葦原天理は巫覡である 作:氷桜
※ぐんちゃんイメージ曲その2
「お大事にー」
「また来るんよ~」
ええ、と声にならない声を発し。
病室を去った二人の少女を見送り。
同時に無理をしていた身体から力を抜いた。
腕が軋む。
脚が鉛のように重い。
以前のように動けるか、という保証は何処にもなく。
けれど以前よりも、頭がスッキリしている気がする。
(……常に囁いていた声も、無くなってる)
常に傍に置いていた、持ち歩いていた大葉刈の姿もない。
無意識に探してしまうけれどやはり見当たらず。
それでも、彼の近くにあるだろうと無理矢理に納得した。
(……肉体、か)
こうして何かを感じるのは、多分300年ぶり。
随分とお婆ちゃんになってしまって、感覚も何処か一枚薄皮を挟んだよう。
感じること、考えることのような精神的な部分は変わらなくても。
五感を利用して、筋力を即座に使っての戦闘は多分感覚が外れてしまう。
(腕も……落ちてるでしょうね)
そんな中で最初に思い浮かんだのがゲーム。
私が持っていたモノはもう使えなくなってしまっただろうから、記録も何も無いけれど。
途中だったデータが残っていたことを思い出して少し悲しい。
(新作……か)
ただ、私が知らないゲームが一杯出てるのは間違いないと思う。
昔想像していたインプラントとか、VRとか。
そういった物が出ていないのは彼と共に動いていたから知っているけど。
でも、やってみたい作品を一切やれなかったのは辛かった。
手も動かせない、何かを読んでいればそれを追うことは出来ても触れられない。
余り極端に彼――彼女の血縁――から離れることも出来ない。
それでも、抱えていたものが少しずつ消えていったのは。
多分あの二柱から話を聞くことが出来たから。
一度死にかけて、そして封印されたことで力を受け入れる土壌が産まれたから。
(多分一人だったら……どうにかなってたかもね)
ただ、私と……そして土居さんと伊予島さんは特例の筈だ。
そして、その姿を私は伝聞でしか知らない。
その目的からしても、記録を残しているとは思えない。
(知っている相手の特定……この考え方を理論化して、噛み砕ける相手がいる)
神樹に関わる知識ではなく。
神道、神に関わる相手で。
対話、或いは知識を持つ――――大赦に立ち向かうだけの何かを持つ人物。
(……嫌でも、一度は話さなきゃいけなかった、か)
――――唯の、繋がりがある子だと思っていた。
私が見えている相手なんてこの300年で誰もおらず。
その声が、その目が私を捉えてくれることを嬉しく思う。
それだけ、だった筈なのに。
『
冥府で。
黄泉路で。
本来は別れるべき地で。
背中越しに投げられた、真っ直ぐにも程がある告白。
友情や親愛、夢想……そういったものが混じり合っていた、私達の言い合う好き嫌いではなく。
純粋に……それこそ、美佳さんと最初に会った時に向けられていた目。
そして最期に、
あんな色が大きく混じった彼の言葉。
私のことだけを思ってくれた、十年ちょっと一緒にいたから分かってしまう。
虚偽を挟まない、少しばかり気が多い気はするけど……それでも、本心からの言葉。
(……全く)
思い出せば照れてしまう。
顔が見せられない……恥ずかしくて、というのは何度も体感していたけど。
誰とも話したくなくて、自分の世界に籠もって。
何度もやってきたことだったけれど。
純粋に、特に知っている男の子に好意を投げ掛けられたのはアレが初めてで。
遥かに年下で、何も知らない子で。
共に戦うことも出来ず、護られるだけの巫女の近似種だと自分に言い聞かせても。
あの背中を。
あの言葉を。
あの場所で。
そう思ってしまえば――――駄目だった。
自分が、此処まで引っ張られてしまう人間だとは思っていなかった。
『おねえちゃんはやめて』
自分で言った言葉。
ほんの少しの年の差を、大きく感じてしまうから。
そんな、背中を追いかけられるような人間じゃないから。
後を追いたい。
共に歩きたい。
ほんの少しでいいから、私の方を見て欲しい。
そのどれもを願って、そのどれもを容易く叶えてしまいそうだからこそ。
揺れてしまって。
誰かを愛称で呼んだことなんて一度もないのに、呼んでしまった。
(……変だと思われて無ければいいけど)
そんな、ほんの少しの恐怖心。
受け入れて貰えれば、恥ずかしいけどそれでいい。
けれどもし、否定されたら。
元の私に戻るだけなのに、それが怖くて怖くて仕方ない。
(……多分、あの子も似てるんでしょうね)
先程顔を合わせた金髪の子。
何処となく親近感がある、乃木と名乗った彼女の
その目の奥の感覚は、多分互いに似たようなものを感じたと思う。
だから、嫌いになりきれず。
追い返すことも出来ずに、少しだけ話をしてしまった。
独り占め――――は、多分出来ない。
そうやって追いやっても、私と同じ私を作るだけ。
だけど、諦める――――そんな事もできない。
ゲームで遊んでいて、いつも思っていたこと。
助けて貰って、ずっとその相手のことを考え続けるのなんて……という考え方。
でも、こうなってしまうと違うんだと分かる。
助けて貰えたからこそ、その感情を振り払えなくなってしまう。
呪いに対して、呪いを掛けられて。
互いに互いを縛って、互いに互いを見て欲しいと願って。
(――――――――駄目ね)
私は、もう。
そうした連鎖の中に、自分を置いてしまった。
まーくん。
天理、天、あま。
それをそのまま読むのは、
だからこそ、そう呼ぶ。
精一杯の感情を込めて。
一生の間の、ほんの少し。
或いは永遠。
(一緒にいて、って言ったのは貴方だからね?)
言葉にしない想いを、飲み込みながら。
変更点:
・おもみ。
・ぐん×その、或いはぐん×ぎんは普通にあるしやるよ。この二次創作だと。
・問題は西暦組、誰も彼もこんな感じの重圧な予定な所かな……?
・助けてタマ先輩。