葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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・前回書いてなかったので此方に

・「してはならない」系列の禁を言わなかったのも「言えばそれが確定してしまう」から。
・あのタイミングで口にしたのも「穢れ」が殆ど抜け出ていたから。
・普通だったら失血死してるけど、外からの干渉で死ねないので。


起-11

 

「――――り」

 

耳元で声がした。

 

「――――んり」

 

機械音、電子音……だろうか。

定期的に鳴り続ける音と。

何か、果物のような甘い匂いとそれを剥くような音。

 

「…………天理くん?」

 

「ん、ぁ」

 

返事をしたつもりで。

妙に舌がもつれ、言葉にならない言葉が漏れた。

頭では整理できているのに、肉体が上手く動かない。

 

『徒人の身で”清めの水”を通り抜けたようですからね。

 精神が純化されすぎて肉体との齟齬も出るでしょう』

 

『あの水、()()()()が清めたものと同種だからなぁ』

 

『精神修養……にはなったと思いますが。

 それでも、普通はするものでも出来るものでもないのですよ……天理』

 

枕元から聞こえる、いつもの声。

俺達にしか聞こえていないと分かっていても、少しだけ安堵する。

 

「…………こ、は?」

 

「病院です。 また入院ですか、と驚かれていましたよ」

 

眠るベッドの横の椅子。

視線を向ければ、須美ちゃんが腰掛けている。

 

その手には少しばかり季節外れの林檎。

切り落とし、そのゴミを手元のゴミ袋に捨て使い捨ての皿に載せた上で。

枕元に置いて、小さく息を漏らした。

 

安堵のような――――怒りのような。

綯い交ぜになった感情が胸の中で膨らみ、言葉にならないように。

 

どうやら一人きりのようだが……。

 

「銀とそのっちなら、”おねえちゃん”のところ。

 身体、動かせる?」

 

手に力を入れようとして上手く入らず。

起き上がろうとして付いた腕から崩れそうになり、彼女に抱かれて止まる。

 

「……無理、みたいね。 隣の部屋なんだけど」

 

呼んでくるか、という言葉に目線だけで否定する。

彼女がそう言うのなら、恐らくおねえちゃんも生命は繋いだということなのだろう。

焦りの心は何処かに消えて、小さく小さく息を漏らす。

 

……いや、呼び方を変えてほしいってことだったから。

別の呼び方に変わるだろうけど、どう変えれば良いのか。

名前を教えて貰ったから名前?

 

……でも、あの時愛称(?)で呼んでくれたよな。

 

聞いていると酷く落ち着く声で。

けれど照れ混じりで、きちんと声は届いていた。

 

会いたい、話したい。

けれど今は身体が動かないし、もう少し良くなってから。

 

(……今年一年で何回入院してるんだろうなー、俺)

 

『それは此方の言葉ですが』

 

『致し方ないとは言え、なぁ。

 男子の本懐といった部分はあるが、天理は巫覡に過ぎぬし』

 

(何だその言い方)

 

いやまあ、自分でも分かってる。

本質的に補助――――或いは事前準備、事後対応でしか動けない俺。

そして治療手段、という意味で俺にはなにもないのも同じ。

 

このまま何度も入院なんてしていれば。

恐らくは既に、だとは思うが……『そういう人間』だと捉えられる。

そうなった場合に困るのは他の名家の動き方。

絡め取られる、或いは親達から干渉され始める前に対策したいところだが。

 

「…………はぁ」

 

「溜息を吐きたいのは此方です。 二日も寝たままで」

 

またそんなに寝てたのか。

やっと筋力もある程度取り戻せてきたのにまた劣化してしまった。

 

「…………で」

 

「寝ていた間のこと?」

 

彼女なりに嘗ての言葉と今の言葉が混ざり始めたのだろう。

未だに慣れてはいないが、それでも敬語部分は幾らか抜けてきている。

 

それに伴って……というわけでもないのだろうが。

唯でさえ美少女だったのが、美人へと羽化を遂げ始めている。

ほぼ、どころか毎日見る度にそう思うので……周りもある程度は気付いていそうだが。

 

(警戒心強いからなぁ、須美ちゃん)

 

やっと口と脳が一致し始め、舌の混乱も収まり始め。

それでも微かに頷く程度でその通りだと告げながら。

ぼうっと、少女の存在を上から下まで眺めてそう思う。

 

生まれ、役割、そして今後の動き方。

それら全てが決められて、それに従うような生き方で。

 

多分、同じような役割の二人がいなければ。

多分、全てを忘れでもしなければ。

自由、というモノは存在しなかったようにも思えてしまう。

 

だからこそ、彼女とこうしていると言われると……何とも言えなくなってしまうが。

 

「先に聞いていた通り、対応して……あの、おねえちゃん? も緊急手術。

 神経まではやられてなかったみたいだけど、その分血管が酷く損傷してたって」

 

……銀の時の逆か。

或いは、()()()()()()()()()()()のか。

当人も分かっていなさそうだから、其処は聞くことはないだろうけど。

 

「それ……で?」

 

「ついさっき目を覚ました、って聞いて二人が行ったところ。

 一応、私達三家と神樹様からの神託ってことになってるし……。

 最終的には、天理くんが引き取るの、よね?」

 

勿論そのつもり。

約束して、口にして。

はっきり答えてくれたわけじゃないけど、それでも呪いの言葉をくれた。

 

死、という言葉が永遠の別れにならない呪い。

あの鎌を貸与した人物からすれば、洒落にならない言葉。

それでも喜びが先に出るのは、多分俺もどこかが狂っている証拠。

 

「退院予定とか、聞いてる?」

 

「目を覚ましたら検査して……問題なければ明後日には、かな。

 多分もう一人はもう少し掛かると思うけど……銀に聞く?」

 

「後でね」

 

そのちゃんに、という言葉が出ないところがちょっと酷く。

それに頷く俺も同類。

まあ、真面目にしている時は一番凄い子なんだけれども。

 

談笑しながら、少しずつ精神と肉体が合致するのを感じながら。

枕元の林檎に刺さった四本の爪楊枝。

その内一本を取り、口に含む姿を視線で追う。

 

齧られ、半分程が目の前に残り。

その視線に気付き。

口を抑えながら、咀嚼しながら。

 

「…………」

 

頬を微かに染めながら、それを口元へ差し出され。

何も言わずに、それを齧り取る。

 

酸味、甘味。

それらがあることは間違いないけれど。

 

「…………」

 

飲み込み、その目を見て。

 

「…………ごちそうさま」

 

多分――――その行為のほうが、よっぽど甘かった。




※変更点
・X回目の入院。
・ぐんちゃん生還! ぐんちゃん生還ッッッ!


・そろそろ治療役欲しいですよね。
・ゆゆゆ本編に純ヒーラーなんていないんですけど。
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