葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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年貢の納め時@銀。


承-9

 

「………………る?」

 

上に重み。

それも唐突に加わったような違和感。

 

「………………わよ」

 

ひそひそと聞こえるのは……声、だろうか。

 

ゆっくりと意識が浮上していく。

 

「天理、起きられる?」

 

「だから銀ちゃん、無理に起こすと危ないわよ」

 

揺さぶられながら、さっき問い掛けていたらしい言葉をもう一度。

 

上に乗る形で跨っているから、まず最初に視界に入ったのは銀の姿。

逆光越しに……恐らく呆れているのはせんちゃんだろうか。

 

朝に弱い彼女も一緒にいるのはかなり珍しく。

微かに漂うのは朝食には不向きな甘い香り。

 

「…………起こされたよ」

 

「お、起きた」

 

目を擦りながら起き上がろう……として、丁度腰を占領されていて動けない。

そしてその場所は割と最悪ではあるのだが、顔には出さないように気を使う。

絶対気まずい何かにしかならねえ。

 

「おはよ……今何時だよ」

 

「おはよ。 今? 七時くらい」

 

「普段よりぐっすりだったわね」

 

「そりゃ昨日寝るのが遅かったし……逆に二人は良く起きられたな」

 

基本一日六~七時間くらい寝ないと寝た気がしない。

まだ子供っぽいのが原因なのか、それともそういう体質なのか。

まあ、普段起きる時間より遅いのは確か。

 

「そりゃ起きるよ。 ですよね、千景さん」

 

「…………私も起こされた側だから、何とも言えないかな」

 

「あれぇ!?」

 

こうしていれば以前と何も変わらない。

やはり変に気を使われるよりも普段通り、以前の通りにしてくれるのが嬉しいらしい。

多分、それは今の家族との距離感もあるんだろう。

 

文章とか電話越しなら普通にやり取りできるっていうんだから、本当に問題は目線か。

 

「取り敢えず、俺起きられないから移動してほしいんだけど」

 

「へっへっへ……」

 

「いやなんだその笑い方。 似合わねえ」

 

「そう言うなって」

 

いや、どう言えって話だよ。

含み笑いと言うか忍び笑いというか、何か企んでいる時の笑い方。

そのちゃん辺りから余計なこと学んでないか?

 

ただ、微かに感じたのはその言葉の奥にある黒い粘着き。

 

「……まーくん」

 

「?」

 

その正体に気付く前に。

今は銀ちゃんの番だ、と言い放つ。

 

「先に謝っておくわ。 多分、()()()()()()()()()()()()()()

 

「え、何その怖い前振り!?」

 

しかも全く申し訳ないと思ってない。

目だけは一切笑わず、口元だけを小さく笑わせている。

 

「天理が悪いんだぞー」

 

「何がだよ!?」

 

自由に動く手の届く範囲に置いていたのか。

何かの箱上の物を手元に引き寄せ、胸の上に置かれる。

 

……妙に甘い香り。

ひょっとして、服だけじゃなく枕元に置いてたから香りが届いたのか?

 

()()()()()()()()()

 

多分、その目線はいつかのもの。

距離を置く切っ掛けになった、あの時の潤んだ瞳。

 

「私も事情は聞いたし、二人の意見はどっちも分かるけれどね。

 ただ……まーくん」

 

「はい」

 

動揺している合間に呟かれる言葉。

反射的に頷きながら、脳裏に浮かぶのは多大な混乱。

 

別の女の子の事で叱られるの、普通につらい。

しかも見下ろされている、というこの状態なのもあって余計につらい。

 

「……女の子だって、急に不安になるのよ?」

 

私だって――――そんな言葉は口の中に消え。

けれど、確かに耳に届いた。

 

「だからさ、昨日四人で話し合った」

 

「何を……何を!?」

 

「天理に前言撤回させる方法」

 

箱の中から取り出された茶色の物体。

恐らくは手製だろう、一口大には大きなチョコ。

 

当たり前のように四人、という言葉が出る状態。

本来なら有り得ない、有り得てはいけないのに。

その目には、真剣なものしか含まれておらずに。

 

それを手で摘み、俺の唇に挟み込み。

そのまま凭れ掛かるように上半身が倒れ込んでくる。

 

「ん」

 

微かに差し込む日光。

 

顔が赤くなったそれを目に映しながら。

何も出来ないまま、それを眺め続け。

 

チョコの反対側に、銀の唇が挟み込まれた。

 

「…………!?」

 

舌に微かに触れるのは少しだけ硬質な実の味。

胡桃か何かだろうか、ざらつく感触と仄かな甘味。

それが舌で溶けるのと合わせて、目上からも垂れ落ち口周りに落ちる。

 

かり。

かり。

かり。

 

少しずつ、少しずつ。

その顔は此方へ近付いてくる。

目も逸らせず。

確実な、何かの覚悟を持って。

 

かり。

 

多分…………触れた、ような気が、する。

 

それが確実視出来ないのは。

その瞬間に追い遣るようにして身体を弾き飛ばしてきたから。

片手で元の体勢に戻りながら、先程より明らかに顔を真っ赤に染めている。

 

「…………」

 

「……………………おい」

 

多分、俺も同じような顔色だと思う。

 

微かに残っていた眠気なんてものは消し飛び。

舌に残った甘さが。

口周りに垂れ落ちて、けれど迂闊に拭く気にもならない溶け落ちた液体。

 

 

 

 

口元を覆いながら、視線を逸らして小さく言葉を漏らした。

 

今のそれが()()()()、になるのか。

或いはならないのか。

頭の中でぐるぐると周り続け、答えは浮かばない。

 

ただ、今はっきりしているのは。

答えをきちんと示すこと。

 

先延ばしにしていて。

けれど、卒業した時にはきちんと態度で示そうと思っていたこと。

 

――――全員が全員、いつ死ぬか分からない事を知っている。

 

事故なんかよりも遥かに高い可能性で。

背負うのは、自分の命だけではないのだから。

 

「……」

 

「っと、てん、り?」

 

一度、勢いをつけて起き上がろうとし。

地面に付く瞬間の反動を利用して、無理に起き上がる。

 

ほんの少しだけ、銀の位置が足元側にズレ。

だからこそ上半身を完全に起こすことが出来たから、目の前に彼女の顔がある。

 

「て――――」

 

両頬を抑え、動けないように固定した。

それだけで何が起きるか予想できたように、顔の色が更に真っ赤に染まって。

 

――――唇に、再びにチョコの味と熱を写し取る。

 

「…………これで、ちゃんと、したぞ」

 

したかどうか曖昧に、逃げられるようにせず。

互いに初めてを奪い合った、と呟けば。

 

「………………ばか」

 

甘味が、体温で更に溶け。

それを、再びに二人で含むように重ねていた。




・元々卒業したらしようと思っていたのに。
・自分を抑えきれずに、少女達は決意した。

・この辺の出来事踏まえた上でゆゆゆいやったら大惨事ですよね。
・どっかで希望があればifで書こうかな。

・一応分類小学生側でいいんだよな……?

次のメイン砂糖回誰にしようか案

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