葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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後半部想定イメージ曲:アイの庭/Duca


承-16

 

地面に脚が付いた、と感じた時。

自分の中の異質なものが流れ出す感覚が走った。

 

同時に肌に走ったのは、炙られるような熱の痛み。

 

左腕……いや、左手と左肩か。

激痛とともに動かなくなる錯覚。

 

咄嗟に叫びそうになり、唇を強く噛み締めて言葉と意識の喪失へと抵抗する。

 

「行くわよ、後輩」

 

「分かってるんよ、ちーちゃん先輩」

 

一歩――――或いは数秒。

 

俺が飛び込んだから、彼女達の内側へ繋がったからこそ引き込んだ二人の声がする。

その姿は、頭上の光が逆光となって追い掛けられず。

ただ、俺の中で失われた何かを持っていったのは二人だと認識して。

 

「生身だと、こんな感じなのね」

 

とさり、と近くに美森ちゃんが落ちたのを自然と追い掛けていれば。

 

「「満開/七人御先」」

 

そんな声が遅れて聞こえる。

 

空中で互いに蹴り合いながら、その反動を利用して戦場を飛ぶ姿を理解する。

影が光に追従し、その姿に付き従い。

 

気付けば、担っていたのは槍の周りに纏った幾つかの小型機。

気付けば、黒髪の……儀式装束に見える少女が七つに増えて動き出している。

 

「後輩、弾くのは任せるわ」

 

「はいはい、早く助けてね~」

 

七人御先。

本来は海に伝わる、『七』という数を永遠に護り続ける怨霊。

一度引き込まれれば、自分の代わりになる存在を引き込むまでは成仏さえ出来ない悪霊。

 

その名を持つ精霊を身に纏い。

けれど、神樹を介すわけではないから正しい力は発揮せず。

本来は扱えるはずのない、最新のシステム……『満開』を擬似的に俺が模倣することで、当時の強さを取り戻す。

 

武器のみを鍛え上げ、防御面は一切考えていなかった先代のモノでなく。

防御面にも割り振り、その衝撃を精霊――――引いては神々、俺などの巫が引き受ける状態。

文字通りの一蓮托生として。

巫女が、どれだけ望んでも出来なかったことを……今、こうして実現している。

 

振り下ろされる、俺の目に捉えきれない速さの一撃。

ぎしり、と聞こえる異音は恐らく盾が上げる最後の悲鳴。

 

(……あの場で見てた光景より、明らかに早い)

 

つまり、俺の目で追える程度にあの壁が遅らせていたということか。

……神の能力は、いまいち理解できないものが多いけれど。

 

「よ~い、しょ~!」

 

ミノさんがいれば楽なのにー、という悲鳴とともに。

蠍の尾を横から弾き飛ばし、それに合わせて盾の表面を擦りながら地面へと突き刺さる。

砂煙、なんて言葉では済まない大きな地震が地面伝いに届き。

 

「まーくん、二人連れてきたわ」

 

倒れ伏した二人を担いだ()()が目の前に現れる。

 

こうしてみると、七人の本体を持つ……という言葉の通りだと感じる。

一切の違いがない、せんちゃんが二人。

考えも動作も同じで、操作できるなら……なんて他愛もない想像を浮かべつつ。

 

「うん、ありがと」

 

「無理はしないでね、この辺りに私を一人置いておくけど」

 

ぶらり、と垂れ下がるだけの腕を無視して言葉を交わし。

戦場へと戻っていく背中を追うことはせず……倒れ伏した二人へと目線を向ける。

 

「……私は、何をすればいい?」

 

「楽な姿勢を作って上げて」

 

流石に怪我人……それも死に限りなく近い相手とは言え。

女性の肌に迂闊に触れるのは色々と不味いと思う。

 

なので、丁度手前にいた側の少女……長髪の、恐らく伊予島さんの対応をする間。

もう一人、土居さんの対応を美森ちゃんにお願いする。

 

左腕が青白く、青黒く。

なにかに内側から汚染されていることが目に見えて分かる光景。

ひゅーひゅーと呼吸をしながら、目が虚ろになりながらも。

それでも、一心に眼前を捉えようとする姿。

 

俺が教えられた、死に抗うという感情。

彼女の願いを叶える為にも。

俺の、僅かな希望を叶える為にも。

 

「もし、俺が倒れたとしても……無理矢理にでも神具に触れさせてね。 美森ちゃん」

 

どれだけ消耗するのかが読めない。

神も、それを扱う勇者も極限状態だからこそ。

最悪、俺自身が死ぬかも知れないとしても。

 

「…………分かりました」

 

その意志を汲んでくれると信じて、右腕の弓矢へと右手を重ねた。

 

 

 

 

『私が、もっと強ければ』

 

(――――寒い)

 

『私が、もっと動けていれば』

 

体の芯を凍らせるような寒さ。

吹雪の中で、濡れた身体で立ち尽くすような不安感。

周りには誰もいなくて、只々自らを氷像と化すような叫びの声がする。

 

『私が、気付いていれば――――タマっち先輩だけでも、無事に済んだはずなのに』

 

幾度か、途切れ途切れに聞いた声。

 

助けを求めている。

けれど、その奥にあるのは自分へと向けられる責め苦。

 

()()、ではなく。

()()()()()、と延々と自分を許せない感情で凍えていく。

 

『だから…………先輩を、助けて』

 

それは違う、と決して言い切れない。

 

その場に立っていたわけでもなく。

その状況を後追いで知っただけの俺には。

見ていることしか出来なかっただろう俺には、特に。

自分を責める感情の重さは、十二分に伝わってしまう。

 

(……でも)

 

こうやって耐えていた――――完全に精神を沈ませることはなく。

自分が死んでしまえば、相方も死ぬと本能的に理解していたから。

生き恥にも似た、強い後悔が彼女達を生かし続けていたのなら。

 

「先輩。 そう思い続けるなら……生きて下さい」

 

その為に、捧げる必要があるなら捧げよう。

この肌に宿る熱を、身を、呪いを。

生きるのに、理由が必要だというのなら。

 

「――――生きる理由が見つかるまでは、支えますから」

 

足下から熱が、空間に伝播する。

目眩と、吐き気と、合わせて動悸。

只々立つことさえも難しくなるほどに、精気を熱へと変えて神具に伝える。

 

「死なないで下さい。 …………貴方自身の為にも」

 

俺の我儘の為にも。

 

一度、大きく。

()()()()()()()()()()()()()()

それを契機に、彼女の心へ熱を伝える。

 

「例え、自分で望んだのだとしても……俺は、もう。

 目の前で誰も死んでほしくないんです」

 

冷気を、熱が覆い隠した。

熱が、冷気によって覚まされた

 

目の前の、吹雪の中で横たわった肢体に熱が灯り。

別の方向へと流れる力が、燃え盛った肢体から熱を抜く。

 

同時に失われていく、生きるために必要な何か。

再びに、何かが――――吐き気が急に増し、立てなくなったから多分耳か。

 

声が遠くなり、腕が意味を成さず。

そんな、贄の役割を背負ったままで。

 

腕の色が、元へと戻り。

肌が白さを取り戻し。

ゆっくりと、目を開けるまで……その空間で、立ち尽くしていた。




・タマっち先輩とあんずんって能力的にも存在的にも対なところあるよね。

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