですよ天理』

 

(は?)

 

『きちんと調べれば……ああいえ、今は調べられるか分からないでしょうけれど。

 我が父、大国主神の妻の数は180近いので』*1

 

(は???)

 

『やはり疑うよな、この数は……我が義父ながら……』

 

いやいや待て待て。

神が相手だからそうなるってだけだろ。

それが一体何だと――――。

 

『必死で考えを逸らしている所に止めですけれど。

 勇者、或いは巫女として見初められた相手は神樹の中に収められておりますよ』*2

 

(……………………………………それが正常なのか?)

 

必死で言葉を巡らせた上での言葉。

え、このまま行くと友人三人は勿論……国土さんや選ばれるなら友奈もそうなるわけ?

確か初代勇者達も一人、中に捕らえられてるって言ってたが……。

 

『皆の前で一度言いましたが、神樹の中から直接叩くとは()()()()()()()()もあります』

 

『無論、何かしらがあれば協力を要請することは出来ると思うが。

 現状では唯捕らえているだけだからなぁ』

 

正常に戻せば開放するかは兎も角として、今までの捕らえられた数々にも助けを要請できると。

まあ実際に動いてくれるかは兎も角として、可能性って面では結構高い気がする。

 

(何だかなぁ……)

 

それだけを聞いてしまうと神樹サマへの信仰心がガリガリ下がる。

多分国土さんに言えば喜んで取り込まれる気はするが、俺は嫌だ。

神に招かれる――――それが言葉通りなら兎も角、今の神樹が神樹だし。

 

少しばかり肌寒い風が身体に吹付け、覆っていた上着の前を更に閉める。

着やすいのは良いんだが、どうしても首元とかから風が入って来やすいのが懸念点。

とは言え、お洒落なんかは全然分からないからなぁ。

一度三人に話して、約半日くらい買い物に付き合わされたのは嫌な思い出の一つ。

 

(どうしたもんかねー)

 

『天理が悩んで直ぐに解決する問題でもあるまい。

 それに、手広くやりすぎれば嫉妬されるぞ?』

 

(何を? 誰に?)

 

『自分で気付くまでが遅いのですよね……。

 そうして気付いた時にはもう遅いと言いますか』

 

酷い言われようをされている気がする。

 

はぁ、と吐く息は白く。

早く合流先……駅前に戻りたい所。

 

(今日はどうしたもんかなぁ)

 

明日一日を借りる関係上、今日半日を譲り渡した。

そう言えば聞こえは良いのか悪いのか。

極端な話、彼女達は『勇者』という責務から解放されたような立場でもある。

 

だからこそ、本来なら協力する必要性もあまり無い筈なのだけど――――。

そう言って協力しない三人でもなく。

俺が惚れ込んだ三人は、そういうところも込みだと思ってる。

都合がいい、と思われてしまえば死にたくなるけど。

 

『どうしたもこうしたもあるか?』

 

(へ?)

 

簡単な一日の流れ。

何処でどう過ごすか。

別れまでと、明日の予定。

脳内で軽い線引をしていれば、脳内に聞こえたのはワカからの叱責。

 

『お主…………ああ、ヒメよ。 そういえば明日何をするか伝えたか?』

 

『………………ああ、そう言えば伝えていませんでしたね』

 

(は?)

 

何だ、嫌な予感がしてきたぞ。

救助するだけの流れじゃないのか?

 

『結界が解けた瞬間、大葉刈が保っていた霊力は一気に霧散します。

 つまり、天理が行うべきはその()()……というのは分かりますか?』

 

(必要の有り無しは兎も角、助けるのに必要だっていうならまあ良いよ。 で?)

 

『つまり、その持ち主……千景に行うべきは新たにお主と縁を結ぶこと』

 

(うん、で?)

 

”おねえちゃん”に縁を結ぶ、っていうのが良く分からない。

ただ、何となくに冷や汗が浮かぶ。

 

『要するに、ですが』

 

『互いの感情をぶつける必要があるのだが、分かっておるか?

 相手の霊体相手――――つまり、再びにあの入り口で』

 

聞いてねえよ。

 

……え、つまり?

最悪帰ってこれない可能性も考えて、あの三人に接しろと?

…………どうすんだよ。

*1
古事記では180柱、日本書紀では181柱。 なんだこいつ。

*2
巫女は神の妻、という理論の派生。実際世界中でもエインヘリヤルの逸話などで神に見初められた人間が神に招かれる例はいくらでもある。




※変更点:
・大体全部。

・まともに解説するなら、通常霊的に交感を行うという事象には幾つかの手順がある。
・一つは物体に降ろし、それを介して行う。
・一つはその場に降ろし、それと対話する。
・一つは自身が向かい、その場で対話する。
・基本的に危険度は下に行くほど高くなる。

・当創作では「互いへの感情の吐露」を切っ掛けに変動するものとする。
・原作に於けるぐんちゃんの最期の言葉もある種の呪い。
・つまり、互いに呪い合う事で結び付けていると考えても良い。


・だから全員重くなるんだよ。
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