葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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承-7

 

ある種定期的で、そして不定期に見る夢。

少なくとも週に一回、多ければ週に二三回。

 

その度にまず見るのは生け垣……緑の壁に鳥に桜の枝。

そして何も出来ずに見せられる光景。

繰り返し繰り返し見せられる末期の光景。

 

「ただ見せるだけなの、やめてくれないですかね……」

 

一度、そんな言葉を掛けたのは……何度目の来訪時だったか。

 

鳥は当然何も囀らず、首を右へ左へと動かして。

桜の枝を落としては啄み、また落とす。

 

その行動は、まるで何かを対話するか聞くかしている様子で。

或いは俺の動きを観察しているかのようで。

余り気分良くはないが、そういうものだと思って受け流す。

 

問題は生け垣の方。

 

無風の空間だった筈なのに、風が吹き。

それが()()()()()()()何となくの意思を理解させられた。

その湿度、強さ、当たる位置。

後は()()()()()()で言葉を作ろうともしているが、それはいまいち上手くいってはいない様子。

 

(……凄い湿ってる、で体全身、の覆うように。 『私だってそうしたい』か?)

 

ひょっとして神託の解読ってこんな感じなんだろうか。

ふと浮かんでしまったことに不思議と納得しながら、一方的に伝えるだけのような会話は続いていく。

 

「何で出来ないのか?」

 

――――『力が足りない』

 

「それはどういう意味で?」

 

――――『身体が死に続けているから』

 

「それを、俺は何とか出来ると?」

 

――――『精神としても、肉体としても』

 

大凡、一度やってきて会話ができるのは二往復か三往復。

 

だからこんな事を聞くのにも何度かの時間を掛け。

そしてそもそも気付くのが遅れた、というのもあり。

既に見始めてから、一月以上の時間を掛けている。

 

此方の想定として残されたのは後一月か二月。

微かに見えてきたのは神の事情と、()()()()()()()()

 

(……ヒメはああ言ってたけどさぁ)

 

慣れる、ということは出来そうにない。

ただ、それでも記憶/記録へは確かに刻んでいく。

だからこそ、気付けたというのもある。

 

来る度にちょっとずつ変わる、ってどういうことだ?)

 

例えば、吹き飛ぶ先。

例えば、繰り返される防御の角度。

例えば、例えば、例えば。

 

言い出せば切りはなく、そして自分でもそんな細かいところに気付く理由も分からないまま。

結果として、倒れた後――――空白、空虚のみを湛えていた視線が僅かに此方に向いている。

最初は偶然に、唯転がっていただけの筈なのに。

完全に繰り返されるその数瞬だけ、目が合っている感覚は確かにしている。

 

その目は確かに、何かを伝えたそうにしていて。

けれど黒い影が来ることで、世界は流転していく。

 

恐らくは植物で象られた、透明な壁越しに。

長髪の少女と、短髪の少女。

幾度となく末期を看取り看取った、奇妙な関係性は繰り返される毎に濃度を増していた。

 

『助けて』

『■■■だけでも』

『足りない』

 

何方も恐らく年上で。

せんちゃんの言うところのムードメーカー気質だった、短髪の少女はしかし。

抱くのは強い悔恨と、自分の身を投げ捨てようとする自己犠牲の精神を見え隠れさせ。

 

『助けて』

『腕だけでも』

『もっと、私が――――』

 

そんな彼女に護られながら、腕を腐食させた長髪の少女こそは。

微かな救いの願いと、自分を強く責め立てる感覚を見せ始めている。

 

(……というより、多分二人の考えはどっかで混ざってるんだろうな)

 

目だけで理解できる、出来てしまう。

言葉にしていないのに分かってしまう、というのは多分夢だから。

正しくは俺がそう認識している、というだけなのだろうが。

神に導かれた結果此処にいる、という以上……魂は引っ張られていると考えて良いのだろう。

 

手を伸ばそうにも、その手は決して交差しない。

けれど、透明の壁は少しずつ薄くなっている感覚はある。

突破できる――――()()()()()()()、という確証を抱えたまま。

ただ、互いに『其処にいる』事を認知し合う関係性。

『助け出そうとしている』事を、理解する関係性。

 

(精神を助け出す……ってのは、希望を見せるって意味でもありそうだな)

 

無論、それが欠ければ一気に沈む諸刃の剣。

ただ、それでも数百年にも渡って繰り返されてきたのだろう苦痛。

 

意識が浮かんでは沈み、恐らくはっきり覚醒したのは俺が二柱と出会ってから。

或いはその後、繋がりを持つせんちゃんを()()()()()()()()()()()

 

僅かな時間保たせれば良い、という考え方は余り好きではないのだけど。

逆に言うなら……そうするしかない、というのなら頷く他の選択肢も欠け落ちている。

 

「…………」

 

彼女達に掛ける言葉は……正確に言えば掛けられる言葉はない。

何を伝えても届かず、何を言っても覚えておらず。

無限回に繰り返し苦痛を味わうそれの何億分の一程度は僅かに、俺も実感しているから。

 

あるはずのものが失われる。

幻肢痛に苛まれ、言葉も漏らせず、生きる為の当たり前の器官さえも停止するような感覚。

死の直前であればある程に、自分の内面に向いてしまう筈の感覚。

それを……彼女達は外へ。

 

互いの相棒へ、そして俺へと向けて微かに呟き微笑(わら)うのだ。

 

そうするしかない、それ以外に何も出来ず。

ただ、僅かな願いを込めて。

 

だからこそ、もうその光景から目を逸らせない。

木の壁へと祈りを捧げ、彼女達へ祈り、そして見届ける。

 

こんな僅かな行為が、何の意味を成すのかは分からない。

ただ、それでも――――。

 

微かな変化と、気付けば彼女達へ入れ込んでいる自分がいることにも気付いて。

今日もまた、最後の死を見届けた。




・「神」の目線の一部を継承している。
・「助けたくなる」「助けてしまう」精神の一部を理解している。

・そしてそれは、彼女達の目線からも同じ。
・互いに互いへ影響を与えてしまう事で、精神にも影響を及ぼす。
・知らない? いいえ。 俺/私は知っている。


・段々と煮詰まっていく感情の根底理論。

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