葦原天理は巫覡である 作:氷桜
三日後、俺が退院し。
その四日後におねえちゃんが退院して。
その合間に起こったことは……まあ、多少の騒動と言った所か。
「ええっと……改めて、お邪魔します?」
「はいどうぞ…………え、えーっと……
「てんりん、恥ずかしがったら負けだよ?」
誰にだよ。
お互いに名前を呼ぶだけで奇妙な恥ずかしさを抱く相手。
おねえちゃん、と呼ぶには年が離れている(と言っても肉体年齢で三つ、らしい)相手。
その人に要求された、別の名称。
銀、のように呼び捨てるには少し厳しく。
そのちゃんやら須美ちゃんみたいに最初は名前で呼ぼうと思ったんだが。
年上相手にそのまま呼ぶのは辛く、どうしたものかと悩むこと少し。
気付けばそのちゃんが「ちーちゃん先輩」とか呼んでたので、もう大部分ノリで決めた。
向こうが此方の名前を少しだけ変えてきたので、それに乗っ取って。
初めてそう呼んだところ、少しだけ目をパチパチとしていたのが印象的で。
人形然としている雰囲気の破片が散った、その姿に見惚れて。
隣に立っていた銀に太腿を強く捻り上げられたりした。
そんな相手も、俺が引っ越すまではこの家に。
本来なら中学校を卒業している年齢ではあるのだが、もう一度学び直したいという希望もあり。
多少の交渉と誤魔化しの元、嘗ての故郷から引っ越してきた中三の転校生という扱いになるらしい。
そんな彼女がしてくれることと言えば、
――――より正確に言えば、俺では対応できない銀の女性面での介護をしてくれるとのこと。
曰く、『介護は少しだけ慣れてるから』とも言っていたが。
以前の……西暦の頃に何かあったのか。
聞いてほしくなさそうな空気があったので、聞きはしなかったが。
「さて」
そんな彼女を含めて、五人と二柱。
流石に狭さのほうが先に立つ居間の中で、話すこと。
念の為に探られないように、靴下越しに禹歩で区切った上での話。
「せんちゃん――――初代勇者について教えてくれる?」
「ええ」
三人の誰かが持ち帰ってきたらしい。
けれど今は迂闊に持ち歩くことも出来ない、刃先のみを湛えた武具……大葉刈。
元は十握剣*1として誂えられていたらしいそれ。
鎌として仕立て直すのか、或いは模擬刀のように作り直し持ち歩きを優先するのか。
その辺りは彼女に任せるが……兎に角、それを近くの壁に立て掛けながら。
当然のことよ、と頷きながら言葉を発する。
「とは言っても、これは私の考える順番。 実際には前後するとは思うけど」
『その辺りは吾達も言葉を追加しよう』
「次のバーテックス襲撃がいつか……まだ神託も来ない今が好機、か」
次が来ない、ということは有り得ない。
もしそうなら須美ちゃんを次の配置に回す理由にもならず。
同時に、念の為ということで携帯端末を回収・情報更新する理由にもならない。
絶対情報を調べる機能を組み込んでいるだろうし……戻ってきたら五人で弄って何とか出来ないかやってみないとな。
「ねぇ、ワカ様にヒメ様。 アタシもなにか出来ることあったら教えてくれよ?」
『分かっています。 元勇者、というだけで
その媒介さえ見つかれば、という言葉。
身体が治ったら……銀もまた戦いに戻る。
その事に少しだけ、抵抗感を持つ俺もいる。
決して口にはしないけれど。
「なら……順番からして、次は土居さんと伊予島さんを助け出すのが良いと思うの」
「土居に伊予島……名家の、ですね?」
「そう、みたいね。 二人共、仲の良い……それこそ姉妹みたいな勇者だったわ」
思い出すように口にする、言葉に乗せる。
それは問い直した須美ちゃん自身も少しだけ言葉を止めるくらいに、悲しそうな顔で。
「私は彼女達が倒れた――――その相手へは少し遅れて戦いを挑んだ。
だから、具体的に何をしたのかまでは分からないけれど」
相手は尾を持つような巨大なバーテックス。
その時に
最期は使用を禁じられていた、そんな強大な精霊をその身に降ろした勇者の攻撃で葬り去られたらしい。
「尾……って言うと、アレかなぁ?」
「多分……蠍座、よね」
一度お互いに向き合い、認識を確認し合う二人。
ぽつり、と取り残された形の銀の手へ俺の手を重ね。
無言でその話の続きを待つ。
「撃退済み?」
「昔に比べて、私達のは色々改良されてる……らしいですけど~」
「それでも、『切り札』を使用すれば倒す……というよりは。
一定のダメージを与える必要はあるが、神樹の力で撃退できる鎮魂の儀。
そんなものもなく、肉体に蓄積する悪影響を積み重ねるだけの初代勇者。
何方が有利な状態だったか、と言われれば当然前者。
「……そう」
それがあの頃にあれば――――。
そんな言葉を言いそうになったようで、唇を噛むのが分かった。
「なぁ、ワカにヒメ。 現状、せんちゃん達は力になれるのか?」
『……無理ではない、とは言っておこう』
「え?」
そんな、ふとした疑問。
それに対して返ってきた答えは、ある種想定外のもので。
落ち込んだ様子の少女の髪が宙を舞い。
再び背に落ちるまでの時間を費やして、再度言葉が続けられた。
『ただ、それをするには――――我が神具が戻った今ならば』
じっ、と見られたのは……俺?
『巫女、或いは巫覡。 その存在が必要不可欠になる』
……今度は、一体何をさせようと?
※変更点
・ぐんちゃんへの呼び方を「せんちゃん」に変更。
・言葉の響きが似ているので一瞬戸惑っている。
・嫌いではない。 もっと言って欲しい。