葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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鋪-9

 

――――微かに。

花の香が漂う夢を見た。

 

それが何なのか。

其処が何処なのか。

今の俺には判断する基準も、理性もない。

 

ただ、眺めるだけという意味で。

いつかに神に招き入れられた夢と同じだと、そう錯覚する。

 

少しばかり離れたところで。

薄く、蒼い花が一輪。

花弁を数枚のみ遺し、けれど残っているのが見えた。

 

自身の両手足を、鎖――――だろうか。

雁字搦めに縛り上げた上で、岩に括り付けられている少女の姿。

その姿は、何処か愛する少女の一人の面影を残す。

 

その姿を前に、白襦袢に身を包む少女。

何かに一心不乱に祈るような姿は、汗や身体の硬直からも見て取れる。

その姿は、いつかに愛する少女が言っていたことを思い起こさせる。

 

『誰』。

『何故』。

 

前者は既に知っていて。

後者は知っていても知らなくても関係のないこと。

 

ただ、今関係するのは『それを見た』という事実。

 

神樹サマの内部、という特殊な場所で。

その少女が佩いた刀の持ち主を知っていれば。

自ずと、それを見せた相手は想像はつくのに。

それ自体をあ(・)り(・)え(・)な(・)い(・)、と断ずる自分もいる。

 

(俺(・)に(・)は(・)、(・)神(・)託(・)を(・)受(・)け(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)能(・)力(・)は(・)欠(・)片(・)も(・)な(・)い(・))

 

それは嫌というほど知っている。

 

未来を識る能力は、無垢なる少女にのみ与える神の慈悲の一片で。

現在を識る能力は、何方の属性をも担う例外が得てしまった異常。

過去を識る能力は――――遺った存在が、口伝にて語るのみで。

 

だからこそ、今見ているのは現(・)在(・)ということになるが。

 

俺に伝える理由がない。

俺と繋がる理由がない。

もっと、目を掛けるべき対象は幾らでもいる筈なのに。

 

(二柱を経由する、ならまだ分かる)

 

神に血縁関係、という言葉が正しいのかは別として。

実際にそういった繋がりを持つから、あの二人は何処からか力を得ている。

 

俺……そして勇者達からの信仰という種火はあるにしろ、それは大元にしかならず。

其処に焚べる要素を何かから得ている――――恐らくそれは、蓄えてきた力其の物と。

そして神樹の総体のうちの一部から得た力なんだろう、と推測しているからこそ。

 

繋がりから流入する、という例外を納得の上で受け取れる。

 

しかし、そうでないのなら。

浮かんでしまうのは、自身と神樹の中心の……地の王との合(・)致(・)点(・)。

そして、その合致点から来る刀の同一視による混線。

現在地と、繋がってしまったことから浮かぶこと。

 

神が見せているのではなく、俺が神の視点を見てしまっている。

そんな事が起こるはずも、起きて良いはずも無く――――。

 

「――――――――!」

 

何(・)か(・)に(・)見(・)ら(・)れ(・)る(・)、と思う一瞬前。

冷や汗で肌着を湿らせながらに飛び起きる。

 

(…………何、だ? 今の悪寒が、荒御魂の本性?)

 

はっ、はっと息を切らせながら自分の体が震えているのが分かる。

奇妙な程に寒く、冷たい。

それは自分だけが感じているはずだと分かっていても、落ち着くまでに時間を要する。

 

殺気、という言葉では生温い。

負の感情を個別に切り分けるのではなく、全てを混ぜ合わせて。

そのままの混沌を滲ませ、増幅したような感覚。

 

もしアレが『精霊』の大元に接続するもので。

天ノ逆手の主成分であるのなら。

俺は、改めて初代勇者達を尊敬する。

 

それ程までに、受け入れるのに時間を要するナニカと直面し。

けれど。

心が揺れない自分にも違和感を感じながら、何処か納得する自分もいて。

 

「おーじ、さま……?」

 

荒い息と、咄嗟の行動に起こしてしまったのか。

隣で眠っていた杏さん――気付けば寝袋の側面に片手が掛かっていた――も目を覚ましてしまう。

 

反対側からは、小さな寝息が二つ。

どうやら他の二人は起こさずに済んだようだけど。

 

「…………悪い、起こした?」

 

「……い、ぇ。 それ、よりも……顔、真っ青、ですよ……?」

 

未だに震えは収まりきらない。

それが顔にも出たのか、小さな……寝惚けたような声で指摘が入る。

 

いつかの、そのちゃんの時のような。

複数人数、勇者と巫で眠った時に見た奇妙な夢。

これは――――偶然の合致、と処理して良いことなのか。

 

「……ちょっと、不味いモノを見てさ」

 

ただ、それをそのまま話す気にはなれなかった。

 

場所、時間、状態。

そのどれもが伝えるには不都合で、そして不確定で伝えていい相手でもない。

 

「ここから帰ったら……相談してもいいかな?」

 

「…………私に、ですか……?」

 

うつら、うつらと。

意識を保とうとしているのか、半ば寝ているのか。

夢遊している、とでも表現できそうな状況の杏さん。

 

余り体力があるわけではない、という彼女の自己申告もあったし。

単純に寝てもらった方が今は良い、と判断して――――。

 

「……勿論、です、けど」

 

微かに、唇が揺れて。

微かに、言葉が紡がれる。

 

「……怖(・)い(・)、なら…………こう、しましょ、うか?」

 

多分、寝惚けてだとは思うが。

彼女の手が伸び、胸元に抱き寄せられる。

 

否定も、拒否するような隙間も無かった。

言葉と言葉、行動と行動の空隙に入ってきた行動。

 

「昔…………タマ、っち……先輩に、してもら…………った」

 

最後まで言い切ることはなく。

そのままに、瞳を閉ざして眠りに付く。

微かな寝息、静かな心音。

そんなものが、彼女の肌を通して耳に伝わってくる。

 

そんな音に――――いつかの。

せんちゃんの時のような安心感を思い出す。

 

(……年上に、弱いのかなぁ)

 

多分、引き剥がそうと思えば剥がせるのに。

そうしようと思わずに、されたままになっているのは。

震えを、一時だけでも忘れられるから。

どうでもいいことを考えていれば、妙な方向に思考が向かないから。

 

そうだ、そうに違いない。

そんな事を――――自分への免罪符に。

 

心音に合わせるように。

ゆっくりと、目を閉じていた。

 

今だけは……何も考えたくはなかった。

 

そして……そんな光景さえも、満月は観測していた。




・雑魚寝とか添い寝とか体験しまくってますね天理君。
・まあそうしないと摩耗が回復しきらないっていう理由もあるとはいえ。

ぶっちゃけ現状誰が好き?

  • わっしー
  • 銀ちゃん
  • そのっち
  • ぐんちゃん
  • 国土さん
  • あんずん
  • その他達
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