葦原天理は巫覡である 作:氷桜
奏上。
人から神へ言葉を捧げる行為。
普段からしている、何処か気安いものでなく。
更に一歩踏み込んだ、神事に用いられたモノ。
そして、その性質上特定の神に捧げる奏上文も存在するし。
その反対――――汎ゆる神を対象とするモノもある訳だが。
今回の言葉はもっと単純で。
相手を狭め。
しかし、神を拝する内容だったはずだ。
「
一歩。
草原の内側に踏み込む。
少しばかり、首元への寒気は消え。
代わりに、軽く何かが触れたような気配。
首元へと手を当てなくても分かる。
微かに感じる、先程までしなかった鉄臭い匂い。
薄皮一枚、何かが俺の首を
「
更に一歩。
表面のみを舐めるように滑る冷たさは、痛みを然程感じさせない。
剣に宿る神……或いは刀を持ち得た神は、恐らくは戦神。
戦うことをも誉れとし、血そのものを穢れとしない種別の神。
冥府の、張り付くような……魂を侵食するような闇とは違う。
生きているからこそ、薄皮一枚の下を通る赤い体液だからこそ。
単純に”それ”のみを嫌うわけではない――――地母神にも繋がる考え方。
産み、育て、それを護るために戦い、それを支える。
その根本とも繋がる存在だからこそ、恐らくは今
圧し潰れて、漏れていた赤い液体を思い起こさせ。
けれど、それを喉元へと押し込みながら。
背後で見詰める三人の視線を背負いながら、更に進む。
「
呟く言葉。
土地神に、精霊に迎合する言葉。
天の神という敵に捧げる言葉を持たず。
俺自身の立ち位置をも示すように、捧げる言葉を選んで口にする。
ただ、それでも。
精神的な部分でのみ此処に立っているからだろう。
俺という存在が何方にも踏み込んでいる事を、恐らくは察してくれたのか。
刃圏が、少しだけ和らぎ。
終わりへと向け、更に紡ぐ言葉を増す。
「
自身の決意。
何をするのかの宣告。
けれど、それは誰の為なのか。
本来であれば世の為人の為。
そう捧げるのが正しく、神々にも尊ばれる基本的な言葉。
けれど――――俺は。
もっと独善的で、自分の為でしかない。
少女達を救おうと思うのも、結局は俺の快不快にも関係している。
誰かの為に身を捧げる。
外から見ればそういうことで。
内実、何処まで掘っても……『友奈』の名を持つ二人へは勝てるはずもない。
そう、俺は識っている。
「
だから、誓うのは結局己の為。
そして、神に宣言する言霊は彼女達の為。
『――――強欲なことだ』
何か、少しばかり笑うような。
空気の変動のような、耳鳴りを耳にして。
「
言葉を、祝詞を紡ぎ終える。
本来は神社、或いは神一柱一柱に対応する言霊が存在し。
それを奏上するのが正しくはあるのだけど。
今の言葉は、神へと礼儀を尽くすと同時に自分の意思表示。
『礼儀がないわけではない』
『文化を踏まえている』
その二つを大前提とし。
『俺自身はこういう人間だ』と、言語化する。
人であるから出来ること。
変わってしまっては、他者から変えられてしまう存在では出来ないこと。
その間を繋ぐ、巫だからこそ伝えられること。
そして、更に一歩を踏み出して。
「…………ぉ」
途端に、目の前の風景が開けて視えた。
高い草は円状に刈り取られ、その中央に刀が刺さっている。
少なくとも、作られて四桁以上の年月が過ぎているはずなのに。
その切れ味や、鋭さに陰りは無いように思える。
(……それに……何だか、この辺りの空気澄んでる、か?)
神域の空気に慣れているからか。
或いは、そういったモノに敏感になったからなのか。
この空間に踏み入れた瞬間から何かが変わった、というのは実感した。
結界、と言うにも違うような。
単純な神域、と呼ぶにも異なるような。
そんな不可思議な神気が刀の辺りから漂い、自然とそちらへ目が向いてしまう。
「ワカ……天若日子の巫覡として参りました」
そうして、誰の代理かを告げる。
当人(当神?)が来れないことは恐らく相手も承知の上。
であれば、名前を出せばそれなりに理解してくれると思うのだが。
「助力を、お願い出来ませんでしょうか」
用件を告げる。
事前に伝えておく、とは言っていたが――――さて。
『精神は理解した、心肝も良いだろう。 さて……問題は力だが』
また一つ、聞き取れない何かが聞こえた。
それは、俺が未だに未熟だからなのか。
或いは人にはそもそも理解できない故なのかは、判断が付かず。
『次に見定めるとしよう――――若き巫覡よ。 今は去るが良い』
ただ。
確かに、
必要なものや出来事など、何も分からないままで。
向こうが考え、決めた物事。
それに口を出すことも、その猶予もなく。
気付けば。
「…………え?」
「……天理さん?」
「え、あれ……何で此処に!?」
入る時に踏み込んだ筈の、樹海の前に立ち尽くしていて。
「……明日の日暮れと同時に送り返す、ってさ」
理解が追いつかないまま。
一方的に告げられた言葉に――――脳が追いついていなかった。
・ベースは神棚拝詞、後はこいつの独自要素とかを組み込んでいます。
・『上里ひなたは巫女である』本文内にて示されている祝詞ともまた別物です。
・帰る前のヒロインアンケートを仕込んでおくので暇なら投票宜しく。
帰宅前あんけ~と
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たかしー
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亜耶ちゃん
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あんずん