葦原天理は巫覡である 作:氷桜
別の学校に通う、近所に住む異性の同年齢。
そう呼ぶのが一番分かりやすく、一面としてもそれが正しいと思うのに。
アタシにとって。
葦原天理という奴は、一言では言えない間柄の奴だと思う。
「で、今日は何する?」
「そーだなー……」
少しばかり青くさえ見える黒髪を短めに整え。
アタシとほぼ変わらない身長を持つ相手。
一歩だけ先を進む背中を見つめながら。
何となく、此奴と出会った頃を思い出す。
いつものように家の周りで探検……遊んでいた時。
ふらふらと何かを探しているような知らない顔を見つけた。
(…………あれ? 知らないやつ、だけ……ど……?)
その目の奥に、何か暗いものを感じ取ったのか……或いはアタシらしく、直感だったのか。
『何処行くんだ?』
『…………誰?』
『誰でも良いだろ。 何か探しものか?』
そんな形で話し掛けたのが切っ掛け。
最初は話すのさえ面倒なように押し黙っていたけれど。
そんな態度はグズった時の弟で慣れていたから。
しつこく話しかけていれば根負けしたように話し始めていた。
両親が事故で亡くなって、親類のいる此方に引っ越してきたこと。
顔も知らない相手で、相手も好んで引き取った訳ではなさそうなこと。
けれど下手に何かがあれば面倒だとばかりに遠出は禁止されていること。
そして、引き取った家が『葦原』だということ。
……アタシでも知っている名前。
いや、正確に言えばお父さんお母さんが口にしているのを聞いたことがある名前。
アタシ達の家、三ノ輪よりも大きな――――知る人は知る名前。
大赦の中に大きな力を持つ名家の中でも、特に目立つ二つの家の片割れ。
『乃木』と『上里』のうち、『上里家』の分家として存在している家。
神事を司る部門の準権力者(ってなんだか良く分からないけど偉そう)なんだとか。
そして、
曰く、『何を引き継いでいるのか分からない』。
曰く、『目的の為ならどれだけの時間を掛けても達成する』。
先代も、今の『上里』の家長……お婆さんの実の妹だったとかなかったとか。
それだけの、血の濃さを保つ家。
けれど、その時思ったのは。
(……味方、いないんだろうなぁ)
その後も、時間を見ては付き合いを続けていた。
(此奴も……神樹館入れば面白かったと思うんだけどなぁ)
アタシの視線を気にせず、色々な店舗を覗いては考え込んでいる背中を追いかける。
何故神樹館に入学しなかったのかは分からない。
何故付き合いを続けようと思ったのか、それも良くは分からない。
ただ、今こうして思うのは……案外悪いやつではないということ。
面倒くさがりながらも、アタシが何かをしようとすれば付き合ってくれるし。
困っていれば手を伸ばしてくるし……気だって使ってくる。
イネス巡りだって良くやるし、一緒にいて楽しいやつ。
学校の友達と遊んでいる時とも何かが違う、そんな相手。
だから、此奴は友達なんて一言の存在じゃなく。
だから、此奴は知り合いなんて遠くもなく。
「――――ん」
だから、アタシの考えは総じて”良く分からないやつ”。
そういう存在なんだと、そう思っている。
「銀」
「んお!?」
気付いたら声を掛けられていたらしい。
思ったより顔が近くにあって、大袈裟に下がってしまった。
「どーしたんだ、ボーッとして。 熱とか無いよな?」
「無いよ、無い無い。 さっき天理が考え込んでたのと同じ」
心配してくれる。
少しだけ気分を上向きにしながら、片手で違うとアピール。
「えー……人生について考えこむほど年寄りでもないだろ……?」
「自分で言っておきながらそう言い返せるのだけは凄いと思うぞ、天理」
でも、考え込んでいたのは同じでも内容まで同じとは言ってない。
思わず目を細めて睨めば、口元を小さく曲げて笑おうとしている。
口元だけを曲げる、少しだけ特徴的な笑い方。
何か……心でも護ろうとした結果なのか。
限界を超えて大笑いでもしないのなら、この妙な顔をする。
そして、それを天理自身は気付いていない。
そして、それをアタシは教えたことはない。
「冗談だよ冗談。 で、話の続きだけどこの後どうするんだ?」
「そーだなぁ。 まだ帰るには時間あるし……」
通路の真ん中ではなく、端側に避けて。
平日の夕方なのに、人足が途切れないイネスの中の片隅。
柱の傍で、そんなどうでもいい話をする。
「色々見てようぜ。 ゲームするにも中途半端だし」
「あー、だったらアタシクレーンゲーム見に行きたい」
鉄男への土産で取れるのがあれば取ってみたい。
ただ……あの手のはどうにも苦手なんだよなぁ……。
そして、それを知っているからこそ呆れた目で見てくるのも想定通り。
「何? また取らせる気か?」
「取れるなら」
「…………良し分かった、それが今日の勝負だな?」
「なんでも良いよ」
……そういえば、天理が勝負とか言い始めたのいつからだっけ。
そんなに昔じゃなかったと思うんだが、余り覚えてない。
「絶対負けねえ……!」
「そもそも気にいるのがなかったらやらなくていいからなー?」
勝手に意気込んで、先に進もうとした袖を掴みながら。
奇妙な状態で付いていきながら。
そんな状態に、少しだけ笑ってしまった。