葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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起-6

 

からからからから、車輪が回る。

ジトッとした目が6つ、俺へと刺さる。

何も言えずに押し黙り、針の筵の上を歩いて。

両手に一杯の荷物を持って、現住居へと入り込めば。

 

「天理くん?」

 

「ハイ」

 

()()()()()()()()()()()

 

何かを感じたのか、或いは理解しているのか。

何の事情も知らなければ多分見惚れるような笑顔を浮かべ。

けれど目の奥だけは一切笑っていない顔で、そう言われて。

 

『天理よ。 素直に従っておくのが吉だぞ』

 

「分かってるよ……」

 

謎のアドバイスを胸ポケットから届けられて、それに従い荷物を置いて奥の部屋へ。

普段から居間のように扱っている一室、この時期らしく炬燵を置いた場所。

銀専用の椅子に膝掛けも置いた部屋ではあるのだが、かなり恐怖を感じながら正座して待つ。

 

(何でああなってる!? 俺何か気付かれるようなことしたか!?)

 

自分から言おうと思ってたのは()()()()()本当なのだが。

果たしてそう伝えて信じて貰えるのか、どうなのか。

 

『ああ……それについてはな……』

 

『ワカ様?』

 

『すまない、黙る』

 

弱い。

何かを伝えようとしていたはずなのに、ヒメの一言で押し黙ってしまった。

 

……いや、でも今ので何となく理解した。

()()()()()()()()()でヒメが何か言ったな……?

 

余計なことを、と思えば良いのか。

逃げ出せなくしてくれて有難う、とでも言ってやれば良いのか。

多分何にしろ結果は変わらない。

 

「お待たせ~」

 

胸ポケットを睨みつけていれば、聞き慣れたほにゃほにゃした声。

でも上を向けば目が全く笑っていない。

 

「はいこれ、天理くんの分」

 

「須美ー、アタシのいつものとこー?」

 

「今から置くわよ、銀」

 

そう言って後から続いてきた須美ちゃんが差し出した湯気が吹き出たお茶。

その後に続いて、壁に手を付きながら……それでも大分手慣れてきた銀。

笑っているはずなのに、いつかのように妙に寒い。

暖房が効いていないのだろうか。

 

そうして全員が座り込んだ。

食事の準備……をするにはまだ早い。

というよりも、もう少し色々見る予定だったのを早めに切り上げ()()()というのが正しい。

 

「で」

 

「はい」

 

たった一言で、遅緩した感情を更に絞り上げられた。

……何に怯えているんだろう、俺は。

 

「ヒメ様から聞きました」

 

「何を」

 

()()()()()()()()()

 

やっぱりそうじゃねえか!?

こうなった問題も彼奴だろ!?

 

脳内で精一杯罵倒しても無視される。

女子の味方とでも言いたいのか、この女神は。

 

「なにか言いたいこと、ある?」

 

「あるよな?」

 

「まず事情説明させてくれない?」

 

何処まで知っているのかいないのか。

端的にしか伝えていない場合、下手なことを言えば余計酷いことになる。

話す順番は大事だと思う。

 

「裁判長」

 

「良いと思うぞー。 天理が嘘ついてるなら何となく分かるし」

 

一瞬で役割が決められたんだが。

 

「では弁明があるならどうぞ、天理くん」

 

「…………あるよね?」

 

圧倒的な圧。

何も言わないのは許さない、というのが嫌でも伝わってくる。

 

「ぁー…………まず、だな。 何をしなきゃいけないのか、ってのは俺も今日聞いた」

 

其処から話し始める事情。

今日確認してきたこと、その帰り道のこと。

色々考えていたこと、三人に伝えるつもりだったこと。

順番は調整しながらではあるが、全てを口にしたつもりで。

 

「うん、それは分かった~」

 

話し終え、妙に口が乾く。

未だに熱を持ったままのそれを口に含み、冷ましながらに飲み込んで。

けれども三人の目線の色は柔らかくならない。

 

「じゃあしつも~ん」

 

「はい」

 

「”おねえちゃん”についてどう思ってる~?」

 

ゆったりとしながら。

いきなり心臓をぶち抜くような質問。

誤魔化しは許さない、というよりも……なんだろうな。

 

「…………え、っと」

 

「うん」

 

少しだけ、泣きそうなようにも見えた。

 

そのちゃんは、その瞳の裏で。

銀は、多分隠れて。

須美ちゃんは……多分、堂々と。

 

隠すつもりは元々なかったけれど。

言わなければいけない、と思ったのは――――多分、今。

 

「多分……()()、だった?」

 

「いまは?」

 

「…………分からない、かな」

 

今から思えば。

正確に言えば、思い出せば……か。

名前も知らない彼女の全てが好きだった。

 

少しだけ見える影も。

それを覆うようにした顔も。

()()()()()()()()()()()()()()()も。

彼女に助けられていた、とさえ思う。

 

けれど、一度見えなくなって……忘れて。

或いは忘れさせられて。

再会して思うのは、何かを隠しているならそれを知りたいという思い。

 

銀への、親愛に近いモノではなく。

須美ちゃんへの、時間を忘れるような愛慕ではなく。

そのちゃんへの、互いを尊重し合うような敬愛ではなく。

 

幼い頃から染み付いてしまった感情。

恐らく、根幹に座してしまった恋着*1

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だから、今はとにかく色々話をしてみたい。 …………三人には、悪いけど」

 

「悪い、っていうか……」

 

「何でしょう、この……」

 

「私達にとってもおねーちゃんになる、ってこと……?」

 

一人だけ何かがズレてる。

ただ、全員が自分の抱えた感情に答えを出せずにいる。

間違いなく嫉妬はあるはずなのに、それを踏まえての言葉。

 

……本当に、頭が上がらない。

 

「だからー……まあ、聞きたいことがあるなら今聞いて」

 

なので、今日はもう彼女達の好きにさせる。

俺が出来ることなら文字通り何でもしよう。

ただ年齢的に不味いのは逃げる。

 

「あ、じゃあアタシから聞いても良い?」

 

「良いぞ、何でも来い」

 

「じゃあさ、()()()()()()()()()()()ってどんな子?」

 

「え、そっち!?」

 

変な方向に飛び火してる……!?

 

「いやぁだって。 その……おねーさん? は明日助ければ話せるわけだし?

 どうせなら絶対言わないだろうこと聞いときたいじゃん」

 

そーれーにー、と。

唇に指を軽く触れさせたのが見えて。

 

「例え、ずっと昔……と今もか。 どう思ってたってさ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

だから。

 

「……いつまで待ってれば良いんだ?」

 

…………向けられた目線は、三通り。

そのどれもが、熱を持っていた。

*1
深く恋い慕うこと。執着すること。




変更点:
・おんなのあらそい。


・多分執着、という意味合いで一番重いのは銀。
・多分嫉妬、という意味合いで一番重いのは須美。
・多分束縛、という意味合いで一番重いのは園子。

・多分寂寞、という意味合いで一番重いのがぐんちゃん。
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