葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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起-7

 

責任、という言葉がある。

 

ずっと昔から……それこそ子供の頃から教え込まれる意味。

何かをしたなら、それに対する責任を持つ。

 

「……」

 

その言葉の意味を、今実体験させられている。

 

「てんくん?」

 

普通の家なら当然にある、自分の部屋。

けれどこの借住宅はそんなに部屋数が多いわけでもなく。

各個人の部屋、というものを定めていなかった。

 

居間、寝室、そして物置。

本来は一人暮らし向けの住宅を後付で改造したような作り。

 

俺は普段から本来は物置として用意された神域で眠るようにしていて。

寝室は実質的に銀の部屋。

 

そんな形で、()()()()()()()()()()()()()()共に眠るなんてことは無かったのだが。

 

「……何? そのちゃん」

 

「ねないの~?」

 

()()()()()

 

右隣に、目線の合った相手……そのちゃん。

左手には須美ちゃん、そして銀。

 

無理矢理に雑魚寝のような形にするために敷いた、本来の布団を横に二枚並べただけの姿。

俺と銀のモノは材質も違うのもあって、少しだけ段差のようにもなっていて。

何とも言えない寝心地と、それと奇妙な緊張のせいで眠れる気がしないでいた。

 

「……でも、寝ないと明日大変だよ?」

 

「全く同じことを言い返そうか」

 

手で覆いながら、枕元の携帯端末で時間を見る。

 

全員で布団に入って、凡そ三時間ほど。

午前一時を少し回りだした位の時間――――寝たような、寝ていないような。

曖昧な感覚の中でふわふわと漂っていたのだけは覚えている。

 

「私は~……うん、てんくんが寝たら寝るんよ」

 

「いつになるんだよ、それ……」

 

隣、背中からは微かに寝息が聞こえる。

抱き枕か何かのように抱き着かれた時は、起こさないように振り払ったが。

色々と戸惑いや焦りもありつつ、微かに囁くように少女へ言葉を投げ掛ける。

 

「分かんない」

 

「あのな……」

 

とは言え、俺は断る権利も何もない。

 

何をするにしろ――――()()()()()()()

そういった事を望むなら、せめて小学校卒業してからにしてくれ、と土下座を敢行。

全員に何とか許可を貰った反面がこの状況。

曰く。

 

『だったら、一緒に寝るくらい良いよな?』

 

『だ、男女七つにして……!』

 

『じゃ~わっしーはミノさんの部屋で寝る~?』

 

『そ、そんな事は言ってません!』

 

……いや、何で普通に泊まる流れになっているんだろうか。

というか添い寝も添い寝で結構難易度高いと思うんだけど。

そう思うのは俺だけなのか?

 

口にしたかったけれど、『友人宅に泊まる』という電話一本で片付けられてしまった。

間違ってはないが、その相手が男もいるって言ったほうが良いと思うんだよ。

……何だかんだ、そのちゃんの運転手さんとは仲良くなってきてしまったのが怖い。

絶対そのラインから両親に話行ってるよ。

 

そんな事を考えていたのは……もう何時間前なんだろう。

 

「だって~」

 

「だって、じゃないです」

 

軽く叱りつけるように言えば。

ぶぅ、と頬を膨らませながら正面に抱き着いてくる。

 

迂闊に動けないまま、離れなさいと少しだけ追いやるけれど。

足を伸ばして絡み付かれて、挟み込まれて。

目の前、胸の辺りに彼女の顔が見える。

 

「こーやって、友達と泊まるの。 楽しくなぁい?」

 

「……まあ、何となく想像はつくけどさぁ」

 

小さく息を吐けば、それが届いたのか擽ったそうに笑う。

 

現状、今の体勢。

誰か一人でも起きればまた一騒動になりそうで、小さく囁き続ける他ない。

 

「ミノさんとか、わっしーとは……前、こうしてお話したんだけどね」

 

「うん」

 

こそこそと続ける会話。

二人きりの秘密のような、深夜の話。

普段だったら絶対に許されない――――けれど。

 

「……好きな人とか、家でどう過ごしてるとか。

 色々、知らないことを教えてもらったんだ」

 

ほんの少し、浮かんだのは寂しさ……か。

当初、本当に最初。

彼女とイネスで話したときのことを、ふと思い出した。

 

「それから、色々あって……昔の私に言ったら、信じて貰えないと思う」

 

「それは……多分、俺も同じかなー……」

 

「なんて?」

 

「あの時の女の子と、一緒にこうしてるとか。 普通じゃ考えられないから」

 

そうかなぁ、と。

胸に頭が一度当たる。

小さな振動が骨越しに。

 

腕、胸、脚。

華奢なようで、それなりに鍛えられた女の子の感触を服越しに感じる。

 

「私は~……なんとなぁく、予感があったよ?」

 

「予感?」

 

「うん。 仲良くなれそうだなぁ、とか。 優しそうだなぁ、とか」

 

そういう時の感じ、何となく外れないんだ、なんて。

普通に聞けば……何を言ってるんだろうと思ってしまうけれど。

そのちゃんのこういう時の言葉は、自分でも分かっていない事を言葉にしている気がする。

 

考えが言葉にならない、というか。

頭の中ではこうだと思っていることが、間が飛んでいきなり答えに行き着いてしまうというか。

だからこそ、周囲からすれば『変わっている』と思われてしまうような考え方。

 

「……そっか」

 

「うん」

 

離れない。

離れようとしない。

()()()()()()()

 

本質的に多分、寂しがり屋だからこそ。

誰にも甘えるように、誰でも関わるように。

『好意』を持った相手へは何をしても良い、と思っている節さえあるのに。

 

それを否定できない、誰も否定しない。

多分、それは俺達全員が全員心の何処かで抱えていることだから。

 

そっと、彼女の背へと手を伸ばして目を閉じた。

 

一瞬びくり、と震え。

けれど互いに、互いを抱き枕にするかのように体温を感じた。

 

深い言葉は口にせずに。

目も合わせず、普段使っているシャンプーの匂いなのに何処か甘いミルクのような錯覚(におい)がして。

 

「…………おやすみ」

 

そんな言葉を、小さく小さく囁いた。

 

「…………うん」

 

同じように、小さく声がして。

 

――――ずっと、いっしょ。

 

そんな、誰かに祈るような。

幼子の願い事を、聞きながら。




・基本的に甘えたがりで甘やかしたがり。
・一線を越えるまでは抗うけどそれを超えると受け入れる。

・言ってしまうと、重い子ホイホイです。
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