葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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鋪-13

 

奏上。

人から神へ言葉を捧げる行為。

 

普段からしている、何処か気安いものでなく。

更に一歩踏み込んだ、神事に用いられたモノ。

 

そして、その性質上特定の神に捧げる奏上文も存在するし。

その反対――――汎ゆる神を対象とするモノもある訳だが。

今回の言葉はもっと単純で。

相手を狭め。

しかし、神を拝する内容だったはずだ。

 

「此の神域に仰ぎ奉る(このちにあおぎまつる)、掛けまくも(ことばにだしもうしあげる)畏き(こともおそれおおい)……産土大神(とちがみ)よ」

 

一歩。

草原の内側に踏み込む。

 

少しばかり、首元への寒気は消え。

代わりに、軽く何かが触れたような気配。

 

首元へと手を当てなくても分かる。

微かに感じる、先程までしなかった鉄臭い匂い。

薄皮一枚、何かが俺の首を削(・)っ(・)た(・)。

 

「大前を拝み(ごぜんをはいして)奉りて(つつしみ)、恐み恐みも白さく(もうしあげます)」

 

更に一歩。

 

表面のみを舐めるように滑る冷たさは、痛みを然程感じさせない。

剣に宿る神……或いは刀を持ち得た神は、恐らくは戦神。

戦うことをも誉れとし、血そのものを穢れとしない種別の神。

 

冥府の、張り付くような……魂を侵食するような闇とは違う。

生きているからこそ、薄皮一枚の下を通る赤い体液だからこそ。

単純に”それ”のみを嫌うわけではない――――地母神にも繋がる考え方。

 

産み、育て、それを護るために戦い、それを支える。

その根本とも繋がる存在だからこそ、恐らくは今確(・)か(・)め(・)て(・)い(・)る(・)。

 

圧し潰れて、漏れていた赤い液体を思い起こさせ。

けれど、それを喉元へと押し込みながら。

背後で見詰める三人の視線を背負いながら、更に進む。

 

「大神等の(かみがみの)広き厚き御恵みを(ひろくあついめぐみを)辱み奉り(もったいなくもいただき)。

 広く尊き地神のまにまに(かみのおしえのとおりに)、直き正しき眞心もちて(きよくただしいこころをもち)」

 

呟く言葉。

土地神に、精霊に迎合する言葉。

 

天の神という敵に捧げる言葉を持たず。

俺自身の立ち位置をも示すように、捧げる言葉を選んで口にする。

 

ただ、それでも。

精神的な部分でのみ此処に立っているからだろう。

俺という存在が何方にも踏み込んでいる事を、恐らくは察してくれたのか。

 

刃圏が、少しだけ和らぎ。

終わりへと向け、更に紡ぐ言葉を増す。

 

「己の道に違ふ事無く(みずからえらんだみちにしたがい)、負ひ持つ業に負けず(みずからのつとめにまけず)……身健に(けんこうのままで)」

 

自身の決意。

何をするのかの宣告。

けれど、それは誰の為なのか。

 

本来であれば世の為人の為。

そう捧げるのが正しく、神々にも尊ばれる基本的な言葉。

 

けれど――――俺は。

もっと独善的で、自分の為でしかない。

少女達を救おうと思うのも、結局は俺の快不快にも関係している。

 

誰かの為に身を捧げる。

外から見ればそういうことで。

内実、何処まで掘っても……『友奈』の名を持つ二人へは勝てるはずもない。

そう、俺は識っている。

 

「己(・)の(・)為(・)、(・)我(・)が(・)背(・)と(・)呼(・)ぶ(・)乙(・)女(・)の(・)壮(・)健(・)の(・)為(・)」

 

だから、誓うのは結局己の為。

そして、神に宣言する言霊は彼女達の為。

 

『――――強欲なことだ』

 

何か、少しばかり笑うような。

空気の変動のような、耳鳴りを耳にして。

 

「盡さしめ給へと(つくさせてくださいと)、恐み恐みも白す(つつしんでもうしあげます)」

 

言葉を、祝詞を紡ぎ終える。

 

本来は神社、或いは神一柱一柱に対応する言霊が存在し。

それを奏上するのが正しくはあるのだけど。

今の言葉は、神へと礼儀を尽くすと同時に自分の意思表示。

 

『礼儀がないわけではない』

『文化を踏まえている』

 

その二つを大前提とし。

 

『俺自身はこういう人間だ』と、言語化する。

人であるから出来ること。

変わってしまっては、他者から変えられてしまう存在では出来ないこと。

その間を繋ぐ、巫だからこそ伝えられること。

 

そして、更に一歩を踏み出して。

 

「…………ぉ」

 

途端に、目の前の風景が開けて視えた。

 

高い草は円状に刈り取られ、その中央に刀が刺さっている。

少なくとも、作られて四桁以上の年月が過ぎているはずなのに。

その切れ味や、鋭さに陰りは無いように思える。

 

(……それに……何だか、この辺りの空気澄んでる、か?)

 

神域の空気に慣れているからか。

或いは、そういったモノに敏感になったからなのか。

この空間に踏み入れた瞬間から何かが変わった、というのは実感した。

 

結界、と言うにも違うような。

単純な神域、と呼ぶにも異なるような。

そんな不可思議な神気が刀の辺りから漂い、自然とそちらへ目が向いてしまう。

 

「ワカ……天若日子の巫覡として参りました」

 

そうして、誰の代理かを告げる。

当人(当神?)が来れないことは恐らく相手も承知の上。

であれば、名前を出せばそれなりに理解してくれると思うのだが。

 

「助力を、お願い出来ませんでしょうか」

 

用件を告げる。

事前に伝えておく、とは言っていたが――――さて。

 

『精神は理解した、心肝も良いだろう。 さて……問題は力だが』

 

また一つ、聞き取れない何かが聞こえた。

それは、俺が未だに未熟だからなのか。

或いは人にはそもそも理解できない故なのかは、判断が付かず。

 

『次に見定めるとしよう――――若き巫覡よ。 今は去るが良い』

 

ただ。

確かに、何(・)か(・)を(・)見(・)定(・)め(・)ら(・)れ(・)た(・)、というのは分かった。

 

必要なものや出来事など、何も分からないままで。

向こうが考え、決めた物事。

それに口を出すことも、その猶予もなく。

 

気付けば。

 

「…………え?」

 

「……天理さん?」

 

「え、あれ……何で此処に!?」

 

入る時に踏み込んだ筈の、樹海の前に立ち尽くしていて。

 

「……明日の日暮れと同時に送り返す、ってさ」

 

理解が追いつかないまま。

一方的に告げられた言葉に――――脳が追いついていなかった。




・ベースは神棚拝詞、後はこいつの独自要素とかを組み込んでいます。
・『上里ひなたは巫女である』本文内にて示されている祝詞ともまた別物です。

・帰る前のヒロインアンケートを仕込んでおくので暇なら投票宜しく。

帰宅前あんけ~と

  • たかしー
  • 亜耶ちゃん
  • あんずん
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