葦原天理は巫覡である 作:氷桜
「………………る?」
上に重み。
それも唐突に加わったような違和感。
「………………わよ」
ひそひそと聞こえるのは……声、だろうか。
ゆっくりと意識が浮上していく。
「天理、起きられる?」
「だから銀ちゃん、無理に起こすと危ないわよ」
揺さぶられながら、さっき問い掛けていたらしい言葉をもう一度。
上に乗る形で跨っているから、まず最初に視界に入ったのは銀の姿。
逆光越しに……恐らく呆れているのはせんちゃんだろうか。
朝に弱い彼女も一緒にいるのはかなり珍しく。
微かに漂うのは朝食には不向きな甘い香り。
「…………起こされたよ」
「お、起きた」
目を擦りながら起き上がろう……として、丁度腰を占領されていて動けない。
そしてその場所は割と最悪ではあるのだが、顔には出さないように気を使う。
絶対気まずい何かにしかならねえ。
「おはよ……今何時だよ」
「おはよ。 今? 七時くらい」
「普段よりぐっすりだったわね」
「そりゃ昨日寝るのが遅かったし……逆に二人は良く起きられたな」
基本一日六~七時間くらい寝ないと寝た気がしない。
まだ子供っぽいのが原因なのか、それともそういう体質なのか。
まあ、普段起きる時間より遅いのは確か。
「そりゃ起きるよ。 ですよね、千景さん」
「…………私も起こされた側だから、何とも言えないかな」
「あれぇ!?」
こうしていれば以前と何も変わらない。
やはり変に気を使われるよりも普段通り、以前の通りにしてくれるのが嬉しいらしい。
多分、それは今の家族との距離感もあるんだろう。
文章とか電話越しなら普通にやり取りできるっていうんだから、本当に問題は目線か。
「取り敢えず、俺起きられないから移動してほしいんだけど」
「へっへっへ……」
「いやなんだその笑い方。 似合わねえ」
「そう言うなって」
いや、どう言えって話だよ。
含み笑いと言うか忍び笑いというか、何か企んでいる時の笑い方。
そのちゃん辺りから余計なこと学んでないか?
ただ、微かに感じたのはその言葉の奥にある黒い粘着き。
「……まーくん」
「?」
その正体に気付く前に。
今は銀ちゃんの番だ、と言い放つ。
「先に謝っておくわ。 多分、
「え、何その怖い前振り!?」
しかも全く申し訳ないと思ってない。
目だけは一切笑わず、口元だけを小さく笑わせている。
「天理が悪いんだぞー」
「何がだよ!?」
自由に動く手の届く範囲に置いていたのか。
何かの箱上の物を手元に引き寄せ、胸の上に置かれる。
……妙に甘い香り。
ひょっとして、服だけじゃなく枕元に置いてたから香りが届いたのか?
「
多分、その目線はいつかのもの。
距離を置く切っ掛けになった、あの時の潤んだ瞳。
「私も事情は聞いたし、二人の意見はどっちも分かるけれどね。
ただ……まーくん」
「はい」
動揺している合間に呟かれる言葉。
反射的に頷きながら、脳裏に浮かぶのは多大な混乱。
別の女の子の事で叱られるの、普通につらい。
しかも見下ろされている、というこの状態なのもあって余計につらい。
「……女の子だって、急に不安になるのよ?」
私だって――――そんな言葉は口の中に消え。
けれど、確かに耳に届いた。
「だからさ、昨日四人で話し合った」
「何を……何を!?」
「天理に前言撤回させる方法」
箱の中から取り出された茶色の物体。
恐らくは手製だろう、一口大には大きなチョコ。
当たり前のように四人、という言葉が出る状態。
本来なら有り得ない、有り得てはいけないのに。
その目には、真剣なものしか含まれておらずに。
それを手で摘み、俺の唇に挟み込み。
そのまま凭れ掛かるように上半身が倒れ込んでくる。
「ん」
微かに差し込む日光。
顔が赤くなったそれを目に映しながら。
何も出来ないまま、それを眺め続け。
チョコの反対側に、銀の唇が挟み込まれた。
「…………!?」
舌に微かに触れるのは少しだけ硬質な実の味。
胡桃か何かだろうか、ざらつく感触と仄かな甘味。
それが舌で溶けるのと合わせて、目上からも垂れ落ち口周りに落ちる。
かり。
かり。
かり。
少しずつ、少しずつ。
その顔は此方へ近付いてくる。
目も逸らせず。
確実な、何かの覚悟を持って。
かり。
多分…………触れた、ような気が、する。
それが確実視出来ないのは。
その瞬間に追い遣るようにして身体を弾き飛ばしてきたから。
片手で元の体勢に戻りながら、先程より明らかに顔を真っ赤に染めている。
「…………」
「……………………おい」
多分、俺も同じような顔色だと思う。
微かに残っていた眠気なんてものは消し飛び。
舌に残った甘さが。
口周りに垂れ落ちて、けれど迂闊に拭く気にもならない溶け落ちた液体。
口元を覆いながら、視線を逸らして小さく言葉を漏らした。
今のそれが
或いはならないのか。
頭の中でぐるぐると周り続け、答えは浮かばない。
ただ、今はっきりしているのは。
答えをきちんと示すこと。
先延ばしにしていて。
けれど、卒業した時にはきちんと態度で示そうと思っていたこと。
――――全員が全員、いつ死ぬか分からない事を知っている。
事故なんかよりも遥かに高い可能性で。
背負うのは、自分の命だけではないのだから。
「……」
「っと、てん、り?」
一度、勢いをつけて起き上がろうとし。
地面に付く瞬間の反動を利用して、無理に起き上がる。
ほんの少しだけ、銀の位置が足元側にズレ。
だからこそ上半身を完全に起こすことが出来たから、目の前に彼女の顔がある。
「て――――」
両頬を抑え、動けないように固定した。
それだけで何が起きるか予想できたように、顔の色が更に真っ赤に染まって。
――――唇に、再びにチョコの味と熱を写し取る。
「…………これで、ちゃんと、したぞ」
したかどうか曖昧に、逃げられるようにせず。
互いに初めてを奪い合った、と呟けば。
「………………ばか」
甘味が、体温で更に溶け。
それを、再びに二人で含むように重ねていた。
・元々卒業したらしようと思っていたのに。
・自分を抑えきれずに、少女達は決意した。
・この辺の出来事踏まえた上でゆゆゆいやったら大惨事ですよね。
・どっかで希望があればifで書こうかな。
・一応分類小学生側でいいんだよな……?
次のメイン砂糖回誰にしようか案
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