葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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@そのっち


承-10

 

心臓が跳ね跳んでいた。

一回一回の鼓動が妙に煩く、口や目から飛び出しそうな。

全く持って落ち着いてなんていられない感情。

 

激情、とでも呼ぶのが正しいのか。

 

多分正の感情と負の感情が混ざったモノ。

喜びと、反省と。

自分を責め立てるものと、喜びを分かち合うものと。

 

そんな物を抱えながら、努めて平気な顔を作って家を出た。

 

『…………もう、むりぃ』

 

『二人も待ってるでしょうから行ってきなさい。 私は最後でいいわ』

 

同じように顔を深紅にまで染めた銀は脚が立たないようで崩れ落ち。

貸し一つ、とでも言いたそうな表情で見送られ……家を出たのはあの後約十分程後。

精神的に落ち着くのが手一杯で全然確認していなかったが、端末に連絡が届いていたらしい。

 

『家でお待ちしています』

 

『駅前にいるよ~』

 

それぞれが求める時間帯が違うのは……予め示し合わせていたからか。

にしてはそのちゃんは”もういる”とでも言いたそうなスタンプ付き。

例の平たい猫……サンチョの表情が読めないスタンプは彼女が特に好んで使うもの。

 

(…………いやいやいやいや、本当に良いのか?)

 

身体と精神が合致しない。

示された場所、時間に向かいながら。

先程自分がしでかした行為を思い出し、顔を伏せて熱を帯びる。

 

『…………?』

 

朝方とは言え、すれ違う人は怪訝そうな表情を浮かべるか。

或いは変な深読みでもしたように小さく笑って去っていく。

違う、と言いたいが間違っていないこの矛盾。

 

(甘かった……じゃなくて! ()()()()()()()()()って言ってたよな!?)

 

感想を思い出し、唇に指を当て。

そうじゃない、と大きく首を振って言い残した言葉を浮かばせる。

 

つまり、全員が何をするか――――或いはその先を考えている、ということで。

 

「てんく~ん」

 

「うぉっ!?」

 

予想外の方向から……背中側から急に声がして。

ハッと顔を持ち上げた所、背中に衝撃。

危うく転びそうになり、近くの電信柱に手を掛けてしまった。

 

「あ、ごめん」

 

「いや……完全に転ばなかったら良いけど……」

 

胴体……腕の下辺りに手を回し、抱き着く。

身長差、というよりは彼女がそれを狙ってそうしたと言ったほうが正しいか。

確かに身長は伸び続けているけれど、それでもまだ160にも届かないくらいだし。

 

一度手を離して貰い、手に付いた汚れをはたき落とす。

幸いなことに怪我などをしたわけでもなく、衝撃で少しだけ脳がまともになった。

 

「で……おはよう、そのちゃん」

 

「うん、おはよ~」

 

改めての挨拶。

ほにゃり、と顔を崩す金髪の少女。

そうしている方が、俺としても嬉しいし好き。

 

「約束より……早いよね~?」

 

「それを言ったらそのちゃんだってそうじゃん」

 

「だってほら……ね?」

 

言わせないでよ、と小さく漏らす。

確かに街中は奇妙な音楽と、それに合わせての大安売りと評した店頭販売が多い。

だが、彼女が言いたいのはそういうことじゃないというのは分かっていて。

自然と、無意識に乾く唇を舐めてしまう。

 

()()()()()()()()()()し、ね」

 

ボソリ、と呟かれた言葉に声を出そうとして。

妙に引き攣った声だけが漏れた。

 

「え゛?」

 

「そういうルールだから~」

 

隠している、とかそういう疚しい訳でもなく。

全員にそれを告げた上で、この奇妙な関係は成り立っている。

それは分かっているが、こうも堂々と言われると心臓がキュッとなる。

 

……完全に止まるような、あの時の衝撃ほどではないが。

 

「それでね、それでね」

 

「あ、はい……」

 

「おねがい、きいてくれる?」

 

拒否権はなく。

彼女に引かれるように付いていったのは、文字通りの駅前。

少しだけ広場になっていて、待ち合わせなどで利用されたり移動販売が出ていたりする場所。

其処が丁度見えるような、木の陰だった。

 

「此処?」

 

「うん」

 

ちょっと考えはしたんだけどね~、なんて。

腰に付けていた小さなバッグから取り出したのは、小さなリボンが付いた紙製の箱。

今日という日を前提する、贈り物らしい物体。

 

「体験してみたいんよ」

 

「何を?」

 

お話の、主役の気分

 

決してそれだけではないだろう。

ただ、それを舌に載せる勇気がない。

或いは――――載せられる理由に乏しい。

 

多分、それは俺か彼女に。

子供だから、という言葉が乗るのと似たような理由で。

 

「どんなの?」

 

だから、それに乗る。

手渡してくれるのを待ちながら、彼女の考えに問い掛ける。

 

「…………好きな人から、…………して貰った、時、とか?」

 

彼女が小説を趣味としていて、ネットで載せているのも事実。

それなりの人気を誇る作家であるのは間違いなく。

俺も誤字のチェックなどを兼ねて先に読ませて貰ったりもする中で。

時折見かける、粗探しのような感想。

 

『関係性が子供っぽくない?』

『キスされた時はこんな気分じゃなかった』

 

実際にされたことあるのか、と問うのは置いておいて。

事実、まだしたことはない――――筈、だ。

だから、ある意味では事実であり。

ある意味では、それは求める理由になるけれど。

 

「……ねえ、そのちゃん」

 

「ん~?」

 

「……ちょっと、我儘言って良い?」

 

銀から求められ、ある種の一線を越えた上で。

同日に、なんてことが許されるとは思えないけれど。

色々と理由をつけるより――――彼女には、唯喜んでほしいから。

 

「どんなの?」

 

「……そこで、動かないでね?」

 

寒さ対策のフードをもう一度しっかりと片手で抑え。

へ、と言葉が漏れるその顔に。

顔を横から近付け、唇を攫う。

 

他から見れば、多分一瞬で何をしたか分からずに。

けれど、俺達からすれば妙に濃厚な数瞬にも感じる行為。

 

「へ………………ぇ、い、ま?」

 

目を見開き。

少しずつ、今の感覚と受けた衝撃を噛み締めているのを感じる。

 

「…………卒業したら、良さそうな場所でしたかったんだけどさ」

 

それも駄目になってしまった以上、少しだけ驚かせてやった。

元々そっちが先に考えたことで……とまでは言わなくとも。

心臓が跳ねていることは、彼女とも同じ。

 

大事なものを、奪い去った。

 

「どうする? お嬢様」

 

以前に読んだ、彼女の小説の一文を引用しながら。

気取ることで、緊張感を心の底に沈める。

 

「贈り物と引き換えに、俺の時間……買う?」

 

あの話は、男装の麗人だったけれど。

そのままを利用して聞けば。

 

――――少女が頷くのも、ほんの少しの時間が経ってから。

 

「私という贈り物を捧げます。 代わりに、貴方の時間を下さい」

 

話に乗っかるように。

目の端に、水滴を浮かべながら。




・わっしー→ぐんちゃん→クライマックス。
・こいつ破裂しないかな。

次のメイン砂糖回誰にしようか案

  • わっしー
  • 銀ちゃん
  • そのっち
  • ぐんちゃん
  • 国土さん
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