葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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時折一気に時間が飛んだりしますが仕様です。


序-6

 

じりじりと、蝉の絶命間際の声が聞こえる。

夕方なのに、まだ熱が残っている気がする。

 

「しかし……銀」

「ん?」

 

いつものように、ヒメとワカの()()から逃れられた夏の夕方。

(頭に葉っぱをくっつけたままの)銀と合流し、いつも通りに遊んだ帰り道。

 

「本気でそれで良かったのか……?」

「えー、良いじゃん。 座り心地は良さそうだし」

 

クレーンゲームの景品。

なんか猫みたいな、変な生物のクッションを両手に抱えつつ。

少しだけ弾むような声で喜びを表している。

 

「いや、もう少し選択肢はあったと思うっていうか」

「煮え切らないなー……結局、何?」

 

ちらちらとそれを見て思う。

 

…………あれ、何の生物なんだ?

そもそも今まで見たこともなかったのになんで急に置かれてるんだよ。

気にしすぎてるのは俺だけなのか?

 

「……言っても怒らないか?」

「事と次第だな!」

 

因みに言わなければ本気の怒りをぶつける、と妙な構え。

でもクッションを持っているから構えが成立してない。

それで叩かれても柔らかさを感じるだけだと思うぞ。

 

「……普段のお前からするとなんか似合わぶわっ」

「そういう事! 黙っておけよ!」

「言っても怒らないってぶふっ! やめろ何も言えないから!」

 

結局言っても怒るんじゃねえか!

それと、痛みは全くないが……顔が覆われると言葉が封じられるのが面倒。

ゲームセンターの景品にしてはかなり柔らかい素材を使っているんだろうか。

 

「………………か?」

「ん?」

 

はぁはぁ、と息を吐いた後。

ぷるぷると震えながら何かを呟いているように聴こえ。

これ以上怒らせないようにしないとな、と思いつつ聞き直す。

 

「そんなに、似合わないか?」

 

そう零しながら。

目線を伏せてしまった、銀。

 

……あー。

ちょっと予想外の刺さり方したのか?これ。

俺としては冗談十割のつもりだったんだが、ほっとく訳にも行かない。

恥ずかしさ、というのは勿論あるが……。

 

帰宅途中、夕焼けの中。

足を止めた銀に付き従って、俺も足を止め。

()()()()()()()()()()()()()、彼女の肩に手を当て。

目線を向けさせた上で改めてちゃんと答える。

 

「言っただろ、()()()なら、って」

 

返事はない。

先を促すような態度。

何故か緊張感のほうが目立つ。

 

「……銀が普通にしてる時だと少し違和感がある、けど」

「…………けど?」

 

何故、此処まで気にするんだろうか。

 

確かに女の子ではあるが、何方かと言えばムードメーカーや頑張り屋と言った評価。

学校帰りに偶に見かける事もあったが、その際も誰かを引っ張るというイメージが強く。

当人から聞く話にしろ、()()()()()()()()、とかいう話も混じっているし。

余り気にする方ではないと思っていたのだが。

 

「時折見せる態度とか、今みたいな状態なら似合ってると思うぞ」

 

普段とは違う、元気な奴の女の子らしい一面。

こうしてみると、ちゃんと女の子なんだよなぁと理解できる。

そりゃ人気も出るしファンも出来るわ。

 

……まあ、この辺は俺の思い込みを思案に入れた上でだが。

イネスでたまに銀のことを追いかけてる年下とか同学年っぽい神樹館の生徒見るからな。

そして、俺が近くにいることに首を捻るか何か言ってくるかまでがセット。

 

「……ほんとか?」

「こんな事で嘘言ってどーすんだよ」

 

そんなにクッション潰しながら言わなくても良いと思う。

 

何ていうか、あー。

口にしたくない、すっげえ恥ずかしい。

相手は()()()()()()だって分かってるから余計に言いたくない。

夕焼けの照り返しのせいで顔も真っ赤に見えるし、変なことを言ってる気分になる。

…………いや、十二分に言ってるか。

 

「出来れば」

 

そんなことを思いながら。

思わず、口にしていた。

 

「他のやつの前では、見せてほしくはねーけどな」

 

そんな、ポロリと漏れた本音。

或いは世迷い言。

普段と違いすぎる姿を見てしまったからこそ、出てしまった言葉。

 

「……へ?」

「帰るぞー、弟が待ってるんだろ?」

 

きょとん、とした表情を浮かべる銀とは目線を合わせず。

口調を落ち着かせ、普通の態度と思わせながら先に歩き出し始める。

……今は、隣り合って歩きたくない。

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

「いーや、待たない」

 

絶対に追いつかせてたまるものか。

 

やや小走りになって逃げ始める俺。

その後を慌てて追いかけてくる銀。

 

……だが、悲しいかな。

身体能力という面でも、俺は此奴に勝てなかったりする。

 

「と、まれ!」

「あっ、ぶ、ねえだろ!?」

 

ほんの少しの短い距離の徒競走。

けれど追いつかれ、袖を掴まれ転びそうになる。

それを好機と見たのか、思い切りぐいと引っ張られ。

反動で、直ぐ目の前に銀の顔が近付いていた。

 

「…………」

「…………なんだよ」

 

じりり、じりり。

蝉の声。

誰も通り掛からない――――誰かが通り掛かってくれることを、微かに祈る。

 

余計なことを。

変なことを、更に口走ってしまいそうだから。

 

「ほんとか?」

「なにがだ」

 

少しだけど、走ったから熱のせい。

夕焼けの照り返しのせい。

互いの顔が赤いのは、そんな理由に決まってる。

 

「他のやつに、見せたくないって」

 

――――その時の、銀の顔は。

泣きそうにも、笑っているようにも見えた。

 

「…………」

 

静かに、一度頷いて。

ほんの少しの間だけ、互いに動けずに。

その場で、変な体勢のまま……互いの目を見つめていた。

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