葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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プリムラ・ポリアンサ/神結いの災い・承
承-1


 

こぉん、こぉんと音が鳴る。

 

数百年前から継がれていて、けれど祈る先……参る先だけは切り替わって。

それでも、儀式として染み付いている百八の鐘の音。

 

「ちょっと贅沢に海老天載せてみた」

 

「おー!」

 

「……確かに贅沢ね」

 

人数分……三人前の椀にそれぞれの箸。

炬燵布団の上と、銀用の机の上に配膳する。

 

文字通りの年末。

年越し()()として買ってきた生麺に温かい汁。

上には普段よりも多い具が乗った特別仕様。

 

理由は良く知らないが、せんちゃんは料理に全く不慣れだったらしい。

 

それを知ったのはつい先日。

銀の手伝いをしている時に、彼女が恥ずかしそうに言い出したことが切っ掛けで。

以来、ちょくちょく教えてはいるのだが……饂飩だけは覚えるの早かったんだよな。

インスタントで良い、とも言ってたが手料理にも憧れるタイプだったのだろうか。

 

「大丈夫なの?」

 

年末だから……というよりも、親元で過ごす最後の年末年始というのも大きく。

須美ちゃんとそのちゃんは自分の家でそれぞれの年越しを過ごしている筈だ。

 

まああの二人の場合、色々と挨拶周りに来る人の対応も忙しそうだが。

俺もある程度余裕ができたら顔見せにお邪魔する必要もあるし。

 

「何が?」

 

「その…………色々とお金とか」

 

さて食べるか、と手を合わせた時にちらちらと向けられた視線は椀の上。

 

……んー、と言ってもなぁ。

 

「これ、少し値下げされたやつだから平気だよ」

 

作りたて、ではなく揚げてから時間が経ったやつ。

店前に行った所、丁度値下げが始まっていたのもあって買った部分もある。

その間二人は風呂に入ってたはずだし、知る由もないが。

 

「でも」

 

「大丈夫。 大人になるまでくらいなら余裕もある」

 

仮にも名家、ということになっている。

代々継いできた分と、両親の事故の影響で残った遺産は未だに多く。

無駄遣いする気も更々無いが、心配して貰わなくても何とかやっていける。

 

「天理ぃ」

 

「んー?」

 

此処まで言ってくれているのは有り難いが、と。

更に一言言ってしまいそうな時。

食べたそうに目線は椀に向けたままで、銀からの声が届く。

 

「千景さん、心配してくれてるんだから感謝くらいはしても良くないか?」

 

「いや…………あー、それもそうだよ、な」

 

ごめん、と口にすれば私も、と返る。

 

嘗ての故郷での事情の一部を知るのは俺と神々くらい。

故に、彼女が此処まで気にしてくれる理由も互いには理解していても。

外から見れば――――或いは否定し続けていれば。

傲慢なように見えてしまう、というのは間違いなくある。

 

……新年迎えるのに、こんな気持も嫌だしな。

 

「ヨシ。 じゃあいただきまーす」

 

「でもお前は普通に食うんだよな」

 

「悪い?」

 

いいや、と肩を竦めれば。

そーいうと思った、とニヤリと笑った。

 

「食え食え。 食ってとっとと身体治せ」

 

「それで治れば苦労しないっての!」

 

飛び交う軽口。

当然のもの、だと思っているだろう銀に。

同じようなことを思っている俺。

 

大体考えていることが理解できる俺達は、多分根底の考え方が似ているのだろう。

 

変に恐縮されるくらいならガンガン食って欲しいし。

代わりに何か作ってくれるなら喜んで貰う。

 

一回一回での考え方というよりはもっと大枠。

一度貰ったから次は返す、その次は、と。

 

『次』が当たり前に存在するのが俺達で。

それがないのがせんちゃん――――現状は、そんな形が成り立っている。

 

「…………頂きます」

 

「好きに食べて」

 

同じように手を合わせ直し、今年最後の食事を取る。

 

舌に程よい熱さと塩っ気。

俺は何方かと言うと天モノ派閥で、汁につけてふやかして食うのが好きだったりする。

肉が好きな奴、野菜が好きなやつ。

色々いるけれど……大体が饂飩大好きで固まるんだよな、この辺りの住人。

 

普段ならとっくに寝ている時間だが――――まぁ、今日くらいは許されるか。

初詣は流石に朝起きてからになるけれど。

ずるずると啜りながら、そんな事を思う。

 

「あー、そうだ。 天理」

 

「んー?」

 

利き手が使えないのにも慣れたのか。

反対の手で器用に箸を使う銀の発言に、口の中を飲み干して答える。

なんでこうも上手く箸が使えるのに包帯とかは変なことになるんだろう、こいつ。

 

「新年になってからすぐにこういう話するの嫌だから、今聞いときたいんだけどさ」

 

「うん」

 

そんな前置き。

せんちゃんも髪を避けながらの食事だったのが、こちらへと目線を向け始めた。

上目遣いで、顔を伏しながら見るのに慣れていそうな感じ。

……まっすぐ顔見れたほうが好きなんだけどな。

 

「結局……お前、ワカ様とヒメ様の言ってたのやる気なのか?」

 

()()なぁ……一応、やるつもりではいるんだが」

 

湯気を辿り、頭上を見上げる。

 

つい先日話したばかりの、神を結わえるという対応策。

非難轟々であった中で、俺の意思を問うたのはそのちゃんとせんちゃん。

 

『てんくんのしたいようにすればいいと思うよ~?

 私は、それを応援したいかなぁ、って』

 

『……私は、まーくんの考えに賛同する。

 したいようにしなさい。 私達は、本来いない人間なんだから』

 

その何方も言っていることは同じで。

結局、今年一杯考えた上でどうするか決めると言い切って話を終えたのは良いんだが。

 

「するにしても、二人の事を知ってからにしたいんだよな……」

 

何か、いい方法はないものか。

 

名前しか知らない、遥か以前の少女二人。

その考えと、行動と、信念と。

何か知れる方法があれば――――。

 

「…………むぅ」

 

「なんだよ」

 

そんな思考から引き戻されたのは、頬を膨らませた銀の言葉で。

 

「そりゃぁ、お前なら助けられる相手は助けるよな。

 アタシだってそーするし」

 

「ならなんだよ」

 

びしり、と向けられた箸の先。

 

「…………そっちばっかり考えすぎないでほしいなぁ、って思うわけですよアタシは」

 

「…………分かった、分かったから箸を向けるのはやめろ」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとに」

 

軽口、けれどその奥の心は本物で。

無言で見詰め続けるもう一人も、その奥からは光が失われ始めているようにも思える。

 

「分かってなかったらまた布団潜り込むからな?」

 

「やめろばか」

 

そういう事言うと本気にするだろ、せんちゃんも。

 

――――そんな、昨年よりも少しだけ騒がしくなった。

年の瀬の思い出が、また一つ。




ぐんちゃん=寂寞
たかしー&■■■=仮面
おタマ先輩=強迫観念
あんずん=空想&不安障害
ひなたさん=空虚
若葉様=従属

大体西暦勇者達の想定です。 頑張れ天理くん。
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