葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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鋪-12

 

樹海の中で眠ること一日。

 

勇者としての力を移動に全力で振っても、それだけの距離があり。

そしてこれでも短くなっている方だ、というのはげんなりさせるには十分だった。

 

「さて」

 

そうして、捕まっているだけとは言え疲労を覚えながら。

特に運動が苦手そうな二人の疲労が酷かったが、謎のマッサージで疲労を翌日に残さずに。

やってきたのは、良く分からない……俺の頭頂部ほどもある草が生い茂った草原だった。

 

「うーん、着いたー!」

 

「……友奈さん、前にもいいましたけど。

 私達、そんなに体力があるわけじゃないんです、よ?」

 

「疲れました……」

 

尚、二日目も同じような状態が続いたので結局前日終了時と然程変わらない結果に終わる。

筋肉痛が残らないのは今だから、らしいが。

 

……二度目はそれなりに長期間見込む必要もあるようだし、覚悟しないとな。

 

「え、じゃあまたマッサージする?」

 

首を傾げながらの質問。

そうすると顔を青くしながら首を振る二人。

一体昨日何があったのか、流石に現場は見てなかったので知る由もないのだが。

 

「……話進めていい?」

 

「お願いします」

 

このまま立っていても仕方ないし、同時に帰れるわけでもない。

話を振れば、助けられたとばかりに反応を示した亜耶。

 

……当たり前のことをしているはずなのに、妙に仕事をした感が出たのは何でだ。

 

「この先に……えーっと……目(・)的(・)の(・)神(・)がいる、でいいんだよな?」

 

結局、道中で他の神具の神と会えなかったのは致し方ない。

代わりにたかしーという勇者であり、神である存在と友誼……というか契約? なのか?

まあ、知り合えたのはそれなりに大きいと思っているが。

 

「うん。 この高さの草原があるなら間違いないよ」

 

「どういう基準で語ってるんだ……」

 

その彼女が言うなら間違いないと思う。

 

実際、口で上手く説明できないらしいのだが……。

『こういうモノ』『こういう証を持つ』と言った幾らかの特徴が頭の中に残っているらしい。

 

その辺の説明も亜耶頼りで、そしてその神の名称は杏さん頼りで。

俺がするのは本当に対応とか、相談とか。

実務面対応みたいな、明らかに間違ってる役割なんだけれども。

 

「まあ良いや、中踏み込んで良いのか?」

 

「え~っと……ちょっと待ってね。 亜耶ちゃーん、解説お願いー!」

 

「は、はぁ」

 

今まで聞いた中で一番感情が籠もった返事だった。

 

まあうん、神託をそんな使い方しようとすればそうもなるよな。

もう少し重みがあると言うか……乱発できるものでもないはずだし。

そして、それなりに体力を消耗するものの筈なんだが。

 

「……悪いけど、これに関しては直(・)接(・)言(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)い(・)け(・)な(・)い(・)の(・)。

 私よりずっと偉い、神様の試練だから」

 

だからこそ。

そんな言葉を聞いたのは、彼女の直ぐ近くにいた俺だけで。

目線を向けても一切反応せずに、微かに唇だけを揺らす。

 

「巫女と、巫女が見定めた勇(・)士(・)が受ける試練。

 いつかの再現――――だから、天理君」

 

君(・)が(・)頑(・)張(・)っ(・)て(・)、と。

唐突に投げ渡されたバトンに目を白黒しながら。

事態は待たずに進行し続ける。

 

勇士。

多分、今こうして口にするのは俺達が普段扱う言葉の勇者でなく。

嘗て、神の時代に起こったことを再現する為の代表者。

 

普段、亜耶が俺に対して口にしていた勇者と同じ意味。

 

「…………光、風…………赤い、火?

 そして……真ん中に…………え、ええっと」

 

むむむ、と何かを送るように力を込め。

数秒後に、頭を抱えながら何かを視る巫女の姿。

 

ふらり、と脚をふらつかせたので肩を支えて落ち着かせ。

荒い息と共に漏れる言葉と、それを理解する彼女の体調を心配する。

 

「ちょっと私もきゅーけい……それで、分かった?」

 

「少しお待ち下さい……大赦で視る時よりは、負担は、軽いのですが。

 それでも頭痛は、するので……」

 

「友奈さん、大丈夫ですか!?」

 

「あー……うん、ちょっとフラッとしただけだよ。 アンちゃん」

 

使った当人は然程でもなく。

受けた側の負担は大きい。

 

恐らくこの差は、現状肉体を持つか否かに依存するものでもあり。

同時に見るための難易度の差でもあるのだろう。

 

「大丈夫? 水でも飲むか?」

 

「……いえ。 でも、有難う、ございます」

 

多めの水分も必要だったからこそ、荷物の量が増えたという事情もある。

恐らくは負担の一つにそれもあったと思うが、疲労以外はそれを見せることもなく。

無理矢理に作った笑顔を浮かべる姿に、胸の奥に言いようのない感情が浮かぶ。

 

「……視(・)え(・)ま(・)し(・)た(・)。

 踏み込むにして……も、きちんと挨拶は必要です、ね」

 

「挨拶? 何に?」

 

「……御神刀……に近い、神の刀……剣、です」

 

途切れ途切れになる言葉を、背中を支えながら。

ごく近くで、小声で呟く言葉を聞き逃さないように耳を欹てる。

 

彼女との距離は異様と言える程に近く。

何かの間違いがあれば零になりそうな程で――――。

それ程に疲弊し、掠れた声だった。

 

「意思を持つ、剣。 持ち主……を渡った、刀。

 ……神様の意思の宿った、もう一振りの、神様……」

 

「良い、分かった。 礼儀を整えて、だな?」

 

「……お任せ、出来ます、か?」

 

ああ、と頷き。

着ていた上着を脱ぎ、地面に敷いてから彼女を横にする。

 

下は半袖一枚、けれど寒さは感じず。

倒れ込みながらも見詰める目線は、何処かほんのりと赤みを付けている。

 

差し出そうとしていた水筒の口を開く。

口を濯ぎ、手を洗い。

必要最低限の――或いは、此処で出来る最上位の――清めを行う。

 

「…………天理さん?」

 

「アンちゃん、見ててあげて」

 

二人の声が聞こえるけれど。

それを処理する容量がないように、右から左へと抜けていった。

 

何処までするのが求められているのかは分からない。

ただ、今見ているものが最(・)低(・)限(・)の(・)礼(・)儀(・)であるとするならば。

相手が、ワカと同郷の存在なのだとするならば。

 

俺に出来るのは……彼等から聞いた、嘗ての言葉を。

彼等にのみ向けられた、地の神へと捧げる拝詞を捧げることだけだ。

 

草原に向き直る。

 

ひやり、とした温度が首元に走るのが分かった。

大きく、一度息を吸い。

 

「畏み畏みも白す(おそれおおくももうしあげます)」

 

決して間違えられない、奏上を捧げ始めた。




・祝詞言葉は意識して変えて設定しています。
・そのまま利用すると天照大神とか天孫降臨とかの話題に踏み込む関係上、ゆゆゆだと採用しづらすぎるので。

帰宅前あんけ~と

  • たかしー
  • 亜耶ちゃん
  • あんずん
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